とりあえずは身なりを整えろと風呂に入れられて血を落とされた。着物は無理言って袴にしてもらう。あの太い帯は無理だ。浴衣でもキツいのに。

「髪も青かったのか…」

『?嗚呼、また紫になってたか?』

疎らに束になった髪をつまみ上げてみる。そういえば出会った時には血塗れだったもんな。地の色は無かっただろう。

『傘は?』

「…政宗様の前に行くのに武器を持たせると思うのか?」

『ふぅん…』

別に武器が無くても殺せるけど、と心の中でだけ呟いておく。入浴させてくれた侍女も忍、天井・床にも2匹ずつ。随分な警戒の仕様だ、まぁ妥当だろう。一国の主の警護ともなれば当然か。ウチの団長は…守らなくても大丈夫ですね、うん。阿伏さんもいるし安心だね。

むしろ風呂に入れたのも武装解除の目的だろうな。まぁサッパリしたし、ご飯食えるから文句はないけどね。

さてと、本当の事を話したらどんな反応をするのかな?嘘を付く気は一切ないからね?


「oh…blueだったのか」

『はい』

肩が凝りそうだが敬語を使わないと後ろから首を飛ばされそうだ。勿論それはそれで楽しそうだけど。

「肩っ苦しいのは置いといてとりあえず飯を食え」

『頂きます!』

手を合わせ、箸使いは完璧にしつつも皿の中身をお腹に流し込んで行く。お膳の中身はあっという間に無くなった。当然ながら足りない。驚いた人々の視線は無視して当主に向き直る。

「…小十郎、まだ料理は残っているだろう?」

「…はっ」

次々に運ばれて来る料理をあっという間に平らげた。女中がもう料理が…と呟いているのが聞こえた。え、まだ足りないんだけどな…

『・・・・・・ご馳走様でした』

腹5分くらいで渋々箸を置いた。残念だ。全く腹は満たされてないんだけどな。こんなもんか。

「・・・まだまだ足りないかhunglygarl」

『イエ、オナカイッパイデス』

「嘘付け…客人に満足させないまま箸を置かせたとあっては奥州筆頭の名が廃るって物だぜ…厨の食べ物全て持ってこい!」

『!!!』

「鱈腹食わしてやるって言ったろ?男に二言はないぜYou see?」

『I see my mastar!!』

伊達政宗に対する好感度がUPした。元気よく英語で返事をしたのに回りがぎょっとしたが気にしない。運ばれて来た料理を嬉々として貪る。何度目か鍋を空にして漸く満足して箸を置いた。

『ご馳走様でした!!』

「…その体の何処に入ったんだ?」

呆れたような表情の主にニカッと笑いかけておく。さてと、そろそろ尋問されるかな?

「それでアオ、テメェはどこから来た?」

『宇宙(うみ)の向こうからです』

「…外国って事か」

『はい、この国の生まれではありません』

『死臭と阿鼻叫喚の福音に誘われて』

「あの戦い方はただ者じゃねェだろ?」

『春雨第十二師団に居ましたからね』

「…はるさめ、初めて聞いたな」

『その中で世話係してました』

「世話係…テメェ程の腕を持つ奴がか?」

『私程度の奴は珍しくもないですからね』

「それで、ソイツらとはどうした?」

『置いて行かれました』

「・・・は?」

『とりあえず今のこの国に私1人です』

「十二師団とは、どんな集団なんだ?」

『・・・どんな?うーん、』

春雨から命令された仕事をこなす…あ、そういえば分かりやすい種族名付いてたな。

『傭兵部族ですね』

「…なるほど、それであの戦闘能力か」

『人間じゃないですしね?』

「…Ah?」

「ふざけるな!そんな事を信じるとでも?」

『真実ですよ?私は私の真実を話しているだけ。それを虚偽か真実か判断するのは貴女方でしょう?畳に額を擦り付けて信じてくれと言えば信じますか?違うでしょう?』

―――――ま、貴女方も普通の人間ではなさそうですが…

この世界では刀に雷を纏うのは標準装備なのか?銀魂も色々おかしいけど。

『そうだな、人外ってどうやって証明しようか?』

誰かの頭捻り切ろうか?それとも胴を貫こうか?四肢を千切り取るのも良いかな?どうしましょうか小十郎様?

「・・・もう良い、下がれ」

『はい』

「しかし、freakたぁ…Are you crazy?」

『ふふっYou are anotherそれはお互い様!』

僅かに見開かれた隻眼にニコッと首を傾げてやった。

「面白ェ…益々気に入ったぜアオ!!しかし戦がない時でもこんなに飯食われたらかなわねェ…大飯食らいの木偶の坊は要らねェぜ?」

『なら、普段は鼠取りをしましょうか?』

「テメェ…鼠の意味が解ってんのか?」

頬の傷がヤの付く自営業にしか見えませんゼ小十郎様。ま、渋いおっさん大好きだけど・・・阿伏さんに会いたいな。ぎゅってされたい。団長も、まぁまぁ会いたい。

『勿論!天井裏をこそこそと這い回って情報を盗んでくチューチュー鳴く奴ですよね?』

疑問符を浮かべながら天井に向かって微笑む。最初から気付いてたけどね?今さら逃がしてやらないよ?

『にゃーん!』

床を蹴って天井に飛び付き板を剥がす。慌てて逃げようとした影を引っ掴み引き摺り落とした。腰に跨がり後ろ手に拘束する。派手なオレンジの髪が目の前で揺れた。ついさっき見た気がするんだけど。

『ありゃ?あの時のお兄さん?』

「テメェ、猿!?」

「…ちょ、俺様敵じゃないからね!?」

あ、小十郎様と台詞が被った。まぁいいか。俺様とか何様だコノヤロー。しかも人間じゃないなコイツ。気配はするけど心臓の音がしない。影分身の術ってか?

『どうせ近くに居るよね?』

「ちょ!なにする気!?」

『おりゃ』

額と顎を抱き抱えるようにして回す。ゴキッと気持ちよく首の骨が折れる音がした。うーん、スプラッタな角度に首がイカれてる。周囲が唖然とした中で小十郎様が立ち上がった。

「テメェ!!ソイツは同盟国の…」

『だから偽者だって、ねぇお兄さん?』

「…分身の首折られたの俺様初めて」

痛そうに首を擦りながら登場したのは自分の下に居るお兄さんの本物。分身はサラリと溶けて消えて無くなった。

「しっかしよく分身だって解ったね…」

『良く出来てるね!この分身!』

首をへし折る感触もちゃんとあったよと言ったら物凄く嫌な顔をされた。褒めたのに…

『気配も見た目も本物そっくり。でもね?』

――――心臓の音が聞こえなかったから…

「…この高さの天井に居たのにか?」

『うん。本物のお兄さんはさっきまで池の松の上に隠れてたよね?』

「・・・参ったね」

ちなみにアオの位置から池までかなりの距離がある。夜兎になってからかなり五感が鋭敏になった。ちなみに六感も。さすが戦闘種族という所か。

「心臓の音、か…freakってのも嘘じゃねェのか?」

『兎だからね』

「Ah?rabit?」

『夜兎。夜を、闇を支配する兎。私達は夜兎っていうの』

良い名前でしょう?

「HA!長い耳で良く音が聞こえるってか」

『Yes!』

「なら、普段の仕事は鼠退治だな」

『にゃあん!』

家猫は、ご飯のお礼に鼠取りをするのです



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