01.






「あなたが好きだ。
できたら、付き合ってほしい。」















入学式が終わって一週間経ったある日、それは唐突な出来事だった。




























9月初旬―――

それはホグワーツの入学式の日だ。

新しく入ってくる一年生たちは、どんな思いを抱いてやって来るのだろうか。

重たい扉が開かれ、先輩たちや教師たちが見守る中、歩く気分はどうだろうか。

多くの生徒が強張った顔をしていた。
不安がいっぱい、そう物語っていた。

だが、



一人は、違った。





「見ろよあの新入生、でっけェ。」





11歳という、先輩たちから見たら小さな後輩の中、にょっきりと自分たちと同じ年なんじゃないかと錯覚するぐらい背の高い男子生徒がいた。

本人も身長差を気にしているのか、少し猫背だった。

(それが反対に目立たせていたが)





「ミョウジ・ナマエ!」





名前を呼ばれ、背の高い男子生徒は颯爽と椅子に向かう。

針金でできた人形かのように手足が細く、また、足がすらりと長かった。

涼しげな目元は少しも隙を見せないようで、背の高いせいもあってか、大人びた印象を与える風貌をしていた。





「グリフィンドール!」





組分け帽子がそう高々と叫んでも、やっぱりその男子生徒―――名前は涼しげな表情を崩さず、さっさと席に着いていた。

周りの先輩たちが何か話し掛けても、短く、無表情で答えていた。





「ポッター・ハリー!」





「グリフィンドール!」





かの有名なハリー・ポッター。
知らない者はいないだろう。かつてこの世を暗黒に染めた闇の帝王を、両親をなくした悲劇を纏いながらもうち払ったという英雄。

はやしたてるたくさんの生徒たちに、ハリー・ポッターは困ったように笑っていた。



組分けの儀式も終わり、ハリーの隣で、名前は静かに座り、黙々と食事を採っていた。

たくさんの新入生が不安そうに顔を曇らせていたというのに、この名前だけは涼しげな顔でいた。
ハリーはそれを、ここに来る前の汽車内でできた友達、ロナルド・ウィーズリーと話しながら、ひそかに見ていた。

時々目が合った。だが、名前は自然に目をそらしてしまって、何も話し掛けることができなかったのだ。すぐ近くにいたのに。

多くの生徒が、この背の高い男子生徒を気にしているのは何と無く察していた。
名前自身も気付いているだろう。

名前の隣に座れたのはラッキーだった。話し掛けてみたいのは山々だが、何を言ったらいいのかわからない。

うーむとスクランブルエッグをつつきながら悩むハリーの目の前を、細長い腕が通過した。
いや、まだある。

横目で腕をたどってみると、話しかけたかった名前だった。
どうやらミルクがとりたいらしい。

ハリーはチャンスと思い、さりげなくミルクをとって名前に渡した。





「はい、飲みたかったんだよね?」



『………』



「あ…違ったかな。」



『いや、ありがとう。』





名前が静かに言った。

声は小さいが、聞き取れないぐらいではない。

ハリーは嬉しくなって、名前がミルクを注いだあと、器を元の場所に戻してあげた。





「ミルク好きなの?」



『別に。嫌いなわけじゃないけど。』



「ふぅん。
君、すごく背が高いよね。何センチあるの?」



『170くらい。』



「すごいね。同じ11歳なのに。」



『成長速度はみんな違う。』



「ハリー、糖密パイいる?」



「あ、うん。
ありがとうロン。」





せっかく会話ができていたのに途切れてしまった。
張本人のロンは口いっぱいにデザートを詰め込んでいる。
別にロンを責めるわけではないが、少しハリーは残念に思った。

糖密パイを食べながら、ハリーはみんなの家族の話を聞いていた。
シェーマスもネビルの話も楽しかった。みんなが笑っても、相変わらず名前は無表情だったことが、少し気にかかってはいたけれど。

食べるだけ食べて眠くなってきたハリーは、眠気から気を紛らそうと来賓席を見上げた。

自分を連れ出してくれたハグリッド、厳格な顔付きをしたマクゴナガル先生、ちょっぴりおかしい(とハリーは思っている)ダンブルドア先生、邪魔そうなターバンを巻いたクィレル先生、そして…知らない先生。

顔に纏わりつく黒髪に鉤鼻、不健康そうな土気色の顔。

クィレル先生と話すその知らない先生を見ていたら、偶然なのか目が合った。
眉間の皺がひどい…この世の全て嫌悪しているような目付きをしている。

すると突然額の傷に痛みが走り、ハリーは反射的に手でおおった。





「どうしたの?」
監督生であるパーシーがすかさず尋ねる。



「な、なんでもない。

あの、あそこでクィレル先生と話しているのはどなたですか?」



「おや、クィレル先生はもう知ってるんだね。あれはスネイプ先生だ。
どうりでクィレル先生がオドオドしているわけだ。

スネイプ先生は魔法薬学を教えているんだが、本当はその学科は教えたくないらしい。
クィレルの席をねらってるって、みんな知ってるよ。
闇の魔術にすごく詳しいんだ、スネイプって。」





ハリーは再度スネイプを見つめたが、スネイプがハリーの方を見ることは二度となかった。
しかし代わりといってはおかしいが、名前から視線を感じた。
ハリーが振り向くと名前はおずおずとした手付きで、ゆっくりとハリーの背中を撫でた。
どうやら、スネイプのハリーを見る目付きを目撃していたらしい。

名前が身を案じてくれていることに、ハリーは嬉しくなった。





「ありがとう、平気だよ。」



『嫌われるのは辛いことだ。』



「うん。
でも、君はそうじゃないみたい。」



『………』



「あの、もう知ってると思うけど、僕、ハリー・ポッター。
君は、ナマエ・ミョウジだよね。

よかったら友達になってほしいんだけど、いいかな。」





名前はこっくりと頷いた。
11歳にしては骨張った大きな掌をゆっくりとハリーの背中からどけて、遠慮がちにハリーの前に差し出した。

ハリーは何だか擽ったい気分になりながら、その大きな掌を握った。





「同じ部屋ならいいね。」





ダンブルドアのお知らせを聞き、みんなバラバラの校歌を歌い終え、あとは寮に戻って就寝するだけとなった。

ハリーはロンと名前に挟まれながらパーシーの後をゆっくりとついていった。
先程の大広間での豪華な食事や、これから魔法を学んでいくという期待にみんなの興奮は冷めず、騒がしく話しながら寮へ向かった。

ハリーの隣で、ロンがチラチラと名前を見ている。
なんとなく一人にさせたくなくて、一人歩きしようとした名前を無理矢理隣に連れてきたが、そういえばロンと名前は初対面だったのだ。

ロンがハリーのローブの袖を引っ張り、ヒソヒソ声でハリーに話し掛けた。





「なぁ、このやたら背の高い人、ナマエ・ミョウジだよな?
何で僕らの隣をついてきてるの?」



「ついてきてるんじゃないよ、僕が無理矢理誘ったんだ。一緒に行こうって。」



「ひぇーっ、ハリーよく誘えたなぁ。
僕は誘えないよ…。」



「何で?」



「だって、何だか怖いじゃないか。
何話し掛けてもちっとも笑わない、無表情だって、さっき先輩たちが話してたよ。」



「ナマエは優しいよ。
信じられないんならロン、君話してみなよ。」





ハリーはムッとして答えた。
名前をけなされたようで、少し腹が立ったのだ。
ロンはうーむと悩むように唸って、恐々と名前を見上げた。




「(゜∧゜;)………」



『(・_・)………』



「(゜∧゜;)………」



『(・_・)………』



「(゜∧゜;)………」



チラ『( ._ .)………』



「Σ(゜Δ゜;)………!」





「ムリだよハリィィ……!」



「話し掛けてないじゃないか…!」





ヨタヨタと引っ付いて報告するロンに、小声でハリーはつっこんだ。
名前は相変わらず無表情で前を見て歩いている。
途中ピーブスというゴーストが悪戯をしにきたが、やっぱり無表情だった。
パーシーはぷりぷり怒っているのに、新入生たちはぐったりしているのに、涼しげな表情で案内された部屋に向かったのだ。





「同じ部屋でよかったね。」





みんなベッドにもぐり、就寝しようと電気を消したあと、ハリーがカーテン越しに小さな声で名前に言った。
名前はまだ起きているらしく、枕元のランプを点け、本を読んでいるようだった。
こくんと名前の影が頷く。

勉強熱心なのか、眠る気がないのか、眠たくないのか。
静かに本を読んでいる。

パラパラと名前の本を捲る音を聞いていたら、ハリーはだんだん眠たくなってきた。





「おやすみ、ナマエ。
先に寝ているね。」





また、こくんと、影が頷く。

ハリーは何だかあったかい気持ちになって、その影を見つめながら意識を手放した。



これから見る悪夢を知るはずもなく。

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