![]() 「そうだ。ルミナは、不思議なお面の話を知っているかい?」 「なあにそれ」 首を横に振ると、グル・グルのただでさえ細い目が一層細められた。 「特別な目的のためにつくられたお面だよ。全部で二十枚あって、全部集めると願いが叶うんだって」 「ふーん? そんなのどこで聞いたの」 「知り合いのゴシップストーンが噂してたんだ」 犬のリーダーに師事し、そのうえ石に知り合いがいるとは。世の中は広い。 「お面といえば、噂はもうひとつあったよ。すべてのお面を飲み込むお面が、この世にはある――とか」 ルミナはばりばりとお面を咀嚼するバケモノを連想した。 「お面がお面を食べるってこと……?」 まさかあ、とルミナが笑う。グル・グルはどことなくすっきりした顔になっていた。 「あくまで噂だからね。聞いてくれてありがとう。楽になったよ」 「どういたしまして」 「それじゃ、サヨナラ〜」 普段なかなかできない会話を楽しめて、お面までもらえたのだから、こちらこそ感謝しなくてはならない。グル・グルを見送って一息つくと、ルミナの背後に何者かが立つ気配がした。 (だ、誰?) 警戒心をみなぎらせながら、意を決して振り返る。 「困ってる人を幸せにする……オトナのくせにいい心がけだ!」 立ち並ぶ五つの小さなシルエット、それはクロックタウンに住む者なら誰でも知っている「彼ら」のものだった。 「キミたち、さてはボンバーズだな!」と歓声を上げるルミナ。 「ふっ、よく分かったな。オレは団長のジムだ。ねえちゃんは、これからも困っている人を助けていくつもりなのか?」 「うん」 即答すると、ジムは引き連れた子分達とひそひそ話をした。 「……決定だ。ヨソモノだが、特別にボンバーズに入れてやる!」 「わ、わたしを?」 ルミナが戸惑っていると、一番背の低い子供が進み出て、おずおずと手帳を渡してきた。 「これはボンバーズ団員手帳、でしゅ」表紙をめくれば、細かい字で何ごとか書き付けてある。 「使い方の説明をするぞ。せーのっ」 五人は仲良く斉唱した。 「1、困っている人を見つけたら名前と似顔絵を書きこむ。 2、困っている人の悩みを聞いてやる。約束したら約束シールをはる。 3、困っている人を幸せにすればボクもしあわせ。しあわせシールをはろう。 4、一度はったシールははがせない。全ての人を幸せにするまで、がんばろう」 子供ながらなかなか手が込んでいるな、とルミナは恐れ入った。 「以上、わすれるな!」最後はジムがきっちりとしめる。 「その手帳がある限り、ねえちゃんも永久にオレたちの仲間だぜ」 「ほんとに?」 ルミナは手帳を胸に抱いた。 「もちろん」 「やったあ……!」 ずっとずっと、憧れだった。ボンバーズは、クロックタウンの子供達に連綿と受け継がれてきた由緒正しい秘密結社だ。無論カーフェイも所属していた。当時の彼は事ある毎に手帳を自慢してきたので、聞き流すのに苦労したものだ。 もしかしたら、この手帳は時を越えても手元に残ってくれるかもしれない。それは、覚めれば消える夢が間違いなく存在したという、かけがえのない「証」となる。 「正義の秘密結社、ボンバーズは永遠に!」 ビシィ! とポーズを決める団員に手を振って、ルミナは明るい気分で宿に帰った。久しぶりにぐっすり眠れそうだ、とわくわくしながら。 ――翌朝、衝撃的な展開が待っているとも知らずに。 ←*|#→ (100/132) ←戻る |