「それ、どうしたんだ」
静雄が指を指した先には、服の亀裂と赤黒い染みが出来ていた。
「ああ、ちょっと取引先でね。掠り傷だよ」
臨也はごまかすように傷口を手で覆い隠した。静雄はその手をじっと見ている。嫉妬しているのかと臨也は考えた。
「斬られたのか」
「ナイフでね。相手は社会的に叩きのめしたから安心し」
一瞬で息が出来なくなった。
静雄はぎりぎりと臨也の首を絞めている。手の大きい静雄は、片手でも臨也を扼殺できそうだ。
「がっ……し、ず」
「何してんだ手前」
臨也は必死に静雄の手に爪を立てるが、それは痕さえ残さない。
「何で、俺以外のやつに傷つけられてんだ」
そう言った静雄は、それは悲しそうな顔をしていた。冗談じゃないと臨也は思った。
「し、ズぢゃ……」
「俺には臨也しかいないのに」
「死、んじゃ、がら……」
静雄は俯き、その手を離した。
へたり込んだ臨也は、激しく咳き込む。目からは涙がぼたぼたと音を立てて零れ落ちた。
「な、臨也、ぎゅってしろよ」
ぎゅっとしてくれたのは君だろうと言いたかったが、呼吸も整わない臨也にそれは叶わなかった。
「な、臨也……」
「ゲホッ、ゲッ……」
「いざ」
「わか、分かったから……」
肩で息をしながら静雄を抱きしめた。静雄は満足そうに、鼻先を臨也の首筋に擦り付ける。
「臨也……」
「はぁ、ん?」
「もしもまた誰かに傷つけられたら、すぐに俺に言えよ?」
次はお前を殺すからな。
そう告げる静雄は、いつもの獰猛なそれではなく珍しく柔和に微笑んでいた。
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