※クリスマス話


「…………」
「……ごめんって」

2人の目の前には、ぐちゃぐちゃにひしゃげたホールケーキがあった。生クリームどころか苺さえ原型が分からないほど潰れてしまっている。

「俺の不注意だったよ……今から買ってくるから」
「…………」


静雄が買ってきたケーキを臨也が潰してしまったのだ。
ネットで注文していた品が届き、重いそのダンボールをやっとの思いでリビングの机に下ろした。するとダンボールの下からグシャリ、と何かが潰れる音がした。
あっ、と臨也が声を上げ、静雄がそれを聞きつけ台所から顔を出す。
少々有名なケーキ店で、奮発して買ったケーキが薄くなってしまったのを視認すると、静雄もあっ、と声を漏らした。
言うまでもなく、ケーキがダメになってしまったのが分かった。


夕方の西日が窓から差し込む。眩しくて臨也は顔を歪めたかったが、そうすれば静雄はいらぬ勘違いをするだろうと思い、耐えた。
静雄は相変わらず唇を噛み締めていて、今にも泣き出しそうだ。
静雄が、甘いものを格別に好んでいることも、潰れた箱に箔押しされているロゴが都内でも有名な店のものであることも、臨也は知っていた。その分罪悪感は大きい。

「……ホントにごめんね」
「…………うっ」

ぐすっ

ついに泣き出してしまった。
こうなっては何を言っても悲しみを膨らませるだけなので、臨也は黙って静雄の隣に腰を下ろした。
そっと肩に手を回す。が、ものすごい速さで弾かれてしまった。

「ひっ……ひぃー…………」
「…………」

正直溜め息を吐きたい。
しかし必死に我慢する。悪いのはこの場合全て自分なのだ。
なんだってクリスマスにこんな目に遭わなければならないんだ、という憤りは無くせないが、今はじっと静雄の出方を待った。

「ひっ……せっかく……」
「うん……」
「………………」

せっかく、何だよ!

心の中だけで突っ込む。
泣いている人間はいつだって理不尽だ。あまり涙を流さない臨也には、感情が高ぶりやすい静雄の考え方はよく分からなかった。

「ケー、キ……」
「まだ間に合うよ、買ってくるから」
「違うー……」

ぶんぶんと頭を左右に振る静雄に、臨也はもうお手上げだった。
違うと言われても、ケーキの話をするんじゃなかったのか。


どうしようもなくなって、臨也は体の力を抜きソファーにしなだれた。
すると、静雄がぐすぐすと鼻をすすりながら臨也と向き合うように、その膝に跨った。

「え、シズちゃん!?」
「……ひっぐ」

そのまま静雄は、きつく臨也を抱きしめた。
余りに突然で、思わず声が裏返ってしまう。静雄は子供のように体温が高い。

「…………今日」
「今日?」
「今日、が終わるまで、こうしてろ」


泣いている人間はいつだって理不尽だ。
今日が終わるまで、まだ180度以上ある時計を見ながら臨也はとうとう溜め息を吐いた。


リア充すぎるのでケーキはボッシュートしました



 


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