* 『次はコッチね、多分最後の妖精珠ヨ』 大妖精とのはぐれ妖精集めは、ゼロ一人より遥かに効率がよかった。それには、弓を持っていたことも幸いした。恐ろしく高い天井付近にシャボン玉があり、その中に妖精珠が閉じ込められていた、などという例があったのだ。 「この部屋ですか」 神殿内はいくつかの部屋に区切られていた。昔は「祈りの間」など様々な用途があったのだろうが、今は魔物が好き放題するだけになっている。 どんな意図があったのか、たまに鍵のかかった部屋もあった。よりによってその部屋の中に妖精珠が隠れているもので、ゼロは四苦八苦させられた。 指示された通り部屋に入ると、途端に扉を覆うように鉄格子が下りてきた。 「あれ?」 『一方通行……いや、退路を塞ぐためのものヨ。気をつけてゼロくん』 「はい」 改めて剣を構え直す。大妖精が背中に隠れながら、 『アナタ右利き?』 「そうみたいです」 『両手で構えちゃうのは癖かしらね』 「あ、ホントだ」 腕の力と剣の重さを比べれば、片手でも扱えるはずだ。しかし馴染んだ感触はこちらだった。 『見て、あの箱。はぐれ妖精の気配がプンプンするワ〜』 窓の向こうに見える隣の部屋には、青く塗られた箱が鎮座ましましていた。沼の大妖精が最初に言っていた通り、はぐれ妖精珠は箱の中に閉じ込められていることも多かった。 「あっちの部屋への扉は――閉まってるか」 『つまり、この部屋の主を倒せばいいわけネ』 ぐえっぐえっ。聞き覚えのある鳴き声がした。反射的に、荷物からデクの実を取り出す。 『スナッパーとゲッコー。動きが速いから気をつけてネ!』 それだけ言い残すと大妖精は消え失せた。魔物が苦手なのか怖いのか、戦闘になるとすぐ隠れてしまうのは少し困る。今更ながらアリスの有り難さがよくわかった。 スナッパーはフシギの森でも対峙したあのカメだ。一方ゲッコーは、肥大した体を持つ蛙のような魔物だった。毒々しいオレンジ色の体が、ギラギラ光った。大妖精の橙色とは大違いだ。 「よし……かかってこいっ!」 その声を合図に、ゲッコーがスナッパーに飛び乗った。スナッパーは回転を始める。 既にその軌道が一直線であることを知っているゼロは、突進をなんなく避けた。そして急いで離れる。 仕掛けておいたデクの実が、スナッパーの通過に合わせて破裂する。ひっくり返ったそいつの腹に、間髪入れず剣を突き立て、うまく仕留めた。まず一匹、順調だ。 ゲッコーは焦ったのか、壁を登り天井へ向かっていた。 「逃がさないよ」 すかさず弓を構える。矢じりの延長線上に標的が来るよう、照準をぴったり合わせた。 その時、ふと後頭部にピリッとした痛みを感じた。 (あれ――) 次は腕に、足に。神経を直接傷つけているような鋭い痛みが全身を襲う。ゼロは弓を取り落とした。 「うっ……つ……何だこれ」 大妖精が慌てて飛び出す。 『どうしたの一体!?』 「わからないけど、いきなり……」 そこで気がつく。デクナッツの兵士たちを蹴散らしたときに負った傷を、赤いクスリで癒したことに。 (赤いクスリは傷を治すわけじゃない、痛みを和らげるだけ。即効性がある分、効き目が切れるのも早い――) 『来るわヨっ!』 ゼロは目を瞑った。 ←*|#→ (41/132) ←戻る |