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『京楽隊長。ちょっとよろしいですか』
『なんだい?惣右介くん』
隊首会で目にする空席を見慣れ始めた頃、藍染が京楽を訪ねてやってきた。
『相変わらずお疲れみたいだねぇ。早く次の隊長さんが決まってくれたらいいんだけど』
『そう簡単には行きませんよ』
『そりゃそうか。で、わざわざどうしたんだい』
『引き継ぎというか… みょうじくんのことで』
藍染は、壁に掛けられたカレンダーに視線をやった。
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昼を過ぎた夕方手前、隊舎を抜け出し人通りの少ない方へ向かい、共同墓地に佇むなまえを見つけた。
『彼女の同僚の月命日なんです。とても大切に思っていた子で、色々と考え込んでいるかも知れないので少し気にかけておいていただけませんか』
藍染は本当に情に厚い男だ。京楽も、そういうのは嫌いではない。依怙贔屓と言われれば否定はできないが、誰にだって心はあるのだ。
『トキ…なかなか来れなくてごめんね。…ごめんね…』
『ボクのいないとこで泣かれちゃ慰めてあげらんないよ』
『わ、わぁっ!!京楽隊長!どうしてこちらに…』
『可愛い子の涙には敏感なの。それにしても義理堅いね。そうやって忘れないでいることが残ったものの務めさ』
『彼女は私の同期で…』
『ん。惣右介くんから聞いた』
『…そうでしたか』
『手を合わせてもいいかな。ボクも同じように大切にしたいと思ってるんだ』
そんなことを尋ねるなんて。なまえの目が丸くなる。京楽ほど長く死神を続けている者にとって、この女々しい行いをよく思わないのではと内心びくびくしていたのだ。
みんながトキを大切にしてくれている。自分と同じように、トキを忘れないでいてくれている。それだけで気持ちが救われた。本当に本当に、心の底からほっとした。
『ちょっとちょっと、また泣くのかい。泣き虫だねえ…』
『う、うれしくて、』
『うれしい?』
『私、八番隊に…京楽隊長の下にいられて幸せです。ありがとうございます』
感極まったなまえが京楽に飛びついた。
これに驚いたのは京楽の方だ。女と見れば追いかけ回してはしゃいできた人生だがこの頃は落ち着いてきていたし、なにより、初めて触れるなまえの体が驚くほど柔らかく、ちいさく、薄かったせいでもあった。弾力のあるこの感触はもしかして…。あれ、意外と…。頭の中が真っ白になる。京楽は目をぱちくりさせて、勢いよくなまえの体を引き離した。
『…先に戻るよ』
『あ、はい』
嫌悪ではない。むしろ逆だ。だからこそいけなかった。
この場にいない平子の声がする。
京楽サン、意外とウブやなあ。あないおぼこいんがエエんです?ははあ、おもろ。