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「どうしたらいいんだろう?」





ジョージがリー・ジョーダンのところへ行くのを見送ってから、ロンは囁いた。

混雑した談話室で、そんな小さな声で話されては聞こえない。

ハリーと名前は、ロンに身を寄せた。





「ハグリッドが疑われると思うかい?」



『…』





ロンの口から出た言葉は意外なものだった。
少なくとも、名前にとっては。
ハリーはその言葉の意味を理解しているようで、黙っていた。

話が通じていないのは名前だけである。





「…どうしたの?ナマエ、なんだか落ち着かないけど…。」



『…』





二人の顔を見比べていた名前に向かって、ロンが不思議そうに言う。





『…どうして、疑われる。』



「だって、日記にそうあったって、…ねえ、そうだろ?ハリー。」



「うん。」



『日記…』
首を傾げている。


「君、まさか忘れたわけじゃないよね?昨日盗まれたじゃないか。リドルの日記だよ。」



『…何か、書いてあったのか。』



「………」



「………」





ハリーとロンは顔を見合わせた。

それから名前を見た。





「もしかして、話、してない?」



『…』
頷く。



「ご、ごめん。話したつもりになってたみたい。」



「あの後…
僕、色々試してみて分かったんだ。」



『…』



「日記には、記憶が記されていたんだ。そして見せてくれた。
五十年前に『秘密の部屋』の扉を開けたのは、ハグリッドだったんだ。

でも、ハグリッドが誰かを殺そうだなんて、絶対思わない…」



「また誰かが襲われないかぎり、何も言わないでおこうって決めてたんだけど…」



「ハグリッドに会って話さなくちゃ。」





しっかりした口調でハリーが言った。

決意は相当堅いらしい。





「今度はハグリッドだとは思わない。
でも、前に怪物を解き放したのが彼だとすれば、どうやって『秘密の部屋』に入るのかを知ってるはずだ。それが糸口だ。」



「だけど、マクゴナガルが、授業の時以外は寮の塔から出るなって―――」



「今こそ
パパのあのマントをまた使う時だと思う。」





ロンはハリーを見詰めて、ぽかんと口を開けた。

それから徐々に笑顔になる。





「そうか。その手があったか!」



『ロン、声が大きい。』



「あっ、ごめん…。
でも、どうやるんだい?」



「いつも通りベッドに入る。
皆が寝たらローブを着て、行動開始だ。」





真剣な表情でロンが頷いている。

しかし、男子三人がこそこそと頭を突き合わせるこの状況。

異様である。

混雑しているので身を寄せ合ってもおかしくはないが。





『…気を付けて。』





二人のつむじを見下ろしながら、名前は呟いた。

二人は目を見開いて名前を見る。





「ナマエ、行かないの?」





ハリーとロンは、普段名前がそうするように、じっと見詰めた。

視線が突き刺さる。
不安げな、すがるような視線だ。

名前は、そろりと目をそらす。
暖炉の炎で目を止めた。





『…マントの丈、足りない。』





暖炉の炎を見詰めながら、名前はそう言った。

二人は呆然とする。

それから名前の頭の天辺から足の先までを見た。





「確かに。」





ハリーとロンは同時に呟いた。
いつになく真面目な顔で。

見れば分かる。
絶対に足りない。
たとえ名前が中腰になってもだ。

余談だが。

名前の最近の悩みは、成長痛で寝不足気味な事である。














「ナマエ…」



「ナマエってば…」



「ねえ。ナマエ、起きて。」



「お願い、ナマエ…」



『…』





体が揺さぶられる感覚がする。
名前の意識は浮上した。

ぱちり。
目を開く。

まだ辺りは闇の中だ。





『ハリー、ロン…』





暗闇の中。
月明かりに照らされて分かった。

ローブを着た二人が、名前のベッドに座っていた。





『…今、帰ってきたの。』



「うん。」



「起こしてごめん。」



『いや。…おかえり。』



「…ただいま。」



「ただいま。」





二人は少し照れ臭そうだ。
けれどすぐに引き締める。





「ナマエ、大変なんだよ。」



『…何かあったのか。』



「ハグリットがアズカバンに連行されちゃったんだ…ダンブルドアも、やめさせられちゃった。
ダンブルドアがいなけりゃ、もう学校を閉鎖するしかないよ。」



『…』





ロンは頭を抱えている。
名前は首を傾げた。





『どうして。…そんな事になったんだ。』



「ハグリットのところに、ダンブルドアと魔法省大臣が来たんだ。」





頭を抱えるロンに代わり、ハリーが口を開いた。





「ハグリットには、…前科があるから。
その前科は、今起こっている襲撃事件と関係しているんだ。」



『…五十年前の、』



「うん。…

それから、ルシウス・マルフォイが来た。ドラコ・マルフォイの父親だよ。
そいつがダンブルドアに『停職命令』を出したんだ。
理事が全員署名してるとか言って…。」



『…』





名前はその名前を知っている。
実際に会ったのだから。

プラチナブロンドをオールバックにした、息子であるドラコ・マルフォイとよく似た男。
自分の父親の後輩だと言っていた。

ダイアゴン横丁で出会った日を、ぼんやりと思い描く。





「どうしたらいいんだろう。」





話し終えたハリーが呟く。
背中を丸めて、手を握り締めている。





「ホグワーツはどうなってしまうんだろう。」





その問いに答える者はいない。

誰にも分からないのだから。

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