20141201

【ネタ】【短編】過去のXmas短編

1期終了後、当時なぜかパラドクスのことを想うとたまりなくなり、ちょっとだけ書き進めた短編。
未完。
当時2期知らないもんだから、インテグラさんいない。
パラも普通に黄金聖闘士やってる。

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寒い、と女は思った。
ーー別に体温的な意味ではない。

敵地偵察よろしく勇み足でやってきたのはいいが、ちっとも楽しくない。
頭上に煌々ときらめくは色とりどりなルミネーション、大通りに童話な国の王子と姫を乗せた華々しいパレートは練り歩きながら通っていく。周りはグループの学生は大声ではっしゃぎ、家族連れは興奮して駆け出す子供を親が慌ててあとをおう。向こうには恋人同士が手を繋いで人工の光で飾られた作り物の聖堂を見入りながら囁きあっているのがみえた

どこ向けても幸せそうな、笑顔と笑顔。

なのに女はとても寒い。
一人こんなところまでくるんじゃなかった。
若い青銅聖闘士たちはアテナからこの大型テーマパークの招待券をもらって、24日には一日遊びにくる予定と聞いた時一も二もなく先行偵察よろしくやってきたが、これは寒々しいすぎる。
なにかって。
花の20代の女一人が、人生の負け犬のよろしく、よりによってこんな季節にこんなところで一人うろうろつくなんて、我がことながら心底惨めた。
彼女、パラドクスはにわか涙すら滲んできた。
やっぱり朝はちゃんと一日のことを順番通りにクロスロードミラージュで占っておけばよかったと後悔もした。
だが、今朝は運命の日の前日にぐらい運命に振り回されてみてもいいかもしれないと、うっかりロマンティック心が疼いたのだ、それに従った結果がこの様だ。

「もう帰ろう」
双児宮に戻ってあったかい風呂にでも入ってお気に入りの香でも焚いて温まろう。
ココアなんか贅沢品も最近また手に入れるようになったのでそれも飲もう。
とパラドクスは踵を返して聖域に戻ろうとした時。

「ねえ、彼女、一人?」
軽薄そうな声に後ろから呼ばれた、にわかに呼ばれたのは自分のことだという気がしなかった。

振り向けば、洒落な皮ジャケットや軽コートで身を包んだ若い男が三人連れてこっちみて笑いかけてくる。
髪には染めた跡、指や腕、首にはじゃらじゃらの銀のリングやらチェーンやらに飾られている。上品とは言えないが、それなりにセンスはあて洒落た身なり。
顔は・・・普段極上な顔構えばかり見すぎたせいで肥えたパラドクスにはせいぜい十人並にしか思えないが、かろうじて不細工ではない。
要はどこにもいるようなちょっと頭の軽そうな若い男たちだ。

「なにか用かしら?」

パラドクスちょっと身構えながら聞き返した。
聖域では少年愛疑惑だの、痴女だの不名誉な噂を頂戴してしまいなおかつ放置しているパラドクスだが、その本質はそれでも純粋培養の女聖闘士である。いくら愛の聖闘士と自称して仮面もかぶらない変わりものでも、若い男に声かけられれば本能的に警戒はする。

「いや・・・ほら、俺たち男三人連れて寒いもんでさ。彼女、かわいいのに一人っぼちとかあんまりと思ってさ。俺たちと遊ばないかって。」

 とリーダ格らしい銀チェーン男が話した。ちなみに銀チェーン男というのは皮ジャケットに太めの銀のチェーンを腰につけたという格好していたから。
 同じく普段着で皮ジャケットを愛用してても、うちの玄武はこいつより百倍は姿勢がいいわ、とパラドクスは密かに評価した。
 この男、ちょっぴり猫背である、内心減点してみたパラドクスだった。

 「ご好意ありがたいけど、今もう帰ろうと思ったところだから。お構いなく」
「寒い」という単語にちょっとしたシンパシーも感じなくもなかったが、正直それ以外心惹かれる要素はない、パラドクスの好みは高潔で他人のために自分を犠牲できる男だ、ただのナンパ男はお呼びじゃない。
 いくら愛の聖闘士でも際限なくなんでも愛せるわけじゃない。ライクとラブは別ものだ、しかもどちらにしろ目の前のやつらには向ける気はない。

「いや〜そんなこというなって。ほら、ここ寒いし、いっしょに向こうのカフェでお茶飲もうよ」。
と銀チェーン男は尚しつこくへらへらと話かけてきた。
 そういえば龍峰の仲間の蒼摩もこんな感じの軽いところがあったようだが、あれはあれでやるときやる男らしいから、やっぱりこんなやつと違う。
 世の中こんな男ばかりかしら、と先よりも尚寒くなってきたパラドクスだった。
 「いえ、帰るわ。悪いけどほかに当たって」
もうやってらんない、とパラドクスは踵返して立ち去ろうとした。
 だが、ナンパ男はなかなかしつこかった。
 「もうそんなつれないこというなって、いっしょにいいことしようよ。」
 銀チェーン男がとうとう手を伸ばしてきた。
 その手を難なく交わしたが、ほかの2名がいつの間にかパラドクスを囲んだ。
 なにがいいことなもんか、と急に名状しがたい憤りが胸の奥から湧き上がっるのを感じたパラドクスだった。
 ーー下半身で思考するクズが!
 心の奥で半身が嘲笑する声が聞こえた。
 こんなナンパ男のために半身を外に出すのもバカバカしいが、自分を愛の聖闘士と定義する表のパラドクスはどうにもこの手のやつを強く拒絶するのが苦手た。愛の聖闘士と自称するのに愛の求めを強く拒むのはそれこそ矛盾だ。
 パラドクスは厄介な性質をもっている。自分自身を定義し、その定義に沿って人格を作り上げたという厄介な性質だ。愛を沿って生きるか、憎しみを沿って生きるか、どちらに綺麗に収めば矛盾なく気持ちよく過ごせるが、表の人格が憎しみ感じたり、憎しみの人格が愛おしさを感じたりするとにわか混乱する。
 以前それで発作起こして聖域中騒がした記憶はまだあたらしい、その時は気づけばアテナの懐に抱かれて泣いていた、未だに思い出せば恥ずかしさで顔から火が吹く。
 龍峰に破れた以来表の人格も普通に人に腹立ったり、拒めるようになったが、かつてマルス様の配下だった頃は、とにかく強く求めばうんっと頷きたくなったもので、イオニアにミケーネに46時中監視されたものだった。
 曰く「嫁入り前の娘がキズモノにされたらたまるものじゃない」そうだ。
 父兄気取りの二人はおかしかったが、おかげでパラドクスはなんとか今まで清らかな身を保ってきた。
 いまでもマルス様時代が懐かしくなる、帰れない故郷のように。
 だが、正真正銘のアテナの愛を知ってしまった今、アテナを拒めてマルス様を選べるかと言われればそれもできそうにない。
 マルスは頑張って人を愛そうとして、頑張りすぎて裏返して世界を憎んだ御方だった。
 しかしアテナは、自分に向けてくる憎しみや世界へ向ける憎しみすらそのまま愛せる女神だ。
 どちらを選んでどちらを拒む話ではない、だがしかし、結局流されて今パラドクスはアテナの元にいる。

 とにかく、こんな神話世界を普段からいるパラドクスはどう頑張っても目の前の連中と話が合うはずがない。

 バシっと伸ばしてきた手を叩いて、パラドクスは道を塞ぐ一人を強くにらんで道を開けてもらった。
 男たちはいきなり強く出たパラドクスにうろたえたが、やがてリーダー格は狩猟本能でもでたのか、今度は強くパラドクスの腕をつかもうとしてきた。
 こんな一般人に捕まえられる黄金聖闘士はない、パラドクスはとうとう飽きてきた。
 掴んで着る手を寸たところで交わしたついてに、一睨みで三人に軽い暗示をかけた。
 途端うろんとした目付きになった三人は、あっさりパラドクスを放して、ふらふらとどこかへ行ってしまった。
 
 北風が吹いた。
 心情的な寒さにとうとう耐えられず、パラドクスは足早くテーマパークから出て、テレポートで一気にサンクチュアリへ帰還した。

 サンクチュアリーはこの時期、ひっそりとしているが、それでも先の場所よりずっと落ち着きがあった。

 マルスが破れたのち、開放されたアテナはサンクチュアリーを地上で再建した。
 最初は現代社会まみれたアテナはいっそパライストラを再建してそこをサンクチュアリを継ぐ聖闘士の拠点にしたらどうかという案を出した。しかしさすがにそこまで強固のセキュリティを一学校に求めるのは酷ということでアテナ自身がその案を却下した。
 その代替案として、破壊されたサンクチュアリーの上に新たなサンクチュアリを再建した。
 再建は、アテナやアリアの力を借りるというマルスの方法ではなく、人間の手で建物を建て、そこにアテナが祝福を与えて強固にしていくという方法を取った。
 再建の資金は俗世の財閥と強い関係性をもっているアテナのポケットマネーから出したのだが、聖域のような生産性のない組織は一旦壊滅すると再び運作させるまでとにかく時間も手間もかかる。一時期は育てそうもない家庭菜園でひもじさを凌ぐことを余儀なくさせられた黄金聖闘士たちだった。しかし抗議よりも前にアテナに無言で破壊された地上に同じひもじい思いするひとびとの姿を見せられ、ぐっという音も出なくなった。
 自業自得とはまさにこのことだと、どこぞのお不動さんがぼつりと漏らした。
 それでも、さすが慈愛深いアテナは黄金聖闘士を餓死させるのは忍べなかったのか、聖域の土地に優先的に祝福を与え、聖域の農地の育ちをちょっとよくしてくれた。おかげでなんとか餓死せずに済んだのだと、今でも思い出せばみんな遠い目になる。
 とにかく死ぬことは許さない、生きて贖えとアテナは目を覚まして最初に言ったのはこれだった。
 アテナは赤ん坊の頃、同じく聖域での反乱に巻き込まれ、その過程で反乱の首魁者を目の前で自殺されたことがある。さらに自身の未熟さや無力さのためその世代の黄金聖闘士をすべて失ったのだと、パラドクスたちはアテナ自身から聞いた。
 そのためとにかくあなたたちを失えない、反乱しようがわたしを乾電池扱いしようが、わたしの後継者になり得る娘をむざむざ死なせただろうが、とにかくわたしのためにも生きろ、生きて贖え、死んだら絶対許さないと。アテナは圧倒的な小宇宙で黄金聖闘士たちを拘束しながらそう言った。
 あれから誰もアテナを逆らえなくなった。

 そしてあれから1年がすぎ、クリスマスの季節になってようやく新生聖域がちょっとだけ活気が戻ってきた。

 偉大な小宇宙が、聖域中に充満している。すべての罪を許し、あらゆる憎しみと苦しみをありがまま抱擁する小宇宙がパラドクスを迎え入れた。
 俗世で孤独な寒さを味わったパラドクスは、ちょっとだけほっとした。
 
 この時間はきっとアテナは神殿でアリアのために祈っている。
 アリアはアテナではないことはさすが今は誰もわかってきた、だがアリアとアテナの関係は未だによくわからない。
 アテナはアリアを「我が娘」と呼ぶが、それはそのままに意味ではないことはみんな知っている。だが二人の小宇宙は似すぎる。
 アリアは何ものか、今は誰も知らない、知らないが、アリアはアリアとして認識するしかない。ひょっとしてあれはアリアという名前の新種の神かなにかかもしれない。
 そのアリアだが、マルスとの戦いで、肉体を失った。だが死んではいない。
 しかしマルスに小宇宙の大半を利用された彼女は魂すらばらばらとなった。
 アテナはそんな彼女を取り戻そうと、一年かけて奮闘してきた。 
 その進展はいかになったか、パラドクスは詳しく知らされていない。
とにかくこの時間になると、アテナは決まって小宇宙を聖域中に充満させ、失った娘のために祈るのだ。
 
 戻ってくるといいわね。とパラドクスは祈るアテナの小宇宙を感じながらにそう思った。
彼女を失って、両親と姉も失ったエデンの戦後の憔悴ぶりはみていられないものだった。
 それでも彼は表向きはなんとか残った民のために頑張ろうとしていた、それがいっそに痛々しかった。
 それでも同じ痛みを抱いたペガサスの励ましがあってか、最近ようやく生気が戻ってきたそうだ。
 パラドクスはそれが純粋に嬉しく思った。他人のために心底嬉しく思えたのは久しぶりだった。
 
 双児宮もひっそりとしていた。小宇宙をもやせば華々しい内装にすることも可能だが所詮は幻、今はそのままがいいか。
 
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