大●●な君のことをもっと知りたい




「好きだ。お前が」

臨也は何も答えない。






ここ数週間、静雄が自分に突っかかってこないのを臨也は不審に思っていた。旧友の闇医者に何かおかしなところは無いかと訪ねれば、静雄は恋をしているようだと、返事が返ってきた。
好きな相手に乱暴な姿は見せられないとでも言うのだろうか。化け物なのに。それならば自分は関係無いのかとも思ったが、それしきの理由で彼が自分を殺そうとするのを止めるとは思えない。そう信じられるほど、臨也は静雄が自分を憎むよう懸命な努力を何年も続けてきた。

次は静雄を監視した。
別段変わった様子は無かったが、ある日静雄は、わざわざ誰も近寄らないような廃ビルでデュラハンと会った。
待ち合わせを知った臨也は、静雄が気付かないようにベストの襟の裏に盗聴器を仕掛けておいた。



「セルティ……俺が恋してる、って言ったら、笑うか?」

PDAに何かを打ち込んでいる音がする。打たれた文字は臨也には分からなかったが、静雄が安堵の息を漏らしたらしいことは分かった。
ジャリ、と静雄が足を動かす音がした。

「自分でもよ、可笑しいって分かってるんだ。でも、でもよ……」

好きなんだ、臨也のこと。



握っていたマウスが、ギチ、と軋んだ。
背中をぞくぞくと痺れが走る。頭はジンジンと脈打った。


あああ、シズちゃんが俺のことを好きだなんて!

臨也には願ってもみない幸福だった。ずっと、静雄を見つめて来たのだ。初めて会った日から。彼が自分に微笑んだことは一度もない。それならばその憎しみの炎がすぐに消えないようにと、沢山の努力をしてきた。お陰で静雄は臨也を見たなら飛んでくる。それをまるで愛しい人を見つけた少女のようだと、臨也はいつも考えていた。
その静雄が本当に自分を好きになってくれるなんて!


(シズちゃん、早く告白しに来ないかなあ)

臨也は今か今かと待ち続けた。セルティ以外の人間には臨也に惚れているとは言ってないようだったので、静雄の恋愛を応援するよう、それとなく周囲の人間に刷り込んだ。
その成果か、静雄は新宿に向かっている。静雄の携帯に細工したGPSが彼の接近を表すのをにんまりと口元を歪めて確認し、臨也はコートを羽織り家を出た。



11月も下旬となればかなり冷え込む。臨也は携帯を見て、ポケットに手ごと突っ込んだ。
静雄が歩いてくるのが見える。

「あっれー? シズちゃん久しぶりだね。なんで新宿に居るのかな?」
「っ、ノミ蟲。……仕事だ」
「そう」

嘘を吐く姿も愛らしい。
臨也は頬が緩むのを必死にこらえた。

「最近俺のこと避けてたみたいだけど、今日はどうしたの?」
「テメェに、話があんだよ」

(キタキタキタッ!)
つい、クッ、と喉を鳴らしてしまった。

「何かな? シズちゃんが会話という手段を持ち出すなんて珍しい」
「…………」


「俺よ、俺は……」

好きだ。お前が。


臨也は何も答えない。



1分ほど、二人は黙ってお互いを見ていた。我ながらよくこんなに黙っていられると、臨也は思う。

静雄が先に口を開いた。

「……悪い。忘れてくれ」
「そうやって、俺の返事は聞いてくれないの?」

静雄は目を見開いた。
まあ、こういう状況でこんな台詞を聞けば、良い返事を貰えると期待するものだ。化け物の割には思考速度が速いと臨也は感心する。
臨也はにこりと笑った。
ゆっくりと、静雄に近付く。静雄は困ったような、期待したような目で臨也を見た。

「女みたいな目で見ないで」
「え、」

「シズちゃん、気持ち悪いよ。常々思ってたけどね。俺は情報屋だよ? ベストの襟の裏見てみな。盗聴器付いてるから。あ、家のも全部ね。さて、シズちゃんはどうやら俺に受け入れて貰えると淡い期待を抱いていたようだけどそんな上手くいくわけないじゃん? 俺ゲイでもバイでもないし。もし男がイケたとしてもシズちゃんだけは有り得ないけどね。まあ分かったらさっさと帰って。それで最近そうしてたように俺を避けてよ。俺はすごく優しいから、片思いなら許してあげる。出血大サービスだよ?」

臨也は微笑んだまま言い終えた。


静雄は、引きつった表情のまま動かなかったが、やがて震えながら俯いた。

「聞こえなかった? さっさと帰って。俺コンビニ行くから」
「………………」

ごめん、と小さく呟いて、静雄は来た道を逆に走り去っていった。彼が立っていた場所には、数滴濡れたあとがある。臨也は、彼が見えなくなったのを確認すると、コンビニへと向かった。





「おかえりなさい。……何? 平和島静雄のところへ行ったんじゃなかったの」

波江は、臨也の手に提げられたコンビニ袋をみとめてそう言った。

「よく分かったね波江さん。恋の気配には敏感なのかな? 流石恋する乙女は違うね」
「四六時中彼を監視してたじゃない。嫌でも気付くわ」

臨也は冷蔵庫に買ってきた飲み物を入れ、食器棚からスプーンを取り出す。

「で、平和島静雄とはどうなったの? そろそろ告白してくれそう、だったんでしょ」
「うん、告白された。それで、フってきた」

臨也はソファーに座り、テレビを付けた。

「まだ仕事残ってるわよ。なんでフったの? 私なら誠二から告白されたら……」

波江は頬を赤く染め、恍惚とした表情を浮かべる。

「波江さんは献身的だからねえ。でも俺は違う。俺はずっと、何年も片思いしてきたんだよ? シズちゃんにも同じ気持ちを知ってもらいたいんだ」

臨也はプリンの蓋をペリペリと剥がした。

「まあ五年も六年も、とは言わないけどね。一年くらいかなあ。片思いの相手に気持ち悪い、死んでほしいと思われるこの感じ、シズちゃんも痛感するよ。そうしたら、俺達もっとお互いのこと分かり合えると思うんだ」
「その間に飽きられるんじゃない」
「もちろんそうならないよう努力するさ。愛しいシズちゃんのためならね」

スプーンで掬い、口に入れる。安く大量生産された味だ。臨也はこういった食べ物が大嫌いだった。

「それで、彼の好きな食べ物を食べるの。とんだマゾヒストねあなた」
「ある意味間接キスだよ。結構良いものだ。波江さんも試してみたら?」
「……考えておくわ」

カップラーメンはあったかしら、と呟きながら仕事場に戻る波江を横目に見ながら、臨也はまたプリンを一口食べる。
やはり監視は大切だ。彼の嗜好がよく分かった。今頃泣きながら盗聴器を探しているだろう静雄のことを考えながら、臨也は彼の弟が出ていないかとチャンネルを変えた。




 


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