イエローライ



遠くで何かが唸る声が聞こえる。
今日は満月だから、きっと野良犬が吠えているのだろう。

「……シズちゃん、もう冷えてきたし帰ろう」

彼は何も言わず、この暗い路地裏に座り込んだまま動かない。機嫌を損ねてしまったのは俺だ。

「いくら春が近いからって、こんなとこずっといたら風邪引いちゃうよ」

それでも彼は答えない。彼は頑固なところがあるから、俺はただ立ち尽くして彼の機嫌が直るのを待つことしかできなかった。
唸り声はだんだん近づいているようだ。夜空を見上げれば、満月が皓々と輝いている。シズちゃんの金髪はその光を受けて、薄く発光して見えた。

俺とシズちゃんは恋人同士だった。
高校で出会ったときに俺が一目惚れしてから、紆余曲折ありながらもこうして付き合っている。惚れた弱みか、俺はシズちゃんの言うことには逆らえない。彼が可愛くて仕方が無かったからだ。だけど、シズちゃんは無茶な望みを口にすることは殆どなかった。彼はとても従順な男だった。

「ねぇシズちゃん、何をそんなに怒ってるの」

……そういえば、彼は今日俺に何を頼んできただろうか。俺は彼の望みを叶えてあげられなかったのだろうか。だから彼は、こうして座り込み口を利いてくれないのだろうか。確かに今日の彼は悲しそうな顔をしていたように思う。
月の光はどんどん強くなって、俺の背中を痛いくらいに照らす。こんなにも、月の光とは眩しいものだっただろうか。肌に熱を感じるほどに熱い。そのせいか、シズちゃんの顔も赤く火照っていた。そっと、冷えた手の甲を彼の頬に当てる。見た目よりも、シズちゃんの頬は冷たかった。



犬の遠吠えは、気付けば止んでいた。
光が俺の背と彼の赤を照らす。
彼の望みは、きっと叶えられた。




 


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