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君が待つ場所




刀鍛冶の里で上弦の鬼を倒し、無一郎は記憶を取り戻した。

鬼の出現がパタリと無くなった今、
隊士の戦力上昇に伴う稽古に時間を使う事がお館様の方針で決まった。
隊士の訓練は元音柱 宇髄天元の基礎体力向上の稽古から始められる。
無一郎の元へ隊士が来るまで、無一郎には少しの暇ができた。




記憶を取り戻した無一郎には、向かいたい場所があった。

いつもの様に門の前に立ち優しい笑顔で出迎えるなまえ。
無一郎はなまえさんと名前を呼んで手を振り、小走りで駆け寄る。なまえは無一郎に気づき手を振り返した。


「お待ちしておりました、無一郎様。もしかして、記憶を取り戻されたのですか?名前を呼ばれて驚きました。」
「うん。いろいろあったんだ。なまえさんの名前忘れてて、ごめん。あと会話も覚えてない事あったし…。」
「覚えていてくれたのですね。それだけでとても嬉しいです…。」

なまえ は口元を押さえて涙ぐんだ。
無一郎はなまえの事を名前で呼べず、今まで忘れていた事に対して謝る。

なまえ はそんな事は気にしないで。やっぱり無一郎様は優しいお方です。と涙を流しながら笑った。




天気もいいので縁側でお茶にしましょうとなまえに案内された無一郎。

鳥のさえずりが心地よく心が落ち着く。
より居心地が良いと感じるのは、なまえが居るからなのかもしれない。

「こうしてなまえさんの事をちゃんと思い出せたのも、炭治郎と刀鍛冶の里で会った小鉄くんのおかげなんだ。本当に二人には感謝してるよ。」
「無一郎様にとって大切な方たちなのですね。」
「そうなんだ。だけど......僕にとってはなまえさんも大切な人だよ。」
「……え?」
「記憶がなくてもどこかでなまえさんに会いたいって思ってたんだ。」

無一郎の言葉が真っ直ぐでなまえはまた目頭が熱くなるのを感じる。
いつからこんな泣き虫になったのだろうとなまえは思った。


ありがとうございますとお礼を言うと同時に体を引き寄せられて無一郎の胸に収まった。
なまえは突然の事に慌て体を離そうとするも、離すまいと無一郎は少し強い力で抱きしめる。


「あ、あのっ、無一郎様?」
「ごめん。少しこのままでいいかな。」
「どうなさったのですか?」

なまえの肩に無一郎の頭が乗る。無一郎の髪が少しくすぐったい。
なまえはゆっくり手を回して無一郎の背中を撫でる。それは子供をあやす母親みたいだった。


「鬼の出現が止んだんだ。きっと近いうちに鬼舞辻無惨が動き出すと思う。そしたら僕は迷いなく戦いに行く。もしかしたら………」

無一郎の言葉が止まる。なまえはその言葉の意味を汲み取ると、背中を撫でる手を止めてギュッと隊服を握った。
そして、震える声を振り絞り、明るい声で無一郎に話しかける。

「戦いが終わったら、また会いに来て下さい。無一郎様の大好きなふろふき大根を作って待ってますから。」

ね?約束ですよ。と体を離して無一郎を見つめた。
なまえは瞳にたくさん涙を溜めて笑うと無一郎も顔をゆがませ笑う。
二人は額をコツンと合わせ、無一郎は約束するよと言った。








それから、二か月後、
なまえの元に鴉から時透無一郎の訃報が届いた。

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