06.-3






『………』





廊下が軋む音を聞いて、名前は本を閉じた。

横たえていた体を起こして時計を見ると、既に日付は変わっている。

部屋には誰かの鼾と寝息が響いていた。





「…あっ、ナマエ。
まだ起きてたの?」





部屋のドアが開き、ハリーが入ってきた。
ベッドに座っている名前を見て、少し目を見開いている。





『おかえり。』



「あ、うん…ただいま。
ロンは?」



『まだ。』



「そうなんだ…」





ハリーはフラフラと自分のベッドに向かった。

なんだかボーッとしている。

パジャマに着替える手付きがゆっくりだ。





『どうしたんだ。』





ベッドに入ったのを見てから、名前は言った。

ハリーはまた少し目を見開いて名前を見た。

名前は相変わらず無表情である。





「…何が?」



『ヘンだ。』



「そうかな。」



『どうしたんだ。』



「………」





名前に向けていた目を、すっとよそへやる。

眉根にしわを寄せたその表情は、悩んでいるようにも見える。



だんまりとした時間が続いた。

けれどもハリーは口を開いた。





「ロックハートの部屋で、おかしな声を聞いたんだ。」



『…どんな声。』



「来るんだ、俺様のところへ、引き裂いてやる、八つ裂きにしてやる、殺してやる…って。」



『………過激だな。』



「でも、ロックハートには聞こえてなかったみたいなんだ。」



『だけど、ハリーは聞こえた。』



「うん。…起きながら夢を見ていたのかな?」





二人は会話をやめた。
廊下が軋む音がしたからだ。

そのまま耳を澄ましていると、ドアが開いた。

ロンだった。





「体中の筋肉が硬直しちゃったよ。」





ベッドにダイブしながらそう言った。
心底疲れた声音だ。





「あのクィディッチ杯を十四回も磨かせられたんだぜ。やつがもういいって言うまで。
そしたら今度はナメクジの発作さ。『学校に対する特別功労賞』の上にべっとりだよ。あのネトネトを拭き取るのに時間のかかったこと……
ロックハートはどうだった?」





ハリーと名前は互いに顔を見合わせた。

それから寝ている者を起こさないよう小さな声で、ハリーは名前に打ち明けた『声』について、ロンにも話した。





「それで、ロックハートはその声が聞こえないって言ったのかい?」





ベッドに横たわりながら、ロンは眉根を寄せている。





「ロックハートが嘘をついていたと思う?でもわからないなあ―――
姿の見えない誰かだったとしても、ドアを開けないと声が聞こえないはずだし。」



「そうだよね。」





ベッドの天蓋を見つめながら、ロンの言葉にハリーが返す。





「僕にもわからない。」





それっきり会話が途切れた。

時計の秒針の音と、鼾と寝息ばかりが部屋に響く。

もう寝たのだろうと思うぐらい間を置いてから、ロンが口を開いた。





「ところでナマエ、競技場の騒ぎのとき、マーカス・フリントに会っただろ?」





名前は黙り込んだ。
普段からお喋りではないが。
ことさら静かである。
存在しているのか確認したくなるくらい静かである。

もう眠ってしまったのか、と思うかもしれないが、月明かりに照らされて、瞬きをしているのが見える。





「じーっとナマエのこと見てたね。」
ハリーも口を開いた。



「あれさあ、薬じゃなくて、本当にナマエのこと…」





言葉は最後まで続かなかった。



名前が布団を頭まで被ったからだ。

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