【小話】鯖煮:ロナジョ

・鯖煮のロナジョもどきです
・平等ルート後ぽい
・矛盾とか気にしたらアレ







「あ、いて」

台所から聞こえた小さな悲鳴に、ロナウドは新聞から顔を上げた。

「どうした?」
「や〜、包丁で指切っちゃった。でもちょびっとだけだよ〜」
「ちょびっとって……見せてみろ」

ジョーは、自分の体に無頓着だ。悪魔を使い戦っていたあのときも、よく戦闘不能になるまで黙っていたものだ。
ロナウドが台所に来ると、まな板の上に途中まで切られた胡瓜があった。二人の食事ではなく、ジョーが自分の酒の肴にするために切っていたものだ。

「お前、こんなに血が出てるじゃないか!」
「ちょちょ、大げさだってば」

ジョーの人差し指からは、たらたらと、止めどなく血が流れ出ていた。よく見れば、まな板の上の胡瓜も、端の方が赤く染まっている。

「こんくらい舐めとけば平気だってば。ジョーさんこれでも男の子なんだけど……」
「雑菌が入ったらどうするんだ。よく流してからこっちにこい、救急箱があるから」

そう言って、ロナウドはリビングに戻る。救急箱は本棚の一番下の段にあった。乙女に言われて、この家に住むようになってからすぐに用意したものだ。
遅れてジョーがリビングに入ってくる。素直に傷口は流水で流してきたらしかった。

「ほら、こっちに座るんだ」

自らもソファーに腰掛け、ジョーに座るよう促す。ジョーはそれに素直に従った。傷口はきれいに流されていたが、あっという間に血が滲み、痛々しい線が浮かんだ。
ジョーは笑顔とも泣き顔ともつかないような表情で、傷を見ている。やはり痛むのか、とロナウドは思案した。痛いなら痛いと、ちゃんと言えばいいのに。
消毒液に浸された脱脂綿をピンセットで摘まみ、傷口を軽く叩く。ジョーの表情は揺れることもなく、ロナウドの手を見つめている。指から滴り落ちようとしている消毒液を拭き取り、絆創膏を貼った。それは、指に貼るには少しばかりサイズが大きく、関節に合わせてたわんでしまった。

「これで大丈夫だ。治るまで貼っておけよ」
「……ん、ありがと」

笑って礼を述べたが、相変わらずジョーの纏う空気は澱んでいる。

「やはり痛むんじゃないか?」
「……クリッキー、さ」

自分の名前を呼ぶ声は、今まで聞いたことのないような冷たい声だった。ロナウドは驚いてジョーの顔を見る。

「クリッキーさあ、気持ち悪いくらい人に優しいよねえ」
「え……」

「普通包丁で指切ったくらいでこんなに手当てしないでしょ? あ、警察でそういうのも指導があるのかな? それとも、俺がクリッキーの恋人だから?」
「おい、ジョー……」
「まあ優しくないと平等主義なんて掲げないか。って、こういうと俺が優しい人って言ってるみたいだね。そんなわけないけどさ」
「ジョー!」


無理矢理に言葉を遮られたジョーは、こちらを見ようともしなかった。その表情は、やはり泣き笑いだ。ジョーは一度大きく息を吸って、そして吐いた。

「……どうしたんだ」
「どうもしてないよ。…………そんなわけ、ないか」

ごめんね、とジョーは小さな声で呟いた。
謝罪が欲しかったわけではない。むしろ、嬉しいような気さえしている。ジョーはいつだって自分の気持ちを隠し、笑っているだけだった。恋人となった今も。
それがこうして、語気を荒げ、ぐちゃぐちゃになった心を吐露している。苛立ちがロナウドでなく、ジョー自身に向かっていることくらいはロナウドにも分かった。

八つ当たりをされて嬉しいなど、自分はやはり変なのだろうか。それとも、それだけジョーに惹かれているということなのだろうか。
ちらりとロナウドの方を見たジョーは、すぐに目を逸らした。きっと怒っていると勘違いしたのだろう。そんなことはないと宥めればよかったが、ロナウドは今しばらく、不安げなジョーを見ていたかった。





ロナジョもっと増えろ



2011/09/11 23:42
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