「シズちゃん! 見て見て、これサイケが作ったんだよ!」

そう言ってサイケは、テーブルに臨也と向かい合って座っている静雄に白詰草の花冠を見せた。何ヶ所か綻んでいるが、良く出来ていた。

「そっか。上手に出来たな」
「うん! これシズちゃんにあげるね!」
「いいのか?」
「シズちゃんにあげるために津軽に教えてもらったんだよ!」
「そうか、ありがとな」

静雄は花冠を受け取ると、笑ってサイケの頭を撫でた。サイケはえへへ、と嬉しそうに微笑んだ。

「津軽、サイケに教えてくれてありがとう」
「…………はい」

臨也にそう言われ、津軽も嬉しそうにはにかんだ。


その様子を、日々也とデリ雄はソファーに座って見ていた。

「楽しそうな奴らだな……」
「そうだね」

日々也はテレビを見ながら、4人の方をちらりと見た。

「サイケ君も津軽君も、必要とするものが与えられて幸せそうだ」
「あ?」

日々也の言うことがよく分からず、デリ雄は日々也の方に向き直った。

「サイケ君は人を愛すること、津軽君は誰かに愛されることを求める臨也君と静雄さんの心の写しだから、ね」
「……こないだ言ってたやつか」

二度目に日々也と会ったとき、彼は自分たちがどういった存在なのか、デリ雄に説明してきた。
サイケや津軽、日々也やデリ雄は、臨也や静雄の感情を象徴する存在なのだという。
サイケは人を愛すること、津軽は人に愛されることを求める臨也と静雄の心が、それぞれ具現化したものらしい。その2つの感情は、臨也と静雄が昔から持っている根源的、本能的なものの為、2人は子供のように純粋で単純なのだとも。
日々也の話し方は難しく、デリ雄は話の半分も理解出来なかったが。


「……こないだの話でよ、俺たちは臨也と静雄の感情の……ナンタラっつってたけどよ」
「象徴だね。それが?」
「俺とお前は、どんな感情なんだ?」

そう問うと、日々也は驚いたように目を見開いた。

「……なんだよその顔」
「驚いた。自分で分かっていなかったのかい?」
「悪かったな。お前みたいに頭が良くないもんでね」

皮肉ると、日々也はいやすまない、と苦笑した。

「そうだな、君に関してはおそらく、といったところだが……」

真面目な表情をすると日々也は美しく、デリ雄はその端整な顔に目を奪われた。

「僕は人を必要とする、人に愛されたいと思う臨也の感情から生まれたんだ」
「……え」
「王子様は1人では何も出来ない。……だから愛してくれる、必要としてくれる人を求めるんだ」

言いながら、日々也はサイケや津軽たちと戯れている静雄を見つめた。その目はとても優しくて、デリ雄は無い心臓が早まる感覚を知った。

「そんなことを、あの臨也が求めてるってのか」
「今までは考えたことさえなかったさ。臨也君は人を愛することができればそれで良かったから」
「……静雄と出会ったからか」
「君のおかげさ」

日々也はそう言って、デリ雄に微笑んだ。

「君は静雄さんの、人を愛したい、大切にしたいという感情から生まれたんだ」
「…………そんな」

そんなはずがない。
デリ雄はそう言いたかったが、喉に声が引っかかって何も出てこなかった。

「静雄さんも、臨也君と出会って人を愛したいと思ったんだろう。僕らはお互いに愛し愛されたいから生まれてきたんだ」

ファンタジックな台詞を平然と口にする日々也に、デリ雄は目眩のする思いがした。

「だから僕は静雄さんを必要とするし、君は臨也君を愛したいと思っているはずだ」
「誰があんな変態のことなんか」
「そういうところも静雄さんそのままだ」

日々也はどこまでもお上品にクスクスと笑った。

「サイケ君と津軽君はあまり愛という感情が理解出来ていないようだけど、僕らは違う」

何もかも知ったように話す日々也を殴りつけたい。デリ雄は俯いて唇を噛み締めた。


「日々也! 日々也にはこれあげる!」
「おや、指輪かい。ありがとう」

サイケは白詰草で作った指輪を日々也に渡した。一本の白詰草を結んだだけのそれは、到底日々也の指には入りそうもない。

「…………日々也、デリ雄、……臨也がホットケーキ焼いてくれるって」
「だからこっちきて!」

2人は日々也の腕を掴んでぐいぐいと引っ張る。慕われるその姿は確かに王子の風格を感じさせた。

「ほら、デリ雄君も」
「……はいはい、全く手前がワケ分かんねえ話ばっかするから頭痛くなっちまった」
「ふふ、それはすまなかったね」

日々也は悪びれもせず、微笑むばかりだ。

「……デリ雄君」
「あ?」
「臨也君が、君をもっと頼ってくれるといいね」

そう言うと日々也は2人と共に台所へ向かった。



何もかも分かったように話した日々也だったが、頭の弱いデリ雄にもそれは絶対違うと否定できることがあった。

「…………俺が好きなのは臨也じゃなくて手前だっつうの」




 


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