18.-3






珍しく会話が長続きしている。
和やかな雰囲気だ。
木村は話し上手なのだろう。
名前が話し下手だから、そう見えるだけかもしれないが。

そんな和やかな雰囲気漂う前部席と、後部座席の間には、壁が出来ているかのように空気が違った。





「…」



「…」





千堂と幕之内の間に会話は無い。

肩が凝りそうなくらい重たい空気がみなぎっている。





「………そ…」





幕之内がパッと千堂の方を見て口を開いた。

笑顔を作ろうとしているようだが、口元がひきつっている。





「それにしてもスマッシュってスゴイですね。あれはやっぱりラドックの…」



「…………
ん。」





聞いていなかったらしい。

千堂は、自分の方を見ている幕之内に気が付き、横目で見た。





「なんや?」



「い、いえ。あの。
何でも……」



「しかしなんやな。アンタ鷹村さんみたいな先輩もって幸せやな。」



「…」



「あ…」
聞いていなかったらしい。



「…」



「……」



「何でもあらへん。」





互いに会話が続かない。

後部座席で二人の青年が頭を抱えている。

二人とも自分の世界に入ってしまっているようだ。
たまにファイティングポーズをとるあたり、ボクシングに関係するようだが。

何にせよ、渋滞の長丁場、この狭い空間で、沈黙が続くのはつらい。



木村はついに音楽をかけ始めた。





―――18時25分発 新大阪行き
間もなく発車いたします―――





アナウンスが流れた。
もう乗らなければならない。

新幹線の乗降口の前、千堂と名前が立っていた。
木村と幕之内が見送る。



渋滞には巻き込まれたものの、予想よりも早く東京駅に辿り着けた。

切符を買ってから、お土産を選ぶ時間もあったくらいだ。





「また色々買い込んだな。」



「へえ、突然飛び出したさかい。
土産でも持って帰ってトレーナーの機嫌とらんと。」





千堂は隣に立つ名前を見上げる。

吊り上がった三白眼が、名前を真っ直ぐ見詰めた。





「名前、先に席行っといてええで。」



『…はい。』





両手にパンパンに膨らんだ土産袋を持った名前の指先は血の気が無かった。

千堂も土産袋を持っているが、指先が白くなるようなことはない。

名前は袋を持ち直して、幕之内と木村に向き合う。





『今日は突然御伺いしてしまい、本当に申し訳ありませんでした。…』



「そんな、気にしないでください!」



「そうだぜ。だから、お前は固いんだって。
気にするなよな。」



『…ありがとうございます。』
深くお辞儀をした。
顔を上げる。
『失礼します。』





向きを変えて車内に入る。
切符を片手に指定席へ向かう。

東京で多くの乗客が下りたのか、自由席でも人はまばらだった。

席の番号と切符の番号を見比べて確認。

ここが指定席のようだ。





『……』





振り向くと、後から着いてくるはずの千堂がいない。





『…』





名前は振り向いた体勢のまま暫し固まった。

何か考えているのか、
はたまた千堂がいない事に茫然自失してしまったのか。

分からないが、やがて何事も無かったかのように動き出し、席に座った。

待つことにしたようだ。

少し経つと千堂がやって来た。





『千堂先輩、ここです。』



「おう。」





小さく手を振った。

気付いた千堂が向かってくる。

窓際の席にどっかり座り込んだ。
何か考え込んでいるように見える。

その姿を少しの間眺めてから、名前は首を傾げた。





『…千堂先輩、』



「なんや…」



『お土産は………』



「土産?…」





千堂は目を見開いた。

明らかに「しまった!」という顔だ。





「………」



『……』



「……」





新幹線は走り出している。

もう全てが遅かった。

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