それはそれで幸いです



「ハッピーバースデー、俺」
「死ね臨也」

ここは俺の家。オフィスではない。
本日五月は俺の二十何度目かの誕生日で、こうして恋人のシズちゃんと祝っている。そう、恋人のシズちゃんと。

「恋人ならちゃんと祝って欲しいんだけど」
「誰が恋人だ死ね」
「普段だってそんなに死ね死ね言わないじゃん。死ね死ね団に入ったの?」
「死ね」

やっぱり死ね死ね団に入団したらしい。シズちゃんは仏頂面でザッハトルテをホールのまま、ガツガツと食べ始めた。一応それは俺の誕生日ケーキだし、買ってきたのも俺なんだけど。蝋燭は流石に恥ずかしくて貰えなかった。

「誕生日プレゼントとか無いの?」
「あると思うか?」
「ちょっとくらい期待させてほしいものだね」

せめて雰囲気だけでもと電灯を消した室内は、お互いの顔も見えるか見えないかというほど、暗い。勿論俺がシズちゃんの顔を見逃すはずは無いんだけど、シズちゃんの方はとにかくケーキに必死だ。いや、俺と会話しないことに必死なのかも。
俺は頭をがりがり掻いて、テレビのリモコンを探す。が、見つからない。必死に探すのもなんだかかっこ悪いので、諦めてソファに座りなおした。
夕食は外で食べた。ちょっと良いレストラン。流石に店内ではシズちゃんも大人しくて、久々に恋人気分を満喫できた。いや、恋人なんだけどね。

「俺はシズちゃんの誕生日、あんなにお祝いしたげたのに」
「見返り目当てかよ」
「意地悪だなあ」

シズちゃんの誕生日には、部屋を埋め尽くすほどの薔薇を届けて超高級レストランに連れてって百万ドルの夜景が見えるホテルの最上階を予約した。全て本当のことで、見返りを求めてのことではないことも確かだ。だってあのときはこんなに祝ってもらえないと思ってなかったから。
普段は俺が愛してると言えば自分も愛してると返してくれるし(相当時間はかかるけど)、キスを拒むこともない。あ、体の関係もね。それなのに今日に限ってこんな頑なに、何を意固地になっているのだろう。

「ねえシズちゃん、なんでそんなに俺の誕生日祝いたくないの?」
「お前が誕生したことは祝うべきことじゃないからだ」
「一人で一ホール食べるとか、糖尿になるよ。それ俺のケーキだし」
「もう食ったからどうしようもねえ」
「シズちゃん俺のこと嫌い?」
「………………」

嫌い、とは返ってこなかった。きっとそれは彼の本心と捉えて間違いないのだろう。それでもまだ、素直じゃないんだから、で片付けるには惜しい。
俺は彼の隣に腰を下ろし、その膝に手を当てた。シズちゃんはちょっとだけ震えて、すぐに顔を逸らした。

「嫌いなの?」
「……分かってること聞くな」
「言わなきゃ分からない」
「………………嫌いじゃない」
「まあそれで良しとするけど。何で祝ってくれないの? 俺は生まれてきてシズちゃんと出会えてよかったと思ってるんだけど」

ちょっと、いやかなり臭いセリフを吐いてしまった。シズちゃんにはこれくらいでいいのかも知れないけど。
シズちゃんは一瞬目を見開いて照れたような顔をして、すぐに唇をぎゅっと噛み締めたようだった。素直に喜んでくれていいのに。

「…………えが……」
「え?」
「……お前が生まれてこなけりゃ、俺は化け物のままで居られたのに」


室内は相変わらず暗いけれど、大分目が慣れてきて彼の動作全てがよく見える。シズちゃんは相変わらず俯き加減だけど、目元にさっと赤みが差すのはちゃんと分かった。

「シズちゃんそれってさあ、俺に感謝し」
「ちげえよバカ、勘違いすんな」
「……そう?」
「そう。……だから、お前なんか生まれてこなきゃ良かったんだ」

吐き捨てるように言って、シズちゃんは膝を抱え頭を埋めた。俺はその頭を優しく、昔九瑠璃と舞流にしてやったように撫でてやる。シズちゃんは何も言わずに大人しい。


「俺の誕生日だったはずなんだけどねえ、シズちゃんのが得してる感があるんだけど」
「知るか……」

プレゼントは貰えなかったけれど、まあ恋人が傍にいて甘えてくれることが一番のプレゼント、ってことでいいんだろう。
来年こそはシズちゃんからの積極的なアタックを所望するけどね。


みんなは祝ってくれなかったけどシズちゃんは祝ってくれました。臨也誕生日おめでとう!



 


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