・・・すこしづつ
すこしづつ・・・
世界は変わっていく
…変わらぬ物などありはしない…
・・・ならば、
“不変”を約束された私は・・・
永遠に取り残されたままですか? とわに ひとりの
――――――音がする。
勢い良く、水が落ちる音…響いている感じからして少し離れた所に滝があるようだ。すぐ近くで木々が騒めいている。
『…う、んっ』
ゆっくりと重い瞼をこじ開ける。滲んだ視界に映るのは巨大な石像と湖・・・何故ここに居るのだろう?全身がダルく思考がはっきりしない。瞬きを繰り返しながら記憶を辿る。
・・・雫・・・
『――――ッ!?』
一気に脳が覚醒した。飛び起きて辺りを見回す・・・アイツは何処だ?何が目的なんだ一体。
自分に聞こえる程ドクドク鳴っている心臓を宥めながら気配を探る、この辺りには・・・誰も居ない。安堵の溜め息を吐いた。
―――――念のため全身を確認する。アイツなら何かやりかねない…というより何もしない筈がない。ふと視線を下ろすとやけにくつろげられた首元が見えた。
『・・・・・・あの野郎』
鎖骨辺りに鮮やかに咲く、深紅の華。余程強く付けられたのか暫く消えそうもない・・・アイツの性格その物だな、と雫は眉をしかめた。
―――――――指先を当て、チャクラを集中させる。瞬く間に紅い華は消え去り、元の白い肌に戻った、独占欲の滲み出た跡など誰が残しておくものか・・・私はアイツの物じゃない。
『・・・仕事か』
視線を上げると薄暗い空を高く舞う、鷹。短く指笛を鳴らすとゆっくりと降りて来て肩に留まった。甘える様に鳴きながら頬に擦りよる鷹の首に巻かれている額当て・・・霧隠れの物だ。
『水影だな…』
足に付けられた手紙を読む。内容を簡潔にすると、最近里をうろつく不審な影があるので何者なのか調べて欲しい、との事・・・簡単な仕事だ。多分、盗賊か抜け忍の類だろう。鷹に餌をやってから住処に帰らせ、雫は里へと向かった。
…黄昏時の商店街は、夕食の買い物に来た主婦が多い。雫も長期保存の効く食料を買い、里を出ようと歩いていた。
「こらデブ!!その手を放せってばよ!!」
・・・あの九尾の声だ、しかも近い。面倒な事になったな…と思いながら視線をやると木の葉丸の胸ぐらを掴む黒い少年と巨大な扇子を持つ少女が見えた。
――――――4代目風影の実子、姉のテマリと弟のカンクロウか。中忍試験を受けに…いや、木の葉崩しをしに来たのだろう、父に扮した大蛇丸の命を受けて・・・一尾の我愛羅はうちはサスケと木の上だ。
カンクロウが木の葉丸を殴る前にうちはサスケが石を投げて阻止した…下忍にしては上出来だ。すぐ後ろに居る額に愛と書かれた我愛羅に気付かない所はまだまだだが。
自己紹介や何やらが終わり、やっと道が通れるようになった。途中すれ違った我愛羅から視線を感じたが、気付かないふりをする。
「…おいアンタ」
突然腕を掴まれた…うちはサスケだ。振り向かずに続きを待つ。
「…木の上にいる時、俺を見てただろ」
――――――鋭いな・・・雫は目を細めた。気付かれていたのか…まぁ別に構わないが。とりあえず九尾とピンクの髪の子が近付いて来たので離して欲しい。
『・・・放せ』
「断る、アンタ何者だ?木ノ葉の忍じゃないだろ」
「…サスケ君?この人がどうしたの?」
「何してるんだってばよサスケェ!!」
不思議そうに見てくる2人。フードで顔を隠しているから当然かもしれない。服を変えていて良かった…ここでナルトに騒がれたら面倒だ。仕事がやり難くなる。
「!?」
強く掴まれていた腕を容易く外すと建物の屋上に飛び上がった。これ以上面倒な事は御免だ。追いかけてくるサスケが付いて来れるスピードで門へと向かった。
「もう逃げられないぜ…?」
えらく自信満々な発言だ・・・こちらがスピードを合わせてあげた事すら気付いていないのだろう。目立ちたくなくてわざと行き止まりの路地に誘い込んだというのに。
「アンタは中忍試験に来た訳じゃないだろ…何しに来た?」
『お前に言う必要はない』
「・・・なら、吐かせてやるぜ!!」
飛んで来たクナイを避け、反対から蹴り込んで来たサスケの足を掴んで投げ上げた。頭を狙って体重の乗った攻撃を仕掛けてくるサスケの手首を掴んで思い切り壁にぶつけた。受け身を取り損ねてむせるサスケの前に立つ。
『・・・確かに強いな、下忍にしては』
「煩いっ!!」
凄い形相で睨んでくる瞳は写輪眼……だが、うちはの元祖であるアイツの目とは程遠い。私にはそのレベルの瞳術は効かない。
『…その程度で私に勝てると思ったのか?』
「テメェ…何で写輪眼が通用しないんだ!!」
『…そんな稚拙な術は効かない。まだ写輪眼をコントロールしきれてないようだな…』
「何だとっ!?」
『傲りは自信とは違う…お前は自分の実力を過大視した。だから私に攻撃して、負けた。』
「煩い黙れっ!!!!」
投げられたクナイを素手で受け止め、サスケの顔面ギリギリに投げ返す。流石に顔色を変えたサスケに淡々と続けた。
『今のだってそうだ。殺そうと思えば殺せた・・・傲りは身を滅ぼすぜ?』
「…くそっ!!」
恐らく兄を思い出しているのだろう…圧倒的な実力を見せ付け一族を滅ぼした、イタチを。確かに酷い兄だ・・・真実を知る雫としてはアイツが1番酷いと思うが。
『まぁ中忍試験頑張れ、サスケ』
「・・・何で名前を知ってる」
『…仕事上な、色々知ってる』
「アイツの事もか!?」
『…さあな、どっちにしろもう少し先の事だ』
「?」
不審そうな顔のサスケは知らない・・・中忍試験中に大蛇丸に呪印を付けられ、木の葉崩しがあり、その先で兄に会う事を。その後サスケが里を抜ける事をまだ誰も知らない・・・分かりはしないのだ。
背を向けて歩き出すと背中から声をかけられた。振り向くと真っ直ぐに自分を見てくるサスケと目があった。
「今度は絶対に負けねぇからな!!」
『・・・期待してるよ』
「名前…教えろよ」
『私に勝てたら、な』
舌打ちして走り去る彼と反対方向に歩き出す。彼はまだまだ強くなる…いつか、兄を越える位に。
木の葉の門を抜け、森の中で雫は瞬身で姿を消した。
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