08.-2






ハリーは叫びながら、後の三人のことなどお構い無しに走り出した。
階段を駆け上がり、玄関ホールに出て、また階段を駆け上がり、二階で止まった。

ほとんど反射的に、三人も続く。





「ハリー、一体僕たち何を……」



「シーッ!」



「……血の臭いがする……血の臭いがするぞ!」



「誰かを殺すつもりだ!」





ハリーは叫び、三階に向かった。

階段を駆け上がって、三階に出ると、通路を走り回った。
いくつもの角を曲がる。

そうしてやっと立ち止まった頃には、ロンもハーマイオニーも息切れしていた。

名前だけは相変わらずの無表情で立っている。
涼しげな目元も変わらない。





「ハリー、一体これはどういう事だい?
僕にはなんにも聞こえなかった……。」



「見て!」





大きな声で注意を引いてから、ハーマイオニーは廊下の隅を指差した。

冷たい石壁に、何か文字が書かれている。
松明の炎が風で揺れて、読みにくい。

目を細めた名前は、赤色で書かれた文字をじっと見つめた。





『…秘密の部屋は開かれたり
継承者の敵よ、気をつけよ……』





名前の呟きが、廊下に反響した。






「なんだろう―――下にぶら下がっているのは?」





松明の腕木に、何かぶら下がっている。
モコモコとしていて、はたきのようにも見える。

微かに震えるロンを見下ろしてから、名前は腕木に近寄る。





『……』





ぱしゃり。

足元から水気のある音がした。
見ると、大きな水溜まりが出来ている。

名前は周りを見て、それから天井を見上げた。
水溜まりの元となるような穴や物は見当たらない。

そして、名前は腕木に目をやった。





『…猫。』



「それ…ミセス・ノリスだ!」





ロンは叫び、ハリー、ハーマイオニーと共に後退る。

怯えた様子の三人をじっと見つめてから、名前はまたミセス・ノリスを見た。





『………』





松明の腕木に、ふさふさのしっぽを絡ませてぶら下がっている。

手足は突っ張り、固まっている。
目は見開れ、ただただ、松明の炎に照らされている。
赤いビー玉を嵌め込まれたようだ。

ちっとも動かない。
触れればきっと固いだろう。

まるで剥製のようだった。



少し落ち着いたのか、ロンは口を開く。





「ここを離れよう。」



「助けてあげるべきじゃないかな……」





ハリーが控えめに提案した。
けれどもロンは首を左右に振る。





「僕の言う通りにして。
ここにいるところを見られない方がいい。」



『…もう遅い。』



「え?」





ざわざわと話し声が聞こえた。
何人もの声だ。
タイミングの悪いことに、パーティが終わったらしい。
生徒たちがやって来てしまった。

パーティの余韻に浸っている生徒たちは、みんな楽しげだったが、水を打ったようにしんとなる。

あんなにも楽しそうに笑顔を浮かべていたのに、今は皆青い顔をして、壁の文字と、ハリー、ロン、ハーマイオニー、名前を見比べていた。





「継承者の敵よ、気を付けよ!」





ドラコ・マルフォイだ。

人だかりを押し遣って、壁に書かれた文字を読み上げた。





「次はおまえたちの番だぞ、『穢れた血』め!」





目が合うと、内心の喜びを隠しきれないというように口角を上げた。

目は爛々と輝いている。

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