* 一気にまくし立てた雪の精は満足そうに口を結んだ。白いフードに隠れて見えないが、その下の顔はまだリンクそっくりなのだろう。 「だいたい話は分かった。ここは墓なのか」 『勝手に使ってて怒られないのかしら?』 「ばれなきゃ大丈夫だってー。誰のお墓か知らないけど」 『オラの墓ゴロ……』 そう答えたのは、岩のような体を持った大きなヒトだった。ただし、体は洞窟の岩壁が青く透けていて、宙に浮いている。――幽霊だ。 「で、出たあー!」 雪の精は驚いて飛び跳ねた。しょっちゅう他人を驚かせていると豪語している割には小心者らしい。隣のチャットもさすがに肝を冷やしたようだ。 リンクは片目だけ開けて尋ねる。 「ゴロン族か?」 『ご名答。誇り高きゴロン族の勇者の血を引くダルマーニ三世ゴロ。 ……驚かないゴロ?』 「何に? ゴロンも幽霊も何度か会っているから問題ない」 ダルマーニは木の実みたいな黒い目を丸くした。雪の精がリンクに尊敬のまなざしを向けてくる。 『そういえばオラが見えてるゴロ、魔法ゴロ……。 大翼のダンナが、オラの姿が見えるヤツがそのうち来るって言っていたが……。ほんとうに、その通りになったゴロ』 「眠りを邪魔して悪かった」 申し訳なさそうにリンクは目を伏せた。 『いや、たいしたことないゴロ。大翼のダンナにはお世話になってたゴロ。 それにしても、あれだけ衰弱していたのによく目覚めたゴロね。ゴロン温泉の力はスゴイゴロ』 「温泉か、なるほど」 ピンと来た。カジ屋のズボラ・ガボラが炉を溶かそうと持ってきたお湯は「温泉水」と呼ばれていたからだ。 「……というか、俺はそんなにまずかったのか」 と雪の精を睨む。彼は動じず微笑み返してきた。 「凍傷が酷くてねー。もうちょっと妖精ちゃんが大翼の親分を見つけるのが遅かったら、ヤバかったよ」 「チャットが?」 いぶかしげに首を捻る。この妖精、人が役に立たないと知ればさっさと見放すような性格なのに――。 『ま、まーね。弟を救うにはアンタが必要なだけよ』 「えー? あんなに心配してぼくに突っ掛かってきたり、さらには「リンク」って名前まで呼んでたりして――」 チャットが真っ白に燃えながら雪の精目掛けて一直線に飛び、光の矢のごとく下腹部に突き刺さった、ように見えた。 リンクは何も見なかったと自分に言い聞かせ、ダルマーニだけを話し相手にすることにした。 「亡霊なら、何か未練があるんじゃないか? 助けてもらったお礼に、俺に出来ることがあれば言って欲しい」 ダルマーニはしばらく目を閉じて考えこんだ。 『こんなこと、町の人間に任せる訳にはいかないゴロ。でもこのままじゃ里は全滅ゴロ……』 「季節外れの吹雪の原因か? 事情を話すだけでもいい。楽になるはずだ」 ゴロンの勇者はうん、とひとつ頷いた。 『お言葉に甘えるゴロ。 よく、聞いてほしいゴロ……』 ←*|#→ (33/132) ←戻る |