――――二度目の別れは酷く、優しかった・・・
ギリギリまで待っててくれた猿飛が2人の師に謝罪を述べ、涙を流した後・・・彼らの魂は死神に喰われた。猿飛も体力が持たず、大蛇丸の術のみを道連れにこの世を去った。
・・・明日、三代目の死を悼む様に雨が降る。
瞳を閉じた雫に見えるのは、猿飛が守った里の人々が雨に濡れながらも静かにその亡骸の周りに花を手向ける姿だ。
『・・・雨?』
いつの間にかコートの襟元が冷たくなっていた。もちろん今は雨は降っていない。指で触ると、頬から雨が伝って襟元に流れていた。
―――――泣いていたのか・・・
両手で顔を包むと、目から頬まで涙に濡れて冷えていた。自分で気付かなかったが、彼の姿を見た時からきっと泣いていたのだろう。
「雫・・・」
――――泣き方すら、忘れていた・・・
貴方を喪ってから泣かなかった・・・いや、泣けなくなったのだ。この数十年の間、悲しい事が無かった訳じゃないのに・・・涙腺が壊れたかのように一粒の涙も出なかった。
・・・彼が居なくなってから、あれほど鮮やかだった世界が酷く閑散として見えた。好きだった筈の花さえも色褪せてしまった。
――――依存、していたのだ・・・
あの暖かい日溜まりのような、彼に。
太陽を失った世界に、私は冷たさしか感じない。
いつも彼が笑いながら暖めてくれた指は、繋ぐ手を無くして氷のように冷えきった。
・・・彼が、魂を抜かれる寸前に呟いた言葉が雫の耳から離れない。
「・・・俺の事は忘れて、」
――――生きろ・・・
『・・・無理を言わないで』
――――私の世界は貴方だけなのに・・・
再び太陽が沈んだ世界は、やはり色褪せて見えた。
いつの間にか、深い森の枝の上に座り込んでいた。どうやって此処に来たのかすら、雫は覚えていなかった。
『・・・』
涙は未だ、止まらない。今まで泣けなかった事が嘘の様に次々に流れてゆく。抱えた膝の布地が色を変える程、長い間声を殺して泣いていた。
暫くは此処から動きたく無かった。泣いているのを誰にも見られたく無かった。
――――嗚呼、もう会う人も居ないのか・・・
最後の友も、火影として里を守って逝ってしまった。
ギュッと強く膝を抱き締める。小さく丸くなる雫の姿は敵から身を隠す小動物か・・・あるいは母親を見失なった無力な迷子のように見えた。
全てを拒絶するように固く目を閉じ、唇を噛み締める。
――――忘れられる訳がない・・・
・・・もしもこの世から太陽が無くなったら、人々は太陽の存在を忘れるだろうか?
答えは否、だ。忘れる所か求め続けるだろう。時間によって美化された記憶の中の恒星に手を伸ばす。太陽がなければ月さえ輝かないのだから・・・
「なら、忘れさせてやろうか?」
『なっ・・・!!』
突如として聞こえて来た声。反射的に逃げようしたが強く腕を掴まれ阻止される…全く気付け無かった自分の迂濶さに雫は内心舌打ちをした。
腕を引っ張られて近くなった深紅の瞳に射抜かれる。心の中まで見透かされるようなこの目が苦手な雫は目を逸らした。精神的に不安定な今は、特に見たくない。
『・・・離せ』
「離したら雫は逃げるだろ?」
だから離さないとマダラは笑った・・・相変わらず性格が悪い。キツく睨み付けても嫌な笑みを浮かべたままだ。
「何で泣いたんだ?」
『・・・お前には関係ない』
「…アイツに何か言われたんだろ?」
思わず目を合わせるとマダラはやっぱりな、と呟いた。乗せられた事に苛立って思い切り腕を跳ね除け、距離を取る。
「…気付いてるか?」
何を?と言おうとした瞬間、背後から腕が伸びて来て優しく拘束される。
「こんな術に気付かない位動揺してるんだぜ?」
『・・・ッ!!』
やっと捕まえた、とマダラは喉で低く笑った
ずっと
ずっと
欲 し か っ た 物 が あ る
目眩がするほど焦がれ、
湖面に映る月だと知りながらも
手を伸ばし続ければ届くような気がした
・・・そ し て や っ と・・・
この腕の中に捕 ま え た
もう離れない
離してあげない
綺麗な鳥籠に閉じ込めて
その清らかな瞳が 汚れた物を写さぬように・ ・ ・
涙の跡が残る愛しい君の白い頬に
俺から誓いの口付けを・・・
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