――――今はなき彼女の一族。

木の葉が出来て間もない頃に滅ぼされた。他里に稀有な能力を恐れられたのだ。

煌めく銀髪に藍玉の瞳、白磁の肌の端整な容姿と血継限界を持つ美しい一族。

彼女がその最後の1人・・・今はその血継限界どころか一族の名すら知る人はいないだろう過去の一族。

「ありがとうございます」

猿飛は頭を下げた。わざわざ危険を犯し助言をしに来てくれた彼女に敬意を込めて。

『・・・すまない』

痛ましい表情を浮かべる彼女には既に未来が見えているのだろう。そして、その未来には自分が居ない事を猿飛は知っていた。

『・・・来たな』

眉間に皺を寄せ、再びフードを深く被りながら雫は不機嫌そうに呟いた。直後、近づくチャクラに気付いた猿飛は珍しい事もあるもんだと苦笑いをした。

「失礼します!!他里の忍とおぼしき侵入者が・・・」

急いで火影室の扉を開けたカカシは固まった。

・・・それはそうだろう。たった今報告した侵入者が堂々と火影の前に立っているのだから。

ドアを開いた姿勢のまま白い人物を凝視するカカシに呆れた様に火影は告げた。

「落ち着けカカシ、彼女は敵ではない」

彼女、という事は女なのだろう・・・未だ背を向けたままの人物からはさっきのような威圧感が全く感じられず、それが更に恐怖を煽った。


―――――目の前に居ながらにして気配を一切感じない。


計り知れない恐怖を感じながらカカシは渇ききった口を開いた。

「木の葉の忍…ではありませんよね?」

掠れた声で問うと火影はお前も名前位は聞いた事があるじゃろう・・・と呟いた。

「彼女は“吹雪”じゃ・・・」

「!?」

雪の女王に例えられる高名な情報屋。暗部にいた時に何度か耳にした事がある・・・とはいえ、実際に見たのは初めてだが。

カカシは気配が皆無な後ろ姿を眺めながら吹雪が何故[中立情報屋]でいられるのか実感していた・・・


――――ただ単純に、強さの次元が違う。


吹雪からの見えない圧力が出てる気がして気押されそうになり、震えを抑えるためにカカシは爪が食い込む位に手を握り絞めた。カカシを完全に無視している雫を見て猿飛は溜め息を吐いた。恐らく来る前に一悶着あったのだろう。

『用は済んだ…帰るぞ?』

有無を言わせぬ口調で言い放つ雫に猿飛は椅子から立ち上がり深く頭を下げた。カカシが目を見開いたのが気配で分かる。

「では…また会う日まで」

――――それは2人の関係を知らないカカシからしたら異様な光景だったであろう。情報屋に対し、里の最高権力者が頭を下げているのだから・・・もしフードを下ろしていれば、二十歳に満たない少女に老翁がお辞儀するというなんとも奇妙な光景が見えただろう。

『…達者でな、猿飛』

口調は全く変わらないが悲哀を宿す瞳が切なげに細められた。お互いにこれが最後だと分かっている。もう二度と生きて会う事はないだろう。


―――――ごめんな・・・

雫が消える寸前にそう囁いた。声は聞こえなかったが、唇の動きで理解した。やはり彼女は変わらない・・・容姿だけでなく優しさも、昔から。

「・・・火影様」

「なんじゃ?」

「・・・吹雪とは、一体――――」


――――――何者なんですか?貴方とどのような関係なんですか?・・・恐らくそう続くのだろう。


「彼女とは………うむ、古くからの知り合いのようなものかのぅ・・・」

いぶかしげなカカシの表情を横目で見ながら、ついさっきまで彼女が立っていた場所を見つめた。

「・・・まだ縛られておるのですか」


――――――彼女は昔言った。これは血継限界ではなく呪いだと。一族を羨む者の気が知れない、こんな能力くれてやる・・・まだ雫だった時の彼女はそう吐き捨てた。


彼女の願いは叶わない。生物全てに平等に、望まずとも訪れるモノ・・・なのに彼女からは余りに遠いのだ。


―――――彼女に決して訪れぬモノは冷酷に、大切な物を奪って行くというのに。


“神”は 残酷すぎる






なくした    


    大切な物と


いつかまた    


    会える日が


来るかしら?    


瞳を閉じれば色鮮やかな過去


重い瞼を上げればモノクロの未来


   色のない景色の中で


私はゆっくりと目を塞ぎ


愛する貴方が生きた時間の


  夢を見ている




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