【小話】鯖煮:ロナジョ

・ロナジョでもジョロナでも
・辻褄はログアウトしました
・最近鯖煮ばっかですみません……




「おいジョー! 何をしてるんだ!」
「何って……見てのとおり、夜景眺めてたよ」

まだ日付の変わる前、月の大きく出ている夜。
都心の高層ビルはほとんど崩れてしまったが、いくつか残っている物もある。
ジョーとロナウドはそんなビルの屋上にいた。

「いや〜やっぱりちょっとずつ復興してるもんだねえ。希望の光ってカンジ?」
「いいから早くこっちへ来い……!」

ジョーはパタパタと足を揺らす。その下は道路で、距離は二十メートル近くはある。高所の風は強く、ジョーのスーツがはためく。
落ちれば、間違いなく、死ぬ。ロナウドはそういったことが分かっていながら自ら飛び降りた人間の亡骸を、何度か目にしたことがあった。
不意に突風が吹いて、ジョーの帽子を掴み去った。一度高く舞い上げられた帽子は、自然な速度でビル側へと落下した。すかさずロナウドが拾い上げる。

「ほら、危ないだろう! こっちへ来るんだ!」
「んー……なんでクリッキー、そんなに焦ってんの?」
「なんでって……!」

ジョーは大きく伸びをして、そのまま後ろに倒れた。逆さにロナウドを見つめる。

「俺だっていい大人よ? そう簡単に落ちないって」
「そういうことを言う奴に限って落ちるんだっ!」
「それともぉ」

カタリ、と音を立ててジョーの眼鏡が落ちる。ジョーは夜交わる時でさえなかなか眼鏡を外したがらない。滅多に見ない、何も遮る物の無いジョーの眼差しは、強くロナウドを動揺させた。

「クリッキーは、俺が死んじゃうって思ってる?」
「な…………」

ジョーはにっこりと笑った。

「俺がこっから飛び降りて死んじゃうんだーって思って、こっち来いって言ってるの?」
「何を……ジョー、そんなこと言うな、」
「あはっ、やっぱそっか」

ジョーは反動を付けて体を起こした。そのまま落ちてしまいそうだったので、ロナウドは思わず身を強ばらせた。
座ったままくるりと回り、ジョーはこちらに向き直る。

「クリッキーは、俺がこっから落ちたらどうする?」
「馬鹿なことを言うな! 冗談が過ぎるぞ!」
「冗談じゃないってば。泣いてくれる? あ、その前に怒るかな。あっでも、クリッキーって元刑事だし現場を保存?ってやつ、したりするのかな?」
「ジョー、いい加減にしろ……!」
「そんなに怒んないでよ〜」

あくまでジョーの態度は何時もと変わらない。ヘラヘラした笑いを浮かべている。やはりその笑顔の意味はロナウドには分からない。無意識の内に、ロナウドはジョーの帽子をきつく握り締めた。

「もうさ、平等な世界も実現したし、ここで死んじゃってもまあいっかなー、みたいな、ね〜」
「もう止めろ! 早くこっちへ来い!」
「そっち行って、どうすんの?」
「何……!?」

ジョーはゆっくりと革靴を脱ぎ、辺りに放り投げた。まるで自殺する者が死の準備をするかのように。
投げた片方の靴は、先ほど顔から落ちた眼鏡を踏み潰して転がっていった。眼鏡はフレームが曲がり、レンズは外れ傷が入っている。それでもジョーは気に留める様子を見せなかった。

「ここで死なずに、クリッキーの方へ行って、帽子受け取って、何事もなくこのビルから出る。クリッキー的には、そっちのがいいよね?」
「当たり前だろう!」
「そっか。……でもね、俺的には、ここで落ちても、クリッキーの方に行っても、同じことなんだよねえ」
「何を……言ってるんだ」

ジョーは靴下のまま、屋上の淵に立ち上がる。ふとロナウドが気付くと、大きな月がジョーの背中にあった。白い光がジョーを照らし、逆光になっている。

「もし俺がそっちの方に落ちたら、クリッキーは助けてくれるかな?」

おそらくジョーは笑っていた。ロナウドはそう思った。
しかし、照らす光の無い表情はどんなものだったのか。ついにロナウドがそれを知ることは無かった。


 





2011/10/02 00:47
<< >>


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -