枯渇した湖
枯れ果てた草原
死にゆく大地に
慈愛の雨は 降らない
雫は着ていた白いコートを売り払い、代わりに白を基調とする簡素な服を纏っていた・・・やはりフード付きだったが。
目立つ銀髪を纏めてフードに押し込んで深く被り、人混みに紛れ込む。昼を少し過ぎた時間とはいえ行き交う人は絶えない。人混みが嫌いとはいえ人目に付きたくない雫にとっては都合が良かった。
商店街の角を曲がると鮮やかな黄色が目に飛び込んで来て、雫は足を止めた。
『・・・向日葵(ヒマワリ)』
――――懐かしい花だ
店の前で佇んでいる雫に気付いた店番らしき少女が声をかけてきた・・・この娘も向日葵に劣らない位の眩い金髪だ。
「いらっしゃいませ!!どんな花をお求めですか??」
さっき会った九尾憑き…ナルトとかいう名前だったか…と同じ位の年頃だろう少女は愛想良く話かけてきた。
『いや・・・歩いてたら綺麗な向日葵が見えたんでな』
少し見せてくれと頼むと頷き、向日葵はさっき仕入れたばかりなんですよ、と嬉しそうに答えた。
色鮮やかに咲き誇る花達を見回し、そういえば花言葉なんて洒落た物があったなとぼんやり思った。
『・・・向日葵を貰おうか』
「ありがとうございます!!」
この花だけでよろしいですかと聞かれ、辺りを見回すとキラキラと輝く赤い花と細やかに咲く薄紫の花が目に入り、雫は目を細めた。
――――――確か、花言葉は・・・
『・・・ネリネとハナニラも束ねてくれ』
「お買い上げありがとうござ・・・」
言葉が止まった事を不振に思い、視線を戻すと向日葵を片手に此方を凝視する少女と目があった。
――――――目があった・・・??
『・・・あ』
少女が向日葵を取るために屈んだ為、フードの下から雫の顔が見えてしまったのだ。
・・・いのはフードから覗く顔に釘付けになっていた。
人形の様に整った顔立ち
シミ一つない滑らかな白い肌
長く量の多い睫毛に縁取られた海色の瞳
桜色のみずみずしい唇
繊細な輪郭を際立たせるプラチナカラーの髪・・・
女の自分ですら見惚れてしまう程の美貌を持つ目の前の少女。いのは思わず彼女の両手を握り絞めた。
「お姉さん美人ですねっっ!!」
『・・・は?』
突然手を握られてたじろぐ年上の少女を気にもせずにいのはズイッと顔を近付ける・・・驚いた顔も申し分なく綺麗だった。
「どうしてこんな綺麗な顔してるのに隠してるんですか!?」
肌のケアは何してるんですか!?化粧してないですよね!?何歳ですか!?とキラキラした眼で質問攻めにするいの。
『はぁ・・・』
雫は今までにない位に戸惑っていた・・・肌の手入れなんてろくにした事がないから答えようがないし、何よりいつもと違って敵意がない相手に攻撃する訳にもいかない。
こんな時どうすれば良いのか分からず軽くパニックに陥っていると今の雫にとって救世主ともいえる人物が現れ、少女の頭を軽く叩いた。
「コラ!いの!お客様に何してるの!?」
「イタッ…お母さん!!何するのよ!?」
いのと呼ばれた少女は文句を言おうと立ち上がったが母親は相手にせず、早くお花を包んじゃいなさいと言い、雫に騒がしい娘でごめんなさいね、と微笑み頭を下げてから奥に戻って行った。
―――――とりあえず助かった・・・
さっきよりは落ち着いた少女は母親の文句を呟きながらも言われた通りに花を包んでくれた。はい、と手頃なサイズの花束を渡され、代金を渡す時に雫は言った。
『すまないが・・・私に会った事を内緒にしてくれないか?』
「え!?どうしてですか!?」
サクラに自慢しようと思ったのにぃ…と不思議そうに言われ、内心友達に話す前に釘をさして良かったと思いながら、あんまり騒がれるのは好きじゃないんだ、と端的に理由を告げた。
「もし私がお姉さんなら物凄く騒いで欲しいけどなぁ」
そんなに綺麗なのに隠すなんて勿体無い、と本気で残念そうな少女に雫は苦笑いした
『いの…だったか?お前はまだ若い・・・歳を重ねるにつれてもっともっと綺麗になれるさ』
もっとも今でも十分可愛いと思うがな、と付け足すといのは頬を染めて嬉しそうに微笑んだ。
「お姉さんレベルの美人さんに言われるとなんだか自信が付くなぁ〜」
恋をしてると綺麗になるって言うしね!!と無邪気な笑みを浮かべるいのを雫は眩しく感じた。
『・・・花、ありがとうな』
いのに背を向けて歩き出すとまた来て下さいね!!と声をかけられた。軽く手をあげて返事をし、国境へ向けて再び人混みに紛れ込んだ・・・
…美人さんが帰った後、いのはぼんやりと椅子に座りながらまたあの人に会いたいなぁと思っていた。
「おいおい…そんな顔してちゃ客が来ねぇぜ?」
「シカマル!!」
前を見るといつもダルそうなシカマルが歩いてきた。多分アスマの所で将棋でもしてたのだろう・・・ついでだからシカマルにも売り付けようと目論んだ。
「シカマルも何か花買いなさいよ!!」
「・・・要らね〜よ、女じゃあるまいし」
めんどくせー、と口癖を呟くシカマルにムッと来たいのは仕入れたばっかで綺麗なんだから!!と向日葵を突き出した。
「仕入れたばっかにしては・・・量少なくねえか?」
向日葵を指差す彼にさっき買い上げられたのと告げ、…あ!!と思い出したように手を叩いた。
「聞いて!!さっきビックリする位の美人さんが来たのよ!!」
シカマルだって絶対惚れちゃうわよ〜とニヤけるいのを呆れた様に見るシカマル。とりあえず話を聞く為に先を促した。
「銀髪に海色の目をしたお人形さんみたいにすっごい綺麗な人だったのよ!!」
―――――その時、通りかかった黒い衣の人物が足を止めた事に2人は気付かなかった・・・
「銀髪?珍しいな・・・」
「でしょ!!しかもね…買っていった花がまたロマンチックなのよ〜」
―――――あれは絶対恋人にプレゼントするんだわ!!
女のカンに間違いない!!と熱弁するいのに若干引きながら、どんな花を買ったんだ?と先を促した。
「ハナニラとネリネと向日葵よ!!」
「・・・それがなんだよ?」
バカね!!花言葉も知らないの!?と言われてシカマルは男で知ってる奴の方が少ねえってのと心の中で呟いた。
「ハナニラは[愛しい人]… ネリネは[忘れないで]… 向日葵は[私は貴方だけを見つめています]… って意味なのよ!!」
つまり、その花束は熱烈な愛の告白を意味する・・・女が好きそうな話だな、とシカマルは事実目の前でうっとりしているいのを横目に溜め息を付いた。
「・・・ん?」
「どうしたのシカマル?」
「…さっきまでそこに誰か居なかったか?」
「気のせいでしょ・・・あ!!今の話内緒にしてよね!?」
その人に秘密にしてくれって頼まれたのよ、と笑ういの。もう俺に話してんじゃねえかと突っ込むとシカマルは口堅いからセーフ!!と言われてシカマルはまた溜め息が漏れた。
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