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「武器を取り上げるだけだと言ったのに!」





ロックハートが慌てて叫んだ。

名前に見聞きする余裕は無いが、辺りは攻撃的な呪文が飛び交っているらしい。



課題は「武器を取り上げる術をかける」事である。





「やめなさい!ストップ!」



「フィニート・インカンターテム!」





スネイプが叫んだ。
呪文の効果が消え、辺りは静まった。

緑がかった煙が漂っている。



ゴイルはぜえぜえと肩で息をしていた。





「なんと、なんと。」





ロックハートが呆然とした様子で辺りを見渡した。





「マクミラン、立ち上がって……。気を付けてゆっくり……、
Ms.フォーセット。しっかり押さえていなさい。鼻血はすぐ止まるから。
ブート……」





あまりに悲惨な結果である。

学校中の生徒が集まったかのような大人数なのに、誰一人としてロックハートの言い付けを守れていない。

単に成功者がいなかっただけかもしれないが、目も当てられない惨状だ。





「むしろ、非友好的な術の防ぎ方をお教えする方がいいようですね。」





ロックハートは言って、チラリとスネイプを見た。

スネイプはプイと顔を背けた。





「さて、誰か進んでモデルになる組はありますか?
―――ロングボトムとフィンチ-フレッチリー、どうですか?」



「ロックハート先生、それはまずい。」





いきなりスネイプが進み出てきた。





「ロングボトムは、簡単極まりない呪文でさえ惨事を引き起こす。
フィンチ-フレッチリーの残骸を、マッチ箱に入れて医務室に運び込むのがオチでしょうな。」





ネビルの頬が赤く染まった。





「マルフォイとポッターはどうかね?」



「それは名案!」





最悪のコンビだ。

ロックハートは、ハリーとマルフォイを舞台に手招きで呼んだ。

二人は舞台の袖に設置された階段を上がり、互いに向き合う形で立っている。

幻覚だろうか。
二人の間に火花が散っているように見える。





『…』





名前は事の成り行きを心配するように、ハリーとマルフォイを見比べた。
もちろん無表情だが。

何も問題が無く終わればいいが、相性最悪の二人の事だ。
何事も無く、というのは期待するだけ無駄だろう。



舞台の両端に立った二人は、それぞれ付き添う先生に何か囁かれている。
アドバイスでもしているのだろうか。

二人が杖を構えた。
いよいよだ。





「一―――
二―――
三―――

それ!」





「サーペンソーティア!」





号令をかけた途端、先制したのはマルフォイだった。

杖の先から、長い黒い蛇が現れた。

蛇は二人の間にドスンと落ちて、とぐろを巻き、鎌首をもたげて攻撃の態勢を取っている。



ハリーは固まった。

少しでも動けば、蛇は真っ直ぐ喉元を狙い飛び掛かって、噛み付くだろう。

舞台に近い生徒達が後退りをしている。





「動くな、ポッター。」





固まったまま動けないでいるハリーを少し眺めてから、スネイプはやけに落ち着いた様子で言った。

口角は上がり、馬鹿にしたような笑みが浮かんでいる。

ハリーが何も出来ない光景を楽しんでいるのだろう。





「我輩が追い払ってやろう……」



「私にお任せあれ!」





進み出るスネイプに向かって、ロックハートが叫んだ。

蛇に向かって杖を振る。
蛇は天井近くまで飛び、再び舞台に戻ってきた。
怒り狂っている。

蛇は近くにいたジャスティン-フィンチ-フレッチリー目掛けて滑り寄り、再び鎌首をもたげて、牙を剥き出した。





「………」





ジャスティンは蛇を目の前にして動けない。

蛇は大分神経が高ぶっているらしく、牙を剥き出しながらじわりじわりとジャスティンに近付いている。



ハリーが前に進み出た。
真っ直ぐ蛇だけを見つめている。





「手を出すな。去れ!」





叫んだ。

すると、蛇は牙を仕舞い、ハリーの方を見上げた。
敵意は無いように見受けられる。





『(魔法界は蛇に言葉が伝わるのか…)』





名前は首を傾げつつも、大事には至らなかった事に安堵した。



ハリーは舞台の上から、ジャスティンを見て笑いかける。

しかしジャスティンは怒りと恐怖がない交ぜになったような、複雑な表情を浮かべてハリーをじっと見詰めていた。





「一体、何を悪ふざけしてるんだ?」





ジャスティンが叫んだ。
声は微かに震えている。
様子がおかしい。

そしてジャスティンは、大広間から出ていってしまった。

様子がおかしいのはジャスティンだけではなかった。
大広間がしんと静まっている。

大人数いるというのに、呼吸も聞こえないぐらいに静まり返っているのだ。





『………』





ちらり、名前は周りを見渡した。

皆息をするのも忘れたように、ハリーを一心不乱に見詰めている。

この空間にいる全ての者の目が、ハリーに向けられているのだ。

教師のロックハート、スネイプでさえも。



スネイプはハリーに目を遣ったまま進み出た。

蛇に向けて杖を振る。





「ヴィペラ・イヴァネスカ」





蛇は燃えるようにして消えた。

静かな空間に、響いた声に反応してか、ハリーはスネイプを見た。

目が合った。
鋭い、探るような目付きだ。





「さあ、来て。」





名前の隣に立っていたロンが舞台まで寄って、ハリーに向かって小さな声で言った。

手招きし、袖を引く。





「行こう―――
さあ、来て……」





こうしてロンはハリーをホールの外へ連れ出した。
名前とハーマイオニーも後を追う。

黙ったまま一行はグリフィンドールの談話室に着いた。

ハリーを肘掛け椅子に座らせ、三人は車座になって座った。





「君はパーセルマウスなんだ。
どうして僕達に話してくれなかったの?」





ロンは早口に、堰を斬切ったように喋り出す。
ハーマイオニーも真剣な表情でハリーを見詰めていた。

ハリーと名前の二人は不思議そうにしている。





「僕がなんだって?」



『パーセルマウス。』



「それ、何?」



『蛇と話が出来る人。』



「そうだよ。」





ハリーは平然と答えた。

名前はハリーをじっと見る。





「でも、今度で二度目だよ。
一度、動物園で偶然、大錦蛇を従兄弟のダドリーにけしかけた―――
話せば長いけど―――
その蛇が、ブラジルなんか一度も見た事が無いって僕に話し掛けて、僕が、そんなつもりは無かったのに、その蛇を逃がしてやったような結果になったんだ。
自分が魔法使いだって分かる前だったけど……。」



「大錦蛇が、君に一度もブラジルに行った事がないって話したの?」





ロンが力無い声で繰り返した。

ハリーはますます不思議そうにしている。





「それがどうかしたの?
ここにはそんな事出来る人、掃いて捨てるほどいるだろうに。」



「それが、いないんだ。
そんな能力はざらには持っていない。

ハリー、まずいよ。」



「何がまずいんだい?」
ハリーの声は苛立っていた。
「皆、どうかしたんじゃないか?考えてもみてよ。
もし僕が、ジャスティンを襲うなって蛇に言わなけりゃ―――」



「へえ。君はそう言ったのかい?」



「どういう意味?君達あの場にいたし……
僕の言う事を聞いたじゃないか。」



「僕、君がパーセルタングを話すのは聞いた。
つまり蛇語だ。」





微かに首を傾げて、名前は困ったような顔をしたロンを見つめる。





「君が何を話したのか、他の人には分かりゃしないんだよ。
ジャスティンがパニックしたのも分かるな。
君ったら、まるで蛇を唆してるような感じだった。
あれにはゾッとしたよ。」





ハリーはロンを見て目をぱちぱちさせる。





「僕が違う言葉を喋ったって?
だけど―――
僕、気が付かなかった―――

自分が話せるって事さえ知らないのに、どうしてそんな言葉が話せるんだい?」





ロンは首を振った。
ハーマイオニーも黙ったままだ。
名前は普段から無口である。

結果的に、何だか嫌な雰囲気が四人を包んだ。





「あの蛇が、ジャスティンの首を食い千切るのを止めたのに、一体何が悪いのか教えてくれないか?
ジャスティンが、『首無し狩』に参加するはめにならずに済んだんだよ。
どういうやり方で止めたかなんて、問題になるの?」





「問題になるのよ。」





ハーマイオニーがやっと声を出した。
こちらも困ったような顔だ。





「どうしてかというと、サラザール・スリザリンは、蛇と話が出来る事で有名だったからなの。
だからスリザリン寮のシンボルが蛇でしょう。」





知らなかったのか、ハリーはぽかんと口を開けた。

ロンがハーマイオニーに次いで口を開く。





「そうなんだ。
今度は学校中が君の事を、スリザリンの曾々々々孫だとかなんとか言い出すだろうな……。」



「だけど、僕は違う。」



「それは証明しにくい事ね。

スリザリンは千年ほど前に生きていたんだから、あなただという可能性も有り得るのよ。」





ロンもハーマイオニーも、戸惑ったような、哀れんでいるような、とにかくいい感情を抱いてはいない目でハリーの事を見つめた。

名前は黙ってその光景を眺める。




ハリーの蛇語を、理解出来たとは言わなかった。

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