『・・・?』

目が覚めると、雨に濡れた草原に丸まっていました。仕事帰りのまま船の寝床で寝てた筈なんだけどな…コートの下までは濡れてない。雫の滴る髪を掻き上げた。

『寒いな…』

息が白い。酷く手足が冷えていた。まぁ暑いよりマシかな、太陽も弱いから傘は必要なさそうだ。

人の手が入っていない森のなかを歩く。あれか?原生林って奴だろうか。それでも白い靄や生い茂る木々に見覚えがある。ここは日本なのか?

『!!』

ピタリと足を止める。人間の時より格段に性能が向上した鼻が嗅ぎ付けたのは懐かしい硝煙と鉄錆の香り。ザワリと血が騒いだのを感じた。あそこには団長も居るのだろうか?

とりあえず、と昂る心を押さえながら地面を蹴った。身を冷やす雨が心地よい。血の臭いに誘われるようにアオは戦場へと足を進めた。




『わお、』

崖の上から見下ろす。入り乱れる人間と雨に負けない臓物の臭いと金属同士の悲鳴。ぞくりと背筋が粟立った、もちろん恐怖ではなく歓喜に。

しかしえらく古い闘い方だ。銃は少なく刀や槍で戦っている。鎧も古めかしく重そうだ。一瞬攘夷戦争かと思ったが天人の姿はない。なら人間同士のこの争いは?攘夷志士と幕府の争いにしては大き過ぎる。

『うーん…』

さて、どうしようか?とりあえずは今の日本ではないようだ。まぁ、一回死んで転成してるし、人から夜兎になってるから今更何があったって驚く事はないだろう。

何より大事なのは、楽しめるかどうか

まずは見ず知らずの戦争に混ぜて貰おう。片端から駆逐して双方を敵に回すのも楽しそうだけど摂理の分からぬ世界でそれは無謀というものだ。片方に味方して恩を売ろうか…上手く行くかな?行かなくてもそれもまた一興。

『青色か…』

よし、自分と同じ色の奴らの味方をしよう。別にどっちでも良いけれど、何かの縁だろう。

『青っていい色だと思わない?』

後ろの木の上を見上げながら首を傾げる。僅かに眼を見開いた男にとびきりの笑みを向けてやる。最上に無垢な表情でわざと舌っ足らずに言っておいた。

『また、お兄ちゃんも遊んでね?』

男の反応を見もせずに崖から飛び降りる。争いの悲鳴や怒声が混じり会う中に身を踊らせた。驚いた表情の男に傘を降り下ろす。猛る本能に身を任せ、理性の鎖から解き放つ。気を付ける事はただ1つ。青色は殺さない。

冷たい頬に温かい赤が散った感触に頬を歪めた。



『・・・つまらんな』

辺りには死体が転がりその中に立ち尽くす。ひとしきり暴れたようだけどまだまだ足りない。何よりちっとも面白くない。抵抗という抵抗がないじゃないか。まぁ死体の中に青いのは少ないから多分殺してないよね。雨が温く血を流して行く。

『!!』

不意に背後から感じた殺気に体が歓喜に震える。笑みが浮かぶのが分かった。振り向きながら雷を纏った刀をかわす。鋭い視線と目が合った。

「テメェ…何者だ」

『私はアオ、お兄さんは?』

「コイツらを殺ったのはテメェか?」

『私以外の、誰だと思う?』

返答が気に食わなかったのか視線が更に鋭くなる。手に持った刀よりも切れ味の良い眼光ってどんなんだ。しかしコイツは誰だろうか?強そうだから殺りたいけど、青の軍の奴なら我慢しなくては。

『お兄さん青い軍?それとも違うの?』

「何でテメェに教えないとならねェ」

『別に教えてくれなくても良いよ?私はどっちでも楽しいし』

「・・・楽しい?」

『さっきは青い奴らの味方をしたんだけど、みぃんな骨が無くてつまらない』

――――お兄さん、遊んでくれるの?

「…気違いが、」

『あはははっ知ってる!!』

強者の匂いを嗅ぎ付け本能が叫ぶ。赤に濡れた刀を構えると同時に突っ込もうとするアオに背後から刀が降り下ろされた。雷を纏う刀が6本。アオを気違いと呼んだ男は確かに目の前にいる。

『6本…?』

飛び退いて見た男は冗談のように刀を3本ずつ持っていた。雷が大地を抉っている。傷口が焼けると治るの時間かかるんだよな、と他人事のように思う。高杉晋助とは逆の隻眼と視線が合う。

「何者だ、糞餓鬼」

『アオ』

「Ah?それが名前かboy?」

『残念ながらgirlなんだよhuman』

「…南蛮語が分かるのか」

『ちょろっとね』

「テメェは敵か?コイツらを殺ったのはテメェか?」

『お兄さん青い軍でしょ?ならお兄さんの仲間は殺ってないよ』

「…テメェはどこの援軍だ?武田が?上杉か?」

『私はどこにも所属してないよ?援軍でもないし』

「なら、なぜ俺らの味方をした?」

『味方?うふふっ…味方、ねぇ?そうだね、結果論としてはお兄さんの味方をしたね』

「政宗様、御下がり下さい。オイ餓鬼…何が目的だ?」

『目的は、そうだね…強い奴と殺り合う事』

「…テメェはアオって言ったか?伊達軍に付く気はないか?」

「政宗様!?」

驚いたような男は三日月の甲冑を身に付けた青年を振り替える。一時はどうなるかと思ったけどなんだかいい方向に進みそうだ。

『良いけど、条件が2つある』

「・・・付け上がるなよ餓鬼」

『おお怖い!殺りたくなるからお兄さん黙っててね?話は最後まで聞きなさいってお母さんに習わらなかった?』

「…テメェ」

『条件そのイチ、私を戦に出すこと。その二は…』

――――お腹一杯ご飯を食べさせてくれる事

「・・・・・・それが条件か?」

怒りで固まった男も唖然とこちらを見詰めていた。私かなり大食いだよ?覚悟してねと言うと青年は腹を抱えて笑いだした。真剣に言ったのに…

「上等だgirl…鱈腹食わせてやるよ!」

『よろしくお願いしますMymastar?』

恭しく手甲の付いた手に膝を付いて口付ける。従者が刀を首筋に当てて来たが気にしない。好んで英語を使っているから、この西洋の騎士のような仕草もお好みだろう。

「気に入ったぜ、アオ…まずは飯を食わせてやる。付いて来な」

『ご飯!』

実は起きてから空腹に悩まされていたのだ。食事に両手を上げて喜んでいると背中から射るような視線。

「俺はテメェを信用しちゃいねェ…妙な事をしやがったら即刻叩き斬ってやる。肝に命じて置くんだな」

『信用してくれなんて誰が言ったの?私は戦えればそれで良いし、それだけで良い。お兄さん達は使える駒が欲しい。giveandtakeって奴だよ』

振り向いてそう言うと男は驚いたように眼を見開いた。

『気に食わなきゃ斬ると良い。私もお兄さんと戦える理由が出来て都合が良いから…待ってるよ?』

丁度先を進む主が呼んでいる。返事をして駆け寄る。タイミングが良かったけれどきっとお兄さんは理解してくれる。私はお兄さんが仕掛けてくれるのを待っているのだから。

『楽しみだよね…』

「Ah?」

『ご飯が楽しみ!!』

阿伏さん、団長、ここは何だか楽しめそうです。





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