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「今度ね、護廷隊の記念祭があるんだよ」
「記念祭?」


春水さんは1枚の紙を差し出して言った。
シンクを磨いていた手を止めて見ると、紙には太い墨字で『護廷十三隊記念祭』の文字が大きくと書かれてあり、それは、元鬼道衆の私でも初めて見る行事だった。


「節目ってことで各隊が色々出し物をするんだよ。お祭りみたいなもんかな」
「へえ。楽しそうですね。来週?」
「うん。君もおいで」
「え?私?」
「そうだよ」
「うーん…私は……ほら…除籍になった身ですし」
「関係ないよ。それに今は僕の奥さんだ」
「そ、そういうので顔を出すのはちょっと……」
「平子隊長や鳳橋隊長、それにリサちゃんもいるから顔を見せてあげなよ。話をしたら、会いたがっていたよ」


それだけ言って、また出て行ってしまった。
律儀に帰ってこなくていいですよ、忙しいのは知ってるから。
ねえ、さみしいのは私だけ?

歳月は忍耐を教えるなどとはうまくいったものだ。私には憎しみしか与えてくれないのに。

何十年も昔に任務中の怪我から鬼道衆を除籍となった身としては、いまさら瀞霊廷に足を向けるのは非常に気が重たい。平子隊長たちは昔よく合同演習で一緒になった仲ではあるけど、私のことを本当に覚えてくださっているのかどうか不安になるし、春水さんを通して仲良くさせていただいた浮竹隊長や卯ノ花隊長はもういらっしゃらないし、握菱大鬼道長も、追放のままこちらへお戻りになってはいないようなので、行ったところで曖昧な気持ちになりそうだ。

紙には各隊の出し物やイベントについて細かく記されていた。男性死神協会の男気じゃんけんって何なんだろう。春水さんの隊はちらし寿司を振る舞うらしい。
楽しそうだけど、私が行ってもいいのだろうか。手を取って連れて行ってくれたらこんなに悩むことはないのに。

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結局、誘惑に負けてなるべく地味で目立たない着物をまとって隊舎へ向かった。藍色の細やかな千鳥格子の
瀞霊廷は滅却師との戦争で壊滅状態だったと聞いていたが、10年もすればほとんどが元通りになっている。うろ覚えの記憶の答え合わせをしつつ、私から夫を借り続けているのだからこのぐらい復興してくれないと、と意地悪な気持ちになった。
1番隊舎を目指していると、後ろから溌剌とした懐かしい声が私を引き止めた。


「コラ。お祭りやぞ。もっと派手なカッコせんかい」
「自分はいつも通りの癖に」
「俺は隊長やからええんや」


懐かしいふたつの顔が、そこに佇んでいた。

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