月と星

2-7.デクナッツの城


 話したいことは山ほどあった。
 離れていた時間は短かったけれど、その中でつくったどの思い出も、いつもと変わらず濃密だ。ゼロは大切な友達とたくさんの思い出を共有したかった。

「アリス!」

 再び叫ぶ。何から話せばいいのか分からない。頭の中に、次々とあてどもない言葉が浮かんでは消えていった。再会の喜びが、周りの状況を一時的にシャットアウトしてしまっていた。
 アリスは変わらぬ青の光を揺らし、困ったように瞬いた。

『すみませんゼロさん、私は……』
「アリスさんッ! まずは追っ手を振り切って泉へ向かうのです!」

 デク姫が鋭い声を上げる。見れば、ゼロに蹴散らされたデクナッツの兵士たちはすでに起き上がり、じりじりとこちらを取り囲み始めていた。

「お姫様を捕まえるッピー!」
「捕まえてどうするッピ?」
「うーん……。そうだ、空きビンに詰めるッピー!」

 その言葉の意味するところは分からなかった。が、最後の台詞を耳にした瞬間、デク姫はわなわなと震えだした。

「そ、それだけは許しません!」

 真っ赤になり、蔦と葉っぱで構成されたポニーテールを振り回す姫。不幸にも当たってしまった兵士たちは、草を薙いだように倒れていった。ゼロとアリスは言葉を失った。制裁にしても強烈すぎる。しかも自国の兵士に、だ。
 一暴れしたデク姫が肩で息をしているうちに、複数の足音が地面を伝わってきた。さすが一国家、まだまだ人員には事欠かないらしい。

「まったく、キリがありませんね……」

 うんざりしたようにデク姫が呟く。ゼロはひとり頷き、二人を庇うように前に出た。

「オレが引き受けましょうか」
『……いいんですか?』

 アリスが驚いたような、申し訳ないような声を出す。デク姫は目を閉じ、

「迷っている暇はありませんね。よろしくお願いします。お礼は後ほど如何様にでも」
「お礼は構わないけど……了解です。さ、早く!」

 退却を始めた姫に従いかけて、妖精は今一度振り返った。

『すみません、ゼロさん……また』
「うん、またね」

 すぐに別れが来てしまったのは残念だが、仕方ない。またゆっくりできる機会を狙って話すだけだ。だから、ゼロは笑顔で見送った。
 門へ向かって、姫と妖精は走る。入り口でゼロに難癖をつけた兵士は、既に白いサルの果敢なアタックにより昏倒していた。

『コッチ、コッチ!』

 サルに誘導されるまま、二人の背中が門の外へ消える。
 しっかり最後まで見届けて、追っ手の気配を背中にひしひしと感じながら。ゼロは、並び立つ小さな仲間に尋ねた。

「サルくん、デクの実ある?」


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