21.-2






「うわ―――っと
千堂怯まない!

直ぐ様打ち返したあっ!!」





幕之内へ向けて、千堂が素早く拳を繰り出す。

歓声が大きくなっていく。





「ガードを固めてねばる幕之内!

第3ラウンド残り30秒をきった!
さあ千堂時間内でしとめられるか!?」





ロッキーコールが始まった。





「ボディ!!」





幕之内の鳩尾に、刺すようなパンチが入る。





「あ〜〜っ
幕之内
ガードがおちた!」





幕之内は前のめりになった。

すかさず千堂は拳を繰り出す。





「千堂
右―――っ!!」





幕之内は、片手でそのパンチを防ぐ。





「左―――っ!!」





幕之内の顔面に当たった。
大きく顔が歪む。





「ロッキーコールにのって千堂が攻める!!

実況席の我々の声が聞こえるでしょうか!?

それほどの大歓声です!!」





幕之内は防げないでいる。
打たれるばかりだ。





「アッパー入ったあ!」

「右!」

「左!」

「幕之内メッタ打ち!

第3ラウンド終了まであと7秒!!
耐えられるか幕之内!!」





手を振りかざし、観客は息を合わせてロッキーコールをしている。

熱狂的だ。

ちょっと異常とも呼べる光景である。





「あと3秒!

しとめきるか千堂!!」





今や幕之内の顔は腫れ上がっている。

それでも立っていた。





「あと2秒!!」





ロープにもたれかかった幕之内。

ズルリ。
体が沈んだ。





「幕之内、体の力が抜けた!

倒れるか!?」



カンカンカン



「こ、ここでゴング!
幕之内、かろうじてゴングに救われ…

ああ〜〜っ!!」





千堂のパンチが幕之内の顔面に当たった。

その後も、拳を繰り出すことを止めない。





「だ、大歓声でゴングが聞こえない!!

レフェリーも気付いていません!」





力の抜けた様子の幕之内。

千堂に打たれるままに、右へ左へと体が流れる。





「棒立ちで打たれる幕之内!

これは危険だあっ!!」





幕之内の口から、血塗れのマウスピースが吹き飛んだ。





カンカンカンカンカン



「第3ラウンド終了のゴングが大歓声で聞こえないっ!

千堂
手を止めない!
レフェリー
気付きません!

幕之内
棒立ち!!
危険です!

これは危険ですっ!!」



「ま、まずいですよ、これは!!」





実況席から焦る声が聞こえる。

歓声に交じって、それはほとんど聞こえない。

その間も、千堂は拳を振るい続けている。





『…』





ただただ殴る。

千堂の鋭い目付きが、ますます鋭くなっている。

まるで、我を忘れてしまったかのような表情だ。

千堂は短気だ。
そして正直だ。

幕之内にダウンさせられた。
気に入らなかったのだろう。

しかし。

いくら短気な性格だとしても。
声援に応えるためだとしても。





『…』





自我が無くなってしまったような。

そんな千堂の姿を、名前は見た事がない。






「レフェリー―――!!」



カンカンカンカンカン





幕之内側のセコンドが声を上げた。
ロープをくぐり、リングに上がろうとしている。





「レフェリーゴングー!!」



カンカンカンカンカン





声に気付いたようだ。
鳴り響くゴングにも。

レフェリーは急いで千堂を止めにかかった。





「千堂!!
ストップだ!

ゴングだっ!

千堂―――っ!」





羽交い締めにして止めようとするが、弾き飛ばされてしまった。





「うわっ!」



「千堂おおっ!!」





柳岡の声がした。

幕之内側のセコンドが、庇うように幕之内を抱き締めた。





「千堂!!
ゴング鳴ったぞ!

コーナーへ戻るんや!

千堂オ〜〜っ!!」





レフェリーと柳岡。
二人がかりで、やっと千堂は止まった。





「よ
ようやく両者が引き離されました!

悠然と引き上げる千堂!

第3ラウンド終了のゴングから、この間約10秒!!
幕之内、10秒間棒立ちのメッタ打ち!!」






幕之内はセコンドに支えられながらコーナーに戻った。

千堂は自身の足で、しっかりとした足取りで歩いている。





「ゴング後の加撃は反則打となりますが
リング上ではレフェリーが全権を握っています!

そのレフェリーも気付いていなかったので
この行為は不可抗力となります!」





幕之内の顔は腫れ上がっていた。
特に左目の瞼は、ほとんど見えないだろうほどに腫れていた。

唇が切れて、血が出ている。
鼻血も出ていた。
頬や顎に、それらの血が点々と飛び散っていた。

足はガクガクと震えている。
ほとんど倒れ込むように椅子に座った。

ぜえぜえと、口を大きく開けて呼吸をしている。





『…』





それに比べて、千堂は静かな様子だ。

拳を振るう方だってつらいはずなのに。

呼吸は落ち着いている。
足も震えていない。





「セコンドアウト!!」



「さあ第4ラウンドが始まります!!
攻め落とすか千堂!
しのげるか幕之内!!」





柳岡が千堂の肩を叩いた。
何か声を掛けているらしく、口が動いている。

しかし柳岡の顔が千堂の方へ向いた途端、
柳岡の動きは止まった。





「コーナーを出る足がもつれる幕之内!
逆転の力は残っているのか!?」





椅子から立ち上がった幕之内。

背中を丸め、肩で息をしている。

ふらつく姿から、これ以上戦えるようには見えない。





「セコンドアウト!!」



「青コーナーのセコンドが、
まだリングから出ません!

大チャンスを迎えて慎重になっているのか?」



「セコンドアウト!」



「まだ出ません!」



「セコンドアウト!!」





幕之内は千堂の方を見詰めている。
不思議そうな表情だ。

応援の声が小さくなり始めた。
なかなか始まらない事に、観衆も不思議に感じたらしい。

レフェリーが千堂の方へ近付いていく。

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