月と星






「また、会えたね」

 と差し出した手はしかし、握手を結ぶ事はなかった。相変わらず泰然自若としているリンクが、頭のてっぺんから足先までずぶ濡れのままだったことに思い当たる。

「服が……その、ごめん!」
「気にするな」

 言葉通り、彼は平然としていた。このまま会話が続く事を期待したけれど、リンクはひたすら黙りこくっている。
 ゼロはたちまち痺れを切らし、自ら質問を投げかけた。

「なんで追いかけてきたのかとか、どうやってここまで来たのかとか――訊かないの?」
「別段知りたくはない」

 クールに腕組みするリンクだったが、

『っていうのは強がりで、実際はかなり気になってるはずよ』
「違う!」と、即座にチャットの言葉を否定した。きょとんとしたゼロは、やりとりの意味がいまいち掴めなかったようだ。

「あのさ。オレ、リンクがちゃんと元気になったのか、心配だったんだ」
「風邪は治っているし、心配してもらう筋合いはない」

 リンクはそっぽを向いた。青いクスリの代金を取り立てに来たわけでもなしに、ただ「心配だから」追いかけてきたことが、はなはだ理解できなかった。
 片やチャットは興味が沸いたので、素直に尋ねた。

『で、こんな砦の奥までアッサリたどり着くなんて、どういう魔法を使ったのかしら? アタシたちは結構苦労したんだけど』
『浜辺の漁師さんやゾーラの方々に、リンクさんの目撃証言を尋ねたんです。そうしたらこの砦にたどり着きました』というアリスに続き、
「説明すると長くなるけど、今のオレはポストマンみたいなものなんだ。ここのボスに渡す手紙があるって言ったら、正面から簡単に入れてくれたよ」

 頑強そうに見えた海賊の砦も、身内にはとことん甘いつくりらしい。リンクはがっくり肩の力が抜ける思いだった。

「何はともあれ、体を拭かなくちゃ――」
「! ちょっと黙れ」

 にわかにリンクが小声になった。

「……侵入者がこのあたりに……」
「……お前はあっちを……」

 廊下から、海賊の話し声が聞こえてきた。ゼロはあわてて口をつぐんだ。扉にこっそりカギをかけておく。
 リンクには、こんなところでまごまごしている暇はなかった。

「何か入れ物を持ってないか?」
「空きビンならあるよ。もしかして、アレを入れるのかな」

 先刻飛び込んだ水槽の中に、白い球体が浮かんでいたことに思い至ったのだ。

「察しがいいな。他にもこの砦に三つあるらしいんだ。あとで詳しく話す。とにかく海賊が帰ってくる前に逃げる」

 焦りを募らすリンクとは正反対に、ゼロは悠長に構えていた。

「待って。事情を説明して、協力してもらおうよ」
「協力、だと?」

 リンクはしかめっ面になる。

「そう。二人でこそこそ隠れながら探すよりも、海賊たちに助けてもらった方が早いよ。ポストマンのフリをしたら、多分誤魔化せると思うし」

(おい……何故一緒に行動することになってるんだ)と喉まで出かかったが、ぐっと抑えてその点には突っ込まないでおいた。

 それよりも、ゼロが見えない絵の具で描いた青写真が、脳細胞を刺激してやまない。リンクは、タマゴが砦の中と海に散らばってしまったことを軽く説明した。

「なるほど。その海ヘビの出る海域だって、どこにあるのか知らないんだよね? やっぱり協力してもらった方が早いよ」

 妙に自信たっぷりな物言いに、強い決意がにじみ出ている。リンクはその作戦に賭けてみることにした。

「交渉は任せた」
「了解!」


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