『・・・気が狂いそうだ』

「理解の範疇を越えた世界だな」

何故か時代劇の世界(仮)にも女子高生が存在していたので雫はセーラー服のままだ。ただ八雲の刀を見た町人が嫌そうに眉をしかめたのに気付いて慌てて見えなくした位だ。

獣人はアマントと呼ぶらしい。こっち風に言うと宇宙人だ。なんでも侵略してきたらしい…その時に起きたのが攘夷戦争。なんだか微妙に聞いたことがある気がする。そして今は江戸時代らしい…普通にビル立ったり車走ってるんだが。

『通貨は一緒で助かったな…』

普通にコンビニもあり買い物が出来た。流石にカードは使えなかったが。特に物価にも差がないようだ。

「これからどうする?」

『すぐに帰れるとは思えん。とりあえずはこの世界を知らん事にはどうこう出来んだろう』

「鼠を使うか?」

『…そうだな』

猫一匹いない路地裏で大量の鼠を放つ。ぞろぞろと屋根裏や溝などの隙間に消えていった。鼠の目を借りながら情報を集める事にする。

『・・・ん?』

立派な平屋の入り口に鬼の門番を見つけた。2軒並んで妖が家を警護していた・・・同じ祓い屋か陰陽師か。とりあえず片方の家に入ってみる。

『・・・陰陽師か』

見つけたのは色素の薄い優男。白い狩衣を纏っている。かなりの実力者か、鼠が怯えているのを感じる。この男なら話が通じるだろうか…?

「誰だ」

『!』

不意に向けられた視線。草むらに隠れている筈の鼠を真芯に射抜いている。

ヂチッ!!鼠が悲鳴を上げる。食い付かれた喉に痛みを感じ術を解いた。感付かれたか…

「何かあったのか?」

『陰陽師が居た…何か話が解るかもな』

路地裏から出て歩き出す。既に朝が来ていた…寝床も確保しないといけないな。妖の八雲はまだしも人間の自分には野宿はキツい。

「…ここか」

鬼の門番が警戒心丸出しで此方を睨んでいる。八雲が軽く刀の音を鳴らす…警告しているのだ。手を出せばそれ相応の対応をする、と。

『退け、お前らに用はない。それともお前らの主が来客に不躾な対応をしろと命じたのか?』

グルグルと威嚇しながらも鬼達は手を出そうとはしない。ただ、門の前から退こうともしなかった。悔しそうに体の半分程の背しかない少女を睨み付けている。

「・・・来たな」

「下がれ、お前らでは歯も立たん」

カラリと中から門を開けたのはさっき見た男だ。なるほど、鼠が怯えたのも納得出来る。かなりの実力があるのが見て取れる。凪いだ目に強い光が宿っていた。

『…あ』

目の前に歩いてきた男から差し出された物を思わず受けとる。チチッと嬉しそうに鳴いたのは鮮やかな灰色。

「君のだろう?怪我はないから安心して良い」

『・・・ありがとう』

男の言うように元気そうに動いている。見る限り怪我はなさそうだ。

「とりあえず中に入れ、話があるのだろう?」

大人しく道を開けた鬼の間を通り、和室に案内される。屋敷には数多の妖の気配を感じた。

「さて、君の名は?」

茶を持ってきた妖を下がらせ男は問うた。熱い緑茶を受け取り、男の瞳を静かに見つめた。

『神代雫だ』

「儂は結野晴明…見ての通り陰陽師じゃ」

―――――君は?

『ただの祓い屋だ…妖専門のな』

「ほう、妖の祓い屋とな…」

『珍しいか?』

「…鼠を使って辺りを調べていた理由は?」

『・・・単刀直入に聞く』

――――虚、という妖を知っているか?

「うろ…」

『知らないなら良い、用はそれだけだ』

「すまないが儂は知らんのう…」

『そうか、邪魔をしたな』

軽く頭を下げて立ち上がる。後ろの八雲も静かに付いて来た。肩に乗った鼠が残念そうに鳴く。

「その妖に何の用が?」

『・・・祓うべき妖なんだ』

晴明が僅かに眉をしかめた。嘘を吐いたつもりはないが誤魔化したのがバレたか?

「うろ、という妖は知らんが…」

――――役に立てそうな奴を知っている










「ここですよ」

『・・・』

はんなりと微笑む女性が示したのは一軒のスナックバーだった。不審げな視線に気付いたのか袖で上品に口元を隠し、微笑む。

「二階を御覧くださいな」

“万事屋銀ちゃん”という看板を見て更に眉を潜めた少女に困ったような表情を浮かべる女性。八雲はいつもと変わらず、静かに見つめているだけだった。

『・・・胡散臭ぇ』

「ふふふ、そう言われずに…腕は確かですから」

『・・・はぁ、今は藁だろうがなんだろうがすがりたい所だから仕方ないか』

大きく溜め息を吐いた雫。案内の女性が背後を見て目を細めた事に気付いたのは八雲だけだった。

「おいおい、さっきから黙って聞いてりゃ好きな事言いやがってコノヤロー」

呆れたような口振りに驚いて振り向くとそこにはやる気の無さそうな瞳で好きな方向に跳ねている白髪を掻いている男。

「差詰め今は藁ならぬ天パにもすがりたいって所か?」

「銀さん、全然上手くないですから」

「夏だからって気温下げようとしなくてもいいネ」

『・・・ここの主人か?』

「ええ…万事屋銀ちゃんの主、坂田銀時様です」

更に雫の目線が冷めたモノになる。無感動に3人を見て、くるりと背を向けて歩き出す。八雲は静かに後を追う。きょとんとした3人を余所に声をかけたのは案内の女性だった。

「依頼はよろしいので?」

『案内には礼を言う。だがコレを頼るよりは自力で探した方がまだマシだ』

「…ねぇ、コレって僕らの事ですよね?」

「やっぱり新八が眼鏡だからか…」

「なんで僕が眼鏡なのが関係あるんですか!!」

「お前がダメガネだからネ…そんな事より、依頼人アルか?」

そんな事ってどういう事!!と叫ぶ新八に反応する者は居なかった。既に歌舞伎町の雑多な人混みに消えかけた少女を見つけ、神楽は追いかけた。

「お姉さん依頼しに来たアルか!?」

くいっと手を引いたのはさっきのオレンジ色の少女。クリクリした瞳が可愛らしく見上げている。

『そのつもりだったけど…』

「依頼は何アルか?」

『え?だから依頼する気は…』

「あのダメ男達が頼りないならこの歌舞伎町の女王、神楽に依頼すると良いネ!」

『・・・』

依頼を言うまで離さない、と視線が語っている…まぁダメで元々だ。自分達より余程この世界を知っているのだから、単独で探すよりはマシだろう。

『なら、依頼をお願い出来るか?』

「任せるネ!」

途端に年相応に笑った少女が、やけに眩しく見えた。





『依頼は虚という妖の捜索』

眼鏡の少年が出してくれた茶を眺めつつ呟いた。となりで熊ほどの白犬が寛いでいる・・・もうこの世界は何でもありなんだと諦めた。

「妖…とかは専門の奴に頼るべきじゃね??」

『既にそうした。そうしたら今度は此処は紹介された』

――――結野晴明、知り合いだろう?

「あんのシスコン…」

『無理なら別に良い』

冷めた視線が自分を射る。無機質な黒曜石の瞳はただただ光を映すだけ。整った顔立ちには子供らしさなど見当たらない。

「大体よ、お嬢さん学生だろ?ウチも慈善事業じゃな―――――」

『足りないか?』

トン、と机に置かれたのは分厚い封筒。軽く数十万はあるだろうソレに3人は釘付けになった。覗き込んだまま硬直した3人をつまらなさそうに少女は見下ろした。

『別に危ない仕事じゃあない。私達は知らない事が多すぎてまともに動けん。だから代わりに情報を集めてくれればいい。』

「オイオイ…うまい話には裏があるって言うだろ?悪いけど銀さんは騙されないからね?」

「お金数えながら言う台詞じゃないですよソレ」

「今夜はすき焼きアルか!?」

「バカヤロー焼き肉食い放題に行くべきだ」

「ちょ、2人共!!お客様の前で…」

「「御依頼承りました」」

『…そりゃあどうも』




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