02.-3
「あー、組分けを見逃しちゃった!」
大広間に到着すると、マクゴナガルは教職員テーブルの方へ向かっていってしまった。
既に組分けは終わっていた。
新入生らしき小さな子ども達が、緊張した様子で席に着いている。
ハーマイオニーは残念そうだった。
楽しみにしていたのかもしれない。
「一体何だったの?」
出来るだけ目立たないように、名前達はグリフィンドールのテーブルに向かった。
席を取ってくれていたロンに座るように促され、途端、開口一番にそんな事を尋ねられる。
ハリーは説明しようとしたのだろう。ロンの耳元に顔を近付けた。
しかし丁度その時。
ダンブルドアが立ち上がったので、ハリーは話す事を止めた。
「おめでとう!」
ダンブルドアのブルーの瞳が、三日月状に弧を描く。
長い銀髪と揃いの色の顎髭が、蝋燭の光に照らされキラキラと輝いた。
「新学期おめでとう!
皆にいくつかお知らせがある。
一つはとても深刻な問題じゃから、皆がご馳走でボーッとなる前に片付けてしまう方がよかろうの……」
エヘン。
ダンブルドアは一つ咳払いをしてから口を開いた。
「ホグワーツ特急での捜査があったから、皆も知っての通り、
我が校は、ただいまアズカバンの吸魂鬼、つまりディメンター達を受け入れておる。
魔法省の御用でここに来ておるのじゃ。」
『…』
汽車内では眠りこけていた名前だが、マクゴナガルとマダム・ポンフリーが話していたので、それは知っている。
二人が話さなかったら、名前は今の今まで知らずにいたかもしれない。
「吸魂鬼達は学校への入口という入口を固めておる。
あの者達がここにいる限り、はっきり言うておくが、誰も許可無しで学校を離れてはならんぞ。
ディメンターは悪戯や変装に引っ掛かるような代物ではない―――
『透明マント』でさえ無駄じゃ。」
ダンブルドアの視線が一瞬、ハリーとロンの二人に向けられた気がする。
「言い訳やお願いを聞いてもらおうとしても、ディメンターには生来出来ない相談じゃ。
それじゃから、一人一人に注意しておく。
あの者達が皆に危害を加えるような口実を与えるでないぞ。
監督生よ、男子、女子それぞれの新任の首席よ、頼みましたぞ。
誰一人としてディメンターといざこざを起こす事のないよう気を付けるのじゃぞ。」
ダンブルドアは言葉を切ると、真面目な顔で生徒達を見渡した。
生徒達は皆、そんなダンブルドアを息を凝らして見つめている。
「楽しい話に移ろうかの。」
声の調子が穏やかなものに変わる。
「今学期から、嬉しい事に、
新任の先生を二人、お迎えする事になった。
まず、ルーピン先生。
有難い事に、空席になっている『闇の魔術に対する防衛術』の担当をお引き受け下さった。」
「スネイプを見てみろよ。」
同じコンパートメントに乗り合わせたハリー達だけが力強い拍手を送り、他はパラパラと拍手が起こっただけだった。
そんな静かな拍手が起こる中、そっとロンが囁くままに、名前達四人はスネイプを見る。
スネイプは教職員テーブルの向こう側からルーピンを睨んでいた。
スネイプが「闇の魔術に対する防衛術」の席を狙っているのは、広く知れ渡っている事だった。
それにしても今の表情は異様なほど、憎しみに満ちている。
「もう一人の新任の先生は」
やる気のない拍手が止んでから、ダンブルドアは続けた。
「ケトルバーン先生は『魔法生物飼育学』の先生じゃったが、残念ながら前年度末をもって退職なさる事になった。
手足が一本でも残っているうちに余生を楽しまれたいとの事じゃ。
そこで後任じゃが、嬉しい事に、
他ならぬルビウス・ハグリッドが、現職の森番役に加えて教鞭をとって下さる事になった。」
ハリー、ロン、ハーマイオニーの三人は驚いたようで、一斉に顔を見合わせた。
名前だけは相変わらず無表情のまま、皆と一緒に拍手を送っている。
盛大な拍手の中、ハグリッドは真っ赤な顔をして俯いていた。
髭に埋もれていて、どんな表情を浮かべているのかは分からない。
「そうだったのか!」
突然ロンはテーブルを叩きながら叫んだ。
叩いた音も叫んだ声も、拍手の音にかき消されてしまっていたが。
「噛み付く本を教科書指定するなんて、ハグリッド以外にいないよな?」
長い長い拍手の雨。
名前達四人は、拍手が途切れる最後まで手を叩き続けた。
その拍手が止んで、ダンブルドアがまた話を始めた時。
背後の教職員テーブルの席に座るハグリッドが、テーブルクロスで目元を拭っているのを見た。
「さて、これで大切な話はみな終わった。
さあ、宴じゃ!」
テーブルに並べられた、何も盛られていない金の皿、金の杯。
そこに溢れんばかりの食べ物と飲み物が現れると、途端に大広間は賑やかになった。
「おめでとう、ハグリッド!」
宴会が終わり、各々寮に戻り始めたその間に、名前達は教職員テーブルに向かう。
向かう先にいるのは、教職員テーブルの席に座るハグリッドだ。
ハーマイオニーがお祝いの言葉を送ると、ハグリッドは顔を赤くさせて微笑んだ。
「みんな、あんた達四人のおかげだ。」
『…』
身に覚えが無い様子で、名前は首を傾げている。
ハグリッドは無実の罪でホグワーツから退校処分を受けているが、
去年の名前達の行いにより、ハグリッドの名誉を回復させたらしい。
ナプキンで顔を拭い、ハグリッドは四人を見た。
「信じらんねぇ……偉いお方だ、ダンブルドアは……。
ケトルバーン先生がもうたくさんだって言いなすってから、まーっすぐ俺の小屋に来なさった……
こいつは俺がやりたくてたまんなかった事なんだ……」
そこまで話すとハグリッドは言葉を詰まらせ、ナプキンに顔を埋めた。
すると、マクゴナガルが四人を見て、無言であっちに行きなさいというふうな合図をする。
ハグリッドは話せる様子ではないが、別れの挨拶と寝るときの挨拶をしてから、名前達はグリフィンドール塔に向かった。
「合言葉は?」
わらわらと群がるグリフィンドール生達に向かって、「太った婦人」の大きな肖像画が尋ねた。
合言葉を知らない生徒達は、もちろん答えられるわけがない。
まごつく生徒達の背後から、慌ただしい足音が近付いてきた。
「道を空けて!道を空けて!」
パーシーの声だ。
肖像画の前に辿り着くと、叫ぶように言った。
「新しい合言葉は『フォルチュナ・マジョール。たなぼた!』」
「あーあ。」
それを聞いて溜め息を吐くのはネビルである。
彼は合言葉を覚えるのにいつも苦労していた。
合言葉に限らず、彼に苦労は多いが。
開いた肖像画の、裏の穴を通る。
穴を抜ければ、談話室が見えた。
暖炉に火が灯され、暖かなオレンジ色の光が談話室を照らしている。
『…』
カクン、と首を傾げ、名前はハリーを見つめる。
部屋を目指して歩きながらも、ハリーはぐるりと談話室を見渡していた。
その目ははっきり、喜びに輝いているのだ。
『…ハリー。』
「なに?ナマエ。」
そして螺旋階段を上がる現在も、スキップでもしそうなくらいに足取りが軽やかだった。
返事の声も弾んでいる。
名前を見るハリーの顔には、微笑みが浮かんでいた。
『嬉しそうだ。』
「うん。嬉しいよ。
我が家に帰ってきた気がするんだ。」
言って、ハリーは笑みを深くする。
すっかり元気になった様子に、名前の口角もつられるように微かに上がった。
もちろん、第三者には全く分からない程度に。
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