07.






昼間だというのに、窓の外は暗い。
この打ち付ける雨のせいだ。
何日にもわたって降り続いている。

閑散とした図書館で、名前は本を読みながら、時々、その打ち付ける雨粒を眺めたりした。



図書館には名前とマダム・ピンスしかいない。

決して、名前とマダム・ピンス以外の人がこの世から消えてしまったわけではない。

多くの生徒や先生たちが、保健室にいるのだ。





『…………』





十月に入り、空気はぐっと冬に近付いたようだった。

この冷え込んだ空気のせいか、風邪が大流行した。

保健室は人でごった返し、校内は閑散としている。





『(話すのなら、今かもしれない)』





本のページをパラパラとめくる。

けれども、目は文字の上を滑るばかりで、読んでいるようには見えない。

本を閉じると、名前は赤い膝掛けをどけて、棚に本を戻しに行った。



いくつかの本を借りて談話室に戻ると、そこには他の生徒に交じって、ハリーとロン、ハーマイオニーの三人がいた。





「ああ、ナマエ。ちょうどよかった。」



『………』





分厚い本をいくつも抱えた名前を見つけたハリーは、目が合うと嬉しそうに笑った。

手招きをされて呼ばれる。





『何。ハリー。』



「さっき、ニックに絶命日パーティへ招待されたんだけど、…ナマエも行かない?」



『…いつ。』



「ハロウィーンのパーティと同じ日よ。」





素早くハーマイオニーが答えた。
やけに嬉しそうだ。

どうやらハーマイオニー、ロンも行くらしい。

ロンはあまり乗り気ではない様子だが。



名前は少し固まって、やがて頷いた。





「よかった。七時からなんだ。」



『準備しておく。…普通の格好でいいのか。』



「いいんじゃないかな。」



『…そう。』





納得したらしい名前は、頷いた後、本を抱え直して部屋に向かった。

自分のベッドの上に置くと、三人のところへ戻ってくる。





『…ハリー、ロン、ハーマイオニー。』





名前を呼ばれた順に顔を上げる。

皆少し目を見開いていた。

名前は黙ったまま、三人の顔をじっと見渡す。





「どうしたの?ナマエ。」





つっけんどんにロンが言った。

魔法薬の宿題が半分しか終わっていないからだろう。





『…今、時間はあるか。』



「ナマエ、見て分からない?僕宿題が…」



「大事な話なのね?ナマエ。」



「おい、ハーマイオニー…」



『大事。』



「わかったわ。わたしが話を聞く。いいかしら?」



『………』





相変わらずの無表情で、コクリ、頷いた。
ハーマイオニーが立ち上がる。





「僕も行くよ。」





ハリーも立ち上がった。

残されたロンはハリーとハーマイオニーの顔を見比べている。





「ちょっと待って…僕、誰に教えてもらえばいいの?」



「少しは自分で考えなさい。」





鼻先をつんと上げて、ハーマイオニーははっきり言い放つ。

項垂れるロンに視線をやりながらも、名前は二人を人のいないところへ誘った。

談話室は暖かく、座り心地の良いソファーがあったが、如何せん人が集まっている。





『………』



「ナマエ、ここ、男子寮でしょう。」



『大丈夫。』





ハーマイオニーは非難するような目付きで名前を見上げたが、やがて諦めたのか溜め息を吐いた。

今、この部屋に同室の生徒はいない。

ハリーは自分のベッドに、ハーマイオニーは名前のベッドに座った。





「それで、話って?」





三人がそれぞれの場所に落ち着くと、早速ハリーは口を開いた。





『去年、俺が狙われた理由。』





単語を繋ぎ合わせた説明の少ない話を、突然淡々と始めるので、二人は一瞬反応が無かった。





「夏休みになる前に、ナマエ、言ってたわよね。当てがあるって…」



『…』



「ナマエ、それで、はっきりしたの?」





名前はコクリ、頷いた。

それから口を開くが、なかなか声は出てこない。

開いては閉じて、開いては閉じてを繰り返す。

ハリーとハーマイオニーは、黙って待った。





『当ては、俺の父親。』



「ナマエのお父さん?」



『父はヴォルデモートの部下だった。』





二人は目を見開いた。
零れ落ちそうなぐらいに。

名前は眉一つ動かさない。





『死喰い人だった。』



「死喰い人って?」



「ヴォルデモートに忠誠を誓った魔法使いや魔女のことよ。左腕に闇の印があるの。」





ハリーに説明をしながら、ハーマイオニーは名前を見た。





「印は消すことができない。
あなたのお父さんの左腕に、印はあったの?」



『薄くなっていたけど。』



「ナマエは、その…あるの?印。」



『無い。』





ハリーは少し安心したようだった。
もう一度口を開く。





「じゃあ、ナマエのお父さんは、…ナマエを死喰い人にしたいの?」





ゆるり、名前は首を左右に振った。

少し伸びた髪の毛が、さらりと流れる。





『裏切った。』



「…ヴォルデモートを?」



頷く。
『操られていた。』



「それは…魔法よね?」





頷くと、ハーマイオニーは眉を寄せた。





「証明できないことよね。」



『…』



「ごめんなさい、ナマエ。疑いたいわけじゃないの。ただ、そう本で読んだことがあるから…」



『分かっている。』





申し訳なさそうに俯くハーマイオニーを見下ろして、名前はほんのり優しく言った。





「ナマエがクィレル…ヴォルデモートに狙われた理由は、お父さんが裏切ったからなんだね?」



『…』





名前はコクリ、頷いた。
ハリーは口を閉ざす。
ハーマイオニーも黙ってしまった。

静かになった部屋に、雨粒が窓を叩く音が響く。

部屋の外からは生徒の笑い声が聞こえてきた。





「ナマエ、話してくれてありがとう。」





少し大きな声で、ハリーははっきりと言った。

床に目をやっていた名前は、おもむろに顔を上げてハリーを見つめる。

ハリーは、俯いて、太ももあたりに置いた拳をじっと見つめていた。





「ヴォルデモートはたくさんの命を奪った。僕のパパやママだって…そいつの部下だったなんて、操られていただなんて、…
今は違うってことでしょう?そんなの信じられないよ。」



「ハリー、ナマエは…」





ハーマイオニーが何か言いたげに名前を呼ぶ。
その声が聞こえていないかのように、ハリーは顔を俯かせたままだった。

名前はハリーのつむじを見つめている。

ハーマイオニーは一人不安そうに二人を見比べた。



沈黙を保ったまま雨脚は強くなり、雨粒で窓を叩き割れそうなくらいだった。

部屋は冷え冷えとしている。



ふいに顔を上げたハリーは、真っ直ぐ名前を見つめた。





「信じるよ。」



『………』



「僕はナマエを知ってる。知ってるから、信じられる。
今の話をマルフォイがしたら、僕、絶対信じなかったよ。」





そう言ってから、明るい笑顔を見せた。
名前はその笑顔をじっと見つめて、やがて口を開くと、一言礼を述べた。

ハーマイオニーは安堵しているようだ。





「ロンも信じてくれるわ。大丈夫よ。
今度はちゃんと四人で話しましょう。」



「宿題が終わったらね。」





クスクス、ハリーとハーマイオニーが笑った。

それから三人は部屋を出て、談話室に向かう。

置いてきぼりになったロンは拗ねていたが、三人で宿題を手伝うと途端に笑顔になった。

それからロンも同じように部屋に連れていき、同じ話をすると、多少驚いているものの、すんなり話を信じたようだった。





「そりゃあ信じるよ。
だってもしナマエが手下だったら、同室になったハリーはとっくにお陀仏じゃないか。」





根本的な指摘に、それもそうかと納得する面々。

それは少し単純過ぎやしないかと名前は首を傾げたようだったが、
何はともあれ、今まで通り仲良し四人組でいられるようだ。

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