* 「先回りってことは、神殿に大妖精様の妖精珠がいるのか」 『飲み込みが早くて助かるわい。あれは臆病じゃから、四界の神のいらっしゃる神殿を好むのじゃろう』 眼下には延々と沼が流れていく。しばらくすると、一際高台になった場所――広い沼の真ん中に黒っぽい建物が見えた。ピラミッドの先端を切り取ったような形をしている。 「あれがウッドフォールの神殿……」 『すでにここに巣くっていた邪気の主は倒されたようじゃ。しかし、前とは違って妖精珠は一匹ではないから注意するんじゃな』 「前って、まさか――グレートベイの!? 何故それを知っている!」 『このタルミナの空の下で起こった出来事は、全て知っておるさ』 「『前の三日』で起こったことも?」 答えはなく、無言が続く。 何故、己はこのフクロウに警戒しているのか。それはゼロ自身にもよく分からなかった。おそらくは、剣を難なく捌けた時のように――体が覚えているのだ。記憶の片鱗が、そういう態度を強要している。 彼は戸惑っていた。自分が自分でないようだった。 「あなたは――オレのことを知っているのではないのですか?」 『ワシは、未来が見えるだけじゃよ』 疑問がさらなる疑問と共に返ってくる。禅問答のようだ。 そのまま滑空を続けて、二人は神殿の入り口に降り立つ。 『帰りは迎えに来てやれないが、一回りして裏手からなら、地続きで帰れるぞ』 「わかった……わかりました」 こんな態度はあまりに失礼だ、と自分に言い聞かせて、ゼロは頭を下げた。それを見て慈しむように目を細めてから、フクロウは去っていった。 神殿の入り口には、黒々とした闇がぱっくり口を開けていた。それは獲物が飛び込むのを待っているようだった。 ←*|#→ (39/132) ←戻る |