16.-1






『決闘クラブ。』





アップルパイのクズを気にしながら、名前は微かに首を傾げた。





「そうなんだ。今夜が第一回目なんだって。
ナマエ、掲示板見なかった?」





何だか苦労しながらアップルパイを食べている姿を眺めつつ、ハリーは尋ねた。

名前は口をもごもごさせながら首を左右に振って否定する。





「掲示を見てみたけど、役に立つかもね。」



「今夜八時から大広間であるみたいなの。ナマエも参加しない?」





アップルパイやらミルクやら、偏食する名前の前に、ホット・ポットやサラダを皿によそって置く手。
ハーマイオニーだ。
名前は固まった。

ハーマイオニーを見る。
有無を言わさない目付きだ。

名前はこっくり頷いた。















夜の八時。

四人は再び大広間へ急いだ。



大広間には既にたくさんの生徒が集まっていた。

大広間の様子は随分変わっている。
どこにやったのか、食事用の長いテーブルは取り払われている。
中央には奥から大広間の入り口に向かって、金色の長細い舞台が出現していた。





「一体誰が教えるのかしら?」





宙を漂う何千本もの蝋燭を見上げていた名前の隣で、舞台を見つめてハーマイオニーが言った。





「誰かが言ってたけど、フリットウィック先生って、若い時、決闘チャンピオンだったんですって。多分彼だわ。」



「誰だっていいよ。あいつでなければ……」





言いかけてハリーだが、その後は呻き声だった。

女子生徒らしき黄色い声が上がる。

名前は舞台を見上げた。





「静粛に、静粛に!」





ギルデロイ・ロックハートだ。

いつもの爽やかな笑顔を浮かべながら、生徒達に手を振っている。

並びの良い白い歯がキラリと輝いていた。





『………』





ロックハートの煌びやかな深紫色のローブがひらひらと動く。
そのローブの動きで見え隠れする、次いで現れた人物。

名前は目を擦った。
しかし何度見ても変わらない光景。

引き摺りそうなほど長い、真っ黒いマント。
眉間に寄った深い皺。
ヘの字に曲げられた薄い唇。

スネイプだ。



対極に位置する二人が同じ空間にいる。

目を疑いたくなるような光景である。





「皆さん、集まって。さあ、集まって。
皆さん、私がよく見えますか?私の声が聞こえますか?
結構、結構!」





ロックハートは舞台の上から周りを見渡し、爽やかな笑顔が振り撒いた。





「ダンブルドア校長先生から、私がこの小さな決闘クラブを始めるお許しを頂きました。
私自身が、数え切れないほど経験してきたように、自らを護る必要が生じた万一の場合に備えて、皆さんをしっかり鍛え上げる為にです―――詳しくは、私の著者を読んで下さい。」





露骨な宣伝である。

この群衆の中の何人が読むだろうか。





「では、助手のスネイプ先生をご紹介しましょう。」





ロックハートは生徒達を見渡しながら、掌をスネイプに向けた。

満面の笑みを浮かべるロックハートに対し、スネイプはいつもの仏頂面だ。





「スネイプ先生が仰るには、決闘について極僅かご存知らしい。
訓練を始めるにあたり、短い模範演技をするのに、勇敢にも、手伝って下さるというご了承を頂きました。
さてさて、お若い皆さんにご心配をお掛けしたくはありません―――私が彼と手合わせした後でも、皆さんの魔法薬の先生は、ちゃんと存在します。ご心配召さるな!」



「相討ちで、両方やられっちまえばいいと思わないか?」





ロンが囁いた。
ハリーは頷いたが、名前とハーマイオニーは頷かない。



舞台の上で、ロックハートとスネイプは向き合って一礼した。

ロックハートは何やら腕をくねくね体の前に持ってきて、やたら大袈裟だ。
スネイプは嫌々といった感じでぐいと頭を下げている。

礼を終えると、二人は杖を構えた。





「ご覧のように、私達は作法に従って杖を構えています。」





ロックハートは静まり返った観衆に向かって説明する。





「三つ数えて、最初に術をかけます。
もちろん、どちらも相手を殺すつもりはありません。」



「僕にはそうは思えないけど。」





スネイプの顔を見てから、ハリーが呟いた。

スネイプの眉間の皺は普段より深いように見える。





「一―――
二―――
三―――」





「エクスペリアームズ!」





瞬間、スネイプの杖先から紅の閃光が飛び出し、稲妻のようにロックハートに向かっていった。

閃光はロックハートの鳩尾辺りに直撃して、くの字になって宙を飛んだ。
舞台を越えて壁に激突する。
壁伝いに滑り落ちて、床に大の字になった。

意識を失っているのか、ピクリとも動かない。

スネイプが呪文を放ってからロックハートが吹っ飛ばされるまで、この間僅か数秒である。





『すごい……』





漏れた声はスリザリン生の歓声に掻き消された。

スネイプは構えを解いて、不機嫌そうな表情を一変。
くいっと片方の口角を上げた。
あからさまに嘲笑している。

そんなスネイプに名前は釘付けだ。





「先生、大丈夫かしら?」





ハーマイオニーはロックハートに釘付けである。

隣同士なのに視線は二人の間で真っ二つだ。





「知るもんか!」





ハリーとロンが揃って答えた。
満面の笑みである。
今回ばかりは「スネイプ、よくやった!」と思っているのかもしれない。





「さあ、皆分かったでしょうね!」





気丈にもロックハートはフラフラしながら立ち上がった。
せっかくの髪型も服装も台無しだ。

こうなってしまってはただの公開処刑である。





「あれが、『武装解除の術』です―――ご覧の通り、私は杖を失ったわけです―――ああ、Ms.ブラウン、ありがとう。
スネイプ先生、確かに、生徒にあの術を見せようとしたのは、素晴らしいお考えです。しかし、遠慮なく一言申し上げれば、先生が何をなさろうとしたかが、あまりにも見え透いていましたね。それを止めようと思えば、いとも簡単だったでしょう。しかし、生徒に見せた方が、教育的によいと思いましてね……」





ロックハートは言葉を呑んだ。
スネイプの表情がいつも通りに戻っている。
むしろ悪化しているように見える。

気付いたらしいロックハートは直ぐ様視線を逸らして、代わりに生徒達を見渡した。





「模範演技はこれで十分!
これから皆さんのところへ下りていって、二人ずつ組にします。
スネイプ先生、お手伝い願えますか……。」





二人は舞台を下りて生徒の群れに入った。

スネイプが真っ直ぐハリー、ロン、ハーマイオニー、名前のところへやって来る。





「どうやら、名コンビもお別れの時が来たようだな。」





四人の前まで来て立ち止まったスネイプは、見下すように微かに笑みを浮かべた。





「ウィーズリー、君はフィネガンと組みたまえ。
ポッターは―――」





ハリーはハーマイオニーと名前の方へ寄った。

スネイプは冷笑する。





「そうはいかん。マルフォイ君、来たまえ。かの有名なポッターを、君がどう捌くのか拝見しよう。
それに君、Ms.グレンジャー―――君はMs.ブルストロードと組みたまえ。」





呼ばれたマルフォイが意味ありげに笑みを浮かべながらやって来た。

その後ろを歩いてきた女子スリザリン生は、大柄で角張った顔、がっちりした顎をしていて、見た目からしていかにも戦闘的である。

一人名前を呼ばれなかった名前はスネイプを見つめた。

ちらり、スネイプの視線が名前に向けられる。





「Mr.ミョウジ、君はMr.ゴイルとだ。」





マルフォイ、ブルストロードに続いて、ゴイルもやって来た。

ゴイルは名前の前まで来ると立ち止まる。

背は高めだが、名前よりは頭二つか三つは低い。
しかし名前より遥かに大柄だ。

何を考えているのか分からない目でじっと名前を見上げている。
もしかしたら睨んでいるのかもしれない。





「相手と向き合って!
そして礼!」





ロックハートの声が響く。

周りの生徒達に倣い、名前は少し後退って間を置いてからお辞儀をした。

しかしゴイルはそんな名前を見るだけでお辞儀を返さない。





「杖を構えて!」





名前はスネイプがしたように杖を構えた。

ゴイルも杖を構えている。





「私が三つ数えたら、相手の武器を取り上げる術をかけなさい―――武器を取り上げるだけですよ―――皆さんが事故を起こすのは嫌ですからね。

一―――
二―――
三―――」





ロックハートが数を数えきったか、数えきる前か、ゴイルは猛然と突っ込んできた。
闘牛のようである。
名前はひらりと避けた。
こちらは闘牛士か。

ゴイルは何度も突っ込んでくる。
最早杖を捨ててかかってきていた。

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