▼ ▲ ▼

藍染は『違う場所で少し心を休ませてくるといい』と背中を押したが、追い出されたという被害者意識だけが胸に残り、なまえはろくに返事もできなかった。

四番隊なら納得ができたが、他の隊となると違う。

後方支援としても使われず、ただ不必要だからと掃き捨てられて、平子を待つ場所も奪われて………。
斬魄刀を持っていても仕方がない、鬼道を覚えても意味がない、死神を続けたって同じだ。体中がしんと冷え、底なしの絶望の中へ落ち続けていく気味悪い感覚だけが残る。その投げやりな眼差しに気が付いたのか、愕然とするなまえの肩を、直属の上官にあたる女性死神がやんわり撫でた。


『私が推薦したの。ちょうど八番隊で鬼道のできる子が欲しいといわれたから』
『ど、どうしてですか』
『なまえちゃん。どこにいても何をしていても、きっと平子隊長は見ていてくださるわ。大丈夫。だから今は、得意を生かして新しい場所でがんばりなさい。五番隊にいることだけがあなたを支えるわけじゃないんだから』
『………先輩…』
『泣かないの。がんばりなさい。泣いちゃダメよ。平子隊長が心配しちゃうわ』


こんな出来の悪い自分を気遣ってくれた心優しい先輩に対しても、どうして平子の無事を信じていないのか非難めいた気持ちしかなかった。

───時を前後して、一番隊隊舎。

隊首会を終えてそれぞれが戻ろうとしている途中、卯ノ花がそうっと京楽の背後に近寄った。


『こんにちは、京楽隊長』
『どうも、卯ノ花隊長』


彼女の方から声をかけてくるのは珍しい。
大先輩に向かって軽く頭を下げ、ボクになにか、と尋ねる。
卯ノ花は聖母のようなあたたかい眼差しで京楽を見上げた。


『人事にあまり私情を挟まないでくださいね。皆が困っていますよ』
『私情ってのは言い過ぎじゃないかなァ。ボクが動くのはいつだって瀞霊廷の為さ』
『あら、それは失礼いたしました。今後ともお互い、瀞霊廷のために、尽くして参りましょうね』
『……どうも』

 
瀞霊廷のために、と強調した裏側で卯ノ花がどんな感情を込めたのか、深く考えるのはやめた。




- ナノ -