マンキンでアオ
身体能力は人外 転成トリップしてるから巫力も人外 持ち霊は玉藻 傘にオーバーソウルすると真っ黒の傘になって他者のオーバーソウルを貪り食うチート どっちかと言えば体術で殺すのがしゅみのためうんざりしてるらしい オパチョ愛してる 可愛いは正義 ハオ様大変だなー心読めて でもプライバシー侵害やばくね?って感じでハオに対し悪意や恐怖微塵もないどころか興味があるか怪しいため気に入られる ご飯に釣られてハオ一派へ 別に仲間意識とかは特にないので葉達ともお話するのに抵抗はない ふらふらお小遣い貰ってパッチ村で買い食いしてるのを目撃されている
「オパチョー猫だよ」
ぷらんと気怠そうに目を細めた猫を眼前に晒されオパチョと呼ばれた少年は目をパチクリさせた。可愛いモノが目の前に2つも。猫を抱えた少女は顔を綻ばせた。
パッチ村にも野良猫が居るらしく足元に擦り付いてくるのを確保して来た。黒く艶艶した毛並みに青い目。広く知られる気質通り気紛れのようで地面に下ろせばさっさと離れて行った。そんなところも可愛い。
「行っちゃった…」
触り損ねたオパチョが残念そうに呟く。猫が向かう先に大柄の茶色い猫と赤茶の細い猫が待っていた。草臥れたように毛並みが荒れた猫に黒猫は頭を擦り付け甘えている。それを面白くなさそうに赤茶の猫が黒猫の首に噛み付いて引き寄せた。どこかで見たような光景に目を見開き息を止めた。徐に黒猫が振り向き、自身と同じ濃い水色の瞳と見つめ合う。
「にゃあん」
2匹の猫にわざとらしく擦り寄った黒猫は甘ったれた、何処か馬鹿にしたような鳴き声を上げて姿を消した。2匹の猫もそれに習い立ち去る。2匹は振り向く事はなかった。
「アオ…?」
オパチョの不思議そうな声に我に返った。最初から居なかったかのように猫が居た痕跡は残されていない。まるで白昼夢のようだった。
「おつかい、行かなきゃ」
「…そうだったね」
そういえばハオがパン食べたいとかワガママを言い出したから買い出しに来たんだった。オパチョからの視線が痛い。そりゃ猫見て物思いに耽っていたら気になるよね。しかも恋慕に近い感情なら余計に。
心が読めるハオとかオパチョも大変だ。しかもオパチョは勝手に感情が流れ込んでくるらしい。物騒な事を考えてたり本能のままに振る舞うと怯えられる。そりゃ獲物を前にした団長みたいになってたら怖いよね普通。私はぞくぞくするから嬉しいけど。
「…寂しい?」
不意にオパチョから問いかけられた疑問。寂しい?何が?猫が?目を丸くして黒い目を見下ろす。澄んだ黒曜石のような瞳が全てを見通すかのように見上げていた。
「アオ、猫見てから変」
「かなしいのとうれしいのとすきなのとごちゃ混ぜでよく分からないけど、今は心が足りてない」
「…なるほど、」
心が不足しているとは言い得て妙である。団長と阿武さんが居ない世界をそれなりに平然と過ごして来れたのはアオが気付かないふりをして来たからだ。最初から致命的に欠けていた部分を、目を逸らし続けて来た今世に存在しないモノを見せ付けてきたのはあの黒猫。もしかしたら「ざまぁみろ」と鳴いていたのかもしれない。
「そうなのかも知れない」
生まれた瞬間から心臓がない生き物みたいなものだ。生きるには圧倒的に足りないモノがある。繋がれた小さな掌に力がこもる。今この瞬間に、この柔らかくて小さな生き物が失われたとしても今の私は何か感情を抱けるのだろうか。急速に景色が色褪せていく。息をする事すら億劫になってきた。
「アオ…」
オパチョが怯えている。だけれども今の私が微笑んで見せたり抱きしめても逆効果にしかならないだろう。子供は唯でさえ感情の変化に敏いのだから。問いかけた直後から急激に生気が枯渇していく人間が隣に居たらそりゃ怖いだろう。私は夜兎だけども。
「パン買いに行こうか」
「…」
するりと繋いだ手が離された。再び手を伸ばされる事はなく、不自然に視線が逸らされた。たった数分前ならば嫌われたかと嘆き悲しみ嫌がるオパチョを抱き締めただろうが今は全くもってそんな気にならなかった。決して埋められることのない欠陥を突き付けられて生きている意味さえも分からなくなってしまった。
「あの時、」
あの時は予想外に敵の数が多くて緻密に練られた策と罠に苦戦して、うっかり左手と左目を無くした。最後にどうにか追い詰めたと思ったら建物ごと自爆された。叩きつけられて血反吐を吐いていると鉄骨が頭上に降ってきた。自分の所じゃなくて、血の赤で緋色を深くした団長の上で。潰れた左足を引き千切って思い切り突き飛ばす。珍しく目を見開いた団長は阿武さんが受け止めてくれた。焦ったような2人の顔が面白くて思わず笑ってしまった。笑い声の代わりに唇から零れたのは血の赤だけだったけど。鉄骨に縁があるらしい。人間の私を殺したのも鉄骨だった。恐らく瓦礫に潰されてまともにに死体も残ってはいないだろう。酷く満足していた死だったのに。なぜか私はここで息をしている。
「…シャーマンキングになれば何でも願いが叶うんだっけ?」
パッチ村のどこからでも見える輝く魂の炎を見上げる。目を凝らせば夜兎の目には混ざり合う幾多の魂が精彩に見えた。あの中に2人の魂が混ざる事はあるのだろうか。
「シャーマンキングになりたいの…?」
「まさか」
この村に来てるシャーマンは様々な願いを秘めて此処に集まっているというのにアオはあっさりと否定した。アオが真に関心を抱くモノはたった2つだけだ。その存在がない世界の神だなんて道端の雑草くらいに興味がない。
「ハオ様にお願いするんだよ」
私のお願いを叶えるか、否か。叶えてくれないなら仕方ない。この村から一人もシャーマンが居なくなれば私がシャーマンキングになれるだろう多分。一番の強敵はハオだけど玉藻が持ち霊食えば多分殺せる。人間よりは遥かに夜兎は頑丈だ。他も然り。そういえば予選参加してないけど良いんだろうか。願いが叶えばこの世界に用はないので私が居ない世界を、原作通りの世界をやり直してもらおう。
「アオ…元気出た?」
俄然生きる理由ができた自分をオパチョが不思議そうに見上げてきた。隣で死人みたいになったと思えば急に元気になったらビックリするよね普通。
団長と阿武さんをあっちから呼び出して貰ったら何をしようか。どの方法が幸せだろうか。考えるだけで楽しい。あの時をやり直して貰おう。絞殺か、心臓を貫かれるか、なるべく痛いのが良い。文字通り死んでも忘れないだろう。
「アオ、怖い事楽しそうに考える…」
死に際をシュミレーションしているとオパチョに怯えられた。だけど今度は手を伸ばしたら繋いでくれた。最終手段で貴方の愛するハオ様殺そっかな☆って考えてるけど良いんだろうか。
「大丈夫、ハオ様強い。ハオ様勝つ」
「なら私の願い事叶えてくれると思う?」
「ハオ様優しい」
だからダメ。と小さな口が否定する。笑顔で生きたまま荼毘に付す彼が果たして優しいのかどうか甚だ疑問だがなんで優しいからダメなのか。優しいなら叶えてくれたらいいじゃない。
「アオ死んだらオパチョ悲しい」
「…へ?」
きょとんと目を丸くしたら小さな体がしがみ付いて来た。いつもの癖で抱き上げるとぎゅっと首にしがみつかれた。僅かに震えている、ようだ。
「オパチョ死んだら悲しい?」
「もちろん」
可愛がっているオパチョが居なくなったらハオ組にいる意味が半分無くなってしまう。もう半分はタダ飯が理由である。
「オパチョも一緒」
アオ死んだら悲しいと呟くオパチョ。なにこの可愛い生き物。前世もその前も子供産んだことないけど我が子並に愛しい。これは生きる理由が1つ増えましたね。たしか最後の最後にハオの暴走止めるのってオパチョだったよね、お星様になるとかなんとか。その心にハオが胸を打たれた云々。可愛いは正義。
「アオはハオ様殺せない」
ハオ様居ないとオパチョ悲しい、と囁かれてはハオ様殺せないじゃないですかヤダー。団長、やっぱり可愛いは力より勝りますよ。そういえば団長にもたまにあざとさと色気で落とされそうになったな。無理やり風呂に一緒に入らされたこともあったけど寝起きの幼さに一番グラってきたね。可愛いは正義。万国共通。
「オパチョの為なら仕方ない」
シャーマンキングになるのは諦めよう。ただ2人に殺されるのは諦められないからハオにお願い聞いて貰えなければ実力行使に出るしかないなぁ。困った。
「大丈夫、ハオ様も可愛いの好き」
可愛いは正義!と話すオパチョが正義です畜生。そんな所まで心読まれてるのか恥ずかしい。待てよ、ハオが可愛いのが好きって言われても何をすりゃいいのさ。色仕掛けでもしろってか。
「いろじかけでハオ様メロメロにする」
そしたらお願い叶えてくれる!と力説するオパチョ怖い。こいつ可愛さ利用して日常的にお願いしてやがるな…恐ろしい子!!ハオも分かってながら可愛いからわがまま聞いてるなダメな大人じゃんか。私もだけど。そして色仕掛けって意味分かってんのかオパチョ。
「…一緒にお風呂入って寝る事?」
お風呂までオプションで付いてやがる…別に風呂入っても寝ても良いけどさ。日常的に団長とやってたし。ただし(紙一重で)性的なやり取りはなかったが。私が風呂入って寝て恥ずかしがるのは阿武さんだけである。阿武さんとそんな事したら嬉しさと恥ずかしさで爆発する。乙女心とは複雑なものだ。
「だんちょーあぶさん一緒に居たらアオ幸せ、アオ居たらオパチョ幸せ」
死ななくても幸せ!とオパチョに力説された。仕方ない、死ぬまで生きよう。今回の生も悪くないかもしれない。
「とりあえずハオ様に色仕掛けするか」
「オパチョもお手伝いする!」
自室でお昼寝中に突然襲われたハオ様は哀れとしか言いようがない。
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