髪の話
「なあ、お前なんで髪伸ばしてんだ?」
夜明け前、一夜を共にしたイサムとガルドは、一つのベッドで事後の倦怠感に包まれていた。
いつもは束ねられているガルドの襟足も、今はシーツの上に散らばっている。そのうちの一束を掬い上げ、イサムは艶やかで健康的な髪の手応えを確かめた。
「別に……理由はない」
実際ガルドがこの髪型にしている理由はなかった。邪魔にならないよう前髪は撫で付け、後ろ髪を結っているだけに過ぎない。勤め人であり、メカニックであり、パイロットであるガルドは、効率性や社会的なマナーを満たす髪型にしているだけだった。
「昔の、ハイスクールん時の髪型の方が似合ってた」
「……それは、その頃以来会ってなかったからだろう」
「それだけじゃねえよ。そんな気取った髪型、お前には似合わねえって」
イサムの手が、髪から首筋へと伸びる。事後の敏感な肌は、その刺激にぞくりと粟立った。そのまま数度、イサムはガルドの首筋を撫でた。普段ならすぐに跳ね除けるが、気だるさと刺激の快楽に、ガルドはされるがままだ。
「ほら、こんなん、似合わねえよ」
そう言いながら、イサムはガルドのかき上げられた前髪をぐしゃぐしゃと乱す。ガルドが慌てて止めたときには、すでに髪はぼさぼさにされてしまっていた。
「何をする!」
「あー、前はもっと前髪長かったんだな」
先ほどまでの甘ったるい空気も逃げ去り、ガルドは身を起こしベッドから降りようとする。それを見て、イサムはガルドの腕をとっさに掴んだ。
「おいおい、そんなに恥ずかしがるこたねえだろ」
「恥ずかしがってなどいない、怒ってるんだ!」
「なんでだよ」
「人の髪を、あんな風にぐしゃぐしゃとかき乱すな!」
「いいじゃねえかよ。今更だろ」
ガルドが息を飲み、反論をまくし立てようとした隙を突いて、イサムはガルドを引き寄せた。
ガルドが抵抗する間もなく、イサムはサッと触れるだけのキスをする。
「その方が可愛いって。いつもそうしてろよ」
ニヤリと笑い、ガルドの髪を撫でる。ガルドはいつも口に出すことはなかったが、撫でられるのが好きだった。
「…………も」
「ん?」
「いつもそれで通用すると思ったら、大間違いだ!」
「わっ! っと、と、お!」
勢い良く振り払われ、イサムはベッドの反対側に落ちた。
ガルドはベッドから立ち上がり、怒りの滲んだ足音を立てながら、部屋から出ようとドアに向かう。
「いっ、てぇ〜……。クソ、ガルド!」
人がせっかく誉めてやったのに、そう叫んで投げた枕は、易々とかわされ、ガルドが投げ返した枕はイサムの顔面に命中した。
ユズさんリクで1921髪の話でした。
勝手にイサガルにしてしまって申し訳ないです!
リクエストありがとうございました!
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