夢を見た       



   懐かしい夢だった



木漏れ日が煌めく爽やかな季節


照れ臭そうに貴方は笑う



――――貴方は   


   私を――――・・・








『・・・・・・』

うっすらと目を開くと、ヒビの入った白い天井が見えた。

2、3回瞬きをして長い白銀の前髪をかき揚げ、長い溜め息を付く。

・・・本当に久しぶりだ、“アレ”を見たのは。

ベットから起き上がり、簡単にシーツを直しながらカタカタと音を立てる窓を眺めた。



風の国


五影の1人、風影が治める


砂隠れの里



強い風が吹く度に寂しげな唸り声を上げ、陳列した焦げ茶の建物の間を吹き抜け行く。

・・・もしかしたら砂嵐でも来るのかも知れない。

普段騒がしい筈の商店街には全く人通りが無かった。

砂埃を防ぐ為の分厚いコートのフードを深く被り、少ない荷物を手早く纏めて1夜を過ごした部屋を後にした。

チェックアウトの際、人の良さそうな店員に砂嵐が来るよと引き止められたが、大丈夫だからと断ってホテルをた。

砂嵐が来る前触れの強い風が唸りを上げ、はためくコートの裾がバタバタと耳障りな音を立てる。

砂が舞い上がって視界はかなり悪いが、雫は迷い無く足を進めて行った。


―――進む先には大きく歪な形を建物


瓢箪の様な球形の建造物には“風”のマークがそこに住む者の権力を誇示するように書かれている。

隠れ里の中心に君臨する風影邸に雫は入って行った。


コン  

  コン


「―――入れ」

『情報屋の吹雪です、依頼を受けて参りました。』

部屋の中では若い短髪の男が広い机の上で書類整理をしていた。

その男は雫の顔をネットリと舐める様に見た後、満足げに口角を吊り上げた。

「…ほう、噂は本当だったようだな。」

腰まである美しい銀髪、白雪の如く真っ白な肌、極上の宝石の様な蒼の瞳、腰のくびれた華奢な体格。

“風影”という名と共に、絶大な力と権力を持つ己を無表情で見返す女に興味を掻き立てられた。

―――中立情報屋《吹雪》は、その美貌もさる事ながら、何処よりも新しく正確な情報を持っている―――


《吹雪》の名は表では決して語られない・・・それはつまり、裏ではかなり名が知られている事を意味している。


――――情報屋とは主に誰かに雇われ、雇主の知りたい情報を提供する職業だ。

雇うのは他国の情報を知りたい里だったり、敵対勢力の多い大名だったりする事が多い。

腕を買われれば里や大名お抱えの情報屋になれる事もある。

賃金も高額なので憧れる者も少なくないが、現実には情報屋の数は少ない。

何故なら、かなりの危険を伴う事が多いからである。

命を狙われる事など珍しくもない。

相手側から恨みをかい、殺される事も少なくないのだ。

―――更には、雇った側が証拠隠滅の為に手を下す事もある。

だから、憧れはしても実際になる者は少ないのだ。

そんな職につきながら、


〔 中 立 〕


という位置に立つのはかなりの危険が伴う。

何処にも属さないという事は、味方からの庇護を受けられない所か、無数の勢力から命を狙われる事になるからだ。

・・・それなのにこの吹雪という女は、敵の多い 〔中立〕 を名乗りながらも殺されもせず、裏でかなり有名な情報屋になっている。

つまり情報屋なだけではなく、忍としてもかなりの実力がある事を疑う余地もない。
――――尚且つ、いざ探そうとしたって尻尾すら掴ませない事から吹雪自身の情報も高額で取り引きされている。

実際に姿を見た者は依頼者とて一握りに過ぎない為、一般的な「息を止めてしまうほど美しい」や「雪の女王」という噂から「背中に羽が生えている」やら「実は女装した屈強な男」などというふざけた噂さえまことしやかに囁かれている程だ。

「なるほど・・・この美貌なら《吹雪》も(雪の女王)も相応しい」

一瞬で吹雪の前に現れた風影は指でクイッと顔を上げさせ、吸い込まれそうな藍玉(サファイア)の瞳を覗き込んだ。


「・・・この美しい顔で数多の男をたぶらかしてきたのか??」


風影は決して藍玉から目を逸らさぬ様に、ゆっくりと端正な顔を近づけた。

『・・・それで依頼の内容は??』

吹雪は表情を微動だにさせず唇が触れそうな距離で淡々と言い放ち、風影は浮かべていた笑みを更に濃くした。











『――――それではこれで失礼します。』

情報を渡し、報酬を受け取った吹雪はこちらに背を向け、出口へと歩き出した。

「・・・情報屋《吹雪》、お前は一体何者だ??」

――――しかし、輝く銀は止まる事なく扉に向かう。

「何処の里も躍起になってお前の記録を探しているというのに、全く見つからない・・・」

どれだけ頑張っても自分の記録を消そうとしても、総て抹消する事など不可能だ。


――――それに、五影の情報網ともなれば大体の情報は手に入ると言っても過言ではない。


「例え自分で記録を消去したとしても、何処かに少し位は残っているものだ・・・」

―――これほどまでに記録が見つからないのは、幾ら何でも不自然過ぎる。



「お前は一体何者なんだ」








再び同じ質問をされ、吹雪は漸く足を止めた。


『・・・そういう貴方こそ、何者だ?』


背を向けたまま、感情を滲ませずに吹雪は呟く。


「・・・意味が分からないな」

―――四代目風影に決まっているだろう??



『――――本物の、四代目風影なら先刻里の外でお会いしましたが??』


死体でしたけれど






「・・・・・・」

吹雪は再び歩きだし、一瞬で殺意に満ちた部屋のドアノブに手を掛けた。

『それでは“木の葉崩し”・・・頑張って下さいね』






大蛇丸





ドアから出る瞬間に美しい微笑を浮かべ、吹雪は出ていった。

…その直後、瞬身で暗部の姿をした男が現れた。

「…大蛇丸様、吹雪はどうでした??」

「あらカブト・・・貴方も吹雪に興味があるのかしら?・・・噂通り…いえ噂以上の女だったわよ」


――――それよりも、


「・・・バレていたなんて、予想外だったわね。」


――――正体を暴いてやるつもりが、逆にこちらが見破られていたとは・・・


「こちらの事がバレていたんですか!?」
「ええ、木の葉を潰そうとしている事すら知っていたわよ」


――――まだ、砂にすら持ち掛けてない計画を

「・・・一体、何者なんですか?」

「さぁ?分からないわ・・・」


―――けれど、


「…ますます興味が湧いたわ」

風影に扮した大蛇丸は不気味な笑い声を上げながら、口角を吊り上げた。






  くるくるくるくる


時計の針は止まらない  


  世界は廻り続けるの


ひとりぼっちの私を置いて  


  あの日、秒針は凍てついた


私の時間は進まない  


嗚呼、いっその事この身など朽ち果ててしまえば良い


どんなに時を重ねても私はこの姿のまま、老いる所か成長すらしない、朽ちぬカラダ

うんざりする程の長い時間を過ごし、世界が息を止めるまで生き続ける


終わりなき道を歩き続ける  


道の先にあるのは光か闇か・・・誰にも分からない


過ぎ去ったトキは二度と戻らない

ただただ私は歩き続ける 


それしか、残された道はないのだから・・・




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