06.-2






「人っ子ひとりおらんかったんだ。
闇の魔術の先生をするもんを探すのが難しくなっちょる。だーれも進んでそんなことやろうとせん。な?
みんなこりゃ縁起が悪いと思いはじめたな。ここんとこ、だーれも長続きしたもんはおらんしな。

それで?やっこさん、誰に呪いをかけるつもりだったんかい?」





ロンの方へ顎をしゃくりながらハリーに尋ねる。





「マルフォイがハーマイオニーのことをなんとかって呼んだんだ。
ものすごく酷い悪口なんだと思う。みんなかんかんだったもの。」



「ほんとに酷い悪口さ。」





洗面器から顔を上げた。

血の気の引いた真っ青な顔だ。
額に脂汗が浮かんでいる。





「マルフォイのやつ、彼女のこと『穢れた血』って言ったんだよ、ハグリッド―――」





ロンの顔が洗面器に戻った。
またゲーゲー吐いている。





「そんなこと、本当に言うたのか!」





モジャモジャの髪の毛とヒゲに隠れたハグリッドの顔にぐっと皺が寄る。





「言ったわよ。でも、どういう意味だかわたしは知らない。
もちろん、ものすごく失礼な言葉だということは分かったけど……」



「あいつの思い付く限り最悪の侮辱の言葉だ。」





ロンの真っ青な顔が再び現れた。





「『穢れた血』って、マグルから生まれたって意味の―――つまり両親とも魔法使いじゃない者を指す最低の汚らわしい呼び方なんだ。
魔法使いの中には、たとえばマルフォイ一族みたいに、みんなが『純血』って呼ぶものだから、自分たちが誰よりも偉いって思っている連中がいるんだ。
もちろん、そういう連中以外は、そんなことまったく関係ないって知ってるよ。ネビル・ロングボトムを見てごらんよ―――あいつは純血だけど、鍋を逆さまに火にかけたりしかねないぜ。」



「それに、俺たちのハーマイオニーが使えねえ呪文は、今までひとっつもなかったぞ。」





ハグリッドの言葉に、ハーマイオニーの頬が赤く染まった。





「他人のことをそんなふうに罵るなんて、むかつくよ。
『穢れた血』だなんて、まったく。卑しい血だなんて。狂ってるよ。どうせ今どき、魔法使いはほとんど混血なんだぜ。
もしマグルと結婚してなかったら、僕たちとっくに絶滅しちゃってたよ。」





ロンは真っ青な顔で、ひたすらに話を続けたが、ついに力尽きた。
また洗面器に顔を突っ込む。

手が震えるほどに体調が悪いのに、よっぽど腹が立っているようだ。

ハグリッドは同意するようにウンウン頷いている。





「ウーム、そりゃ、ロン、やつに呪いをかけたくなるのも無理はねぇ。
だけんど、おまえさんの杖が逆噴射したのはかえってよかったかもしれん。ルシウス・マルフォイが、学校に乗り込んできおったかもしれんぞ、おまえさんがやつの息子に呪いをかけっちまってたら。
少なくともおまえさんは面倒に巻き込まれずにすんだっちゅうもんだ。」





そうロンに向けて言ってから、ハグリッドの視線はハリーに移った。

視線を向けられたハリーといえば、かじりついた糖蜜ヌガーが接着剤のように上下の歯を固定しているため、口を開けないでいる。





「ハリー―――
おまえさんにもちいと小言を言うぞ。サイン入りの写真を配っとるそうじゃないか。
なんで俺に一枚くれんのかい?」



「サイン入りの写真なんて、僕、配ってない。もしロックハートがまだそんなこと言いふらして……」



「からかっただけだ。」





ハグリッドは笑ってハリーの背中を叩いた。

本人は優しく叩いたつもりのようだが、叩かれた方はテーブルにキスする寸前だ。





「おまえさんがそんなことをせんのはわかっとる。ロックハートに言ってやったわ。おまえさんはそんな必要ねえって。
なんにもせんでも、おまえさんはやっこさんより有名だって。」



「ロックハートは気に入らないって顔したでしょう。」



「ああ、気に入らんだろ。」





悪戯が成功した子どものような笑顔で、ハグリッドは笑う。





「それから、俺はあんたの本などひとっつも読んどらんと言ってやった。そしたら帰って行きおった。
ほい、ロン、糖蜜ヌガー、どうだ?」



「いらない。気分が悪いから。」





ロンは本当に気分が悪そうだ。

自分の口から生きた大きなナメクジが出てくるということだけでもなかなか気分が悪くなるが、それが胃の中で蠢いているのなら尚更だろう。





「俺が育ててるモン、ちょいと見にこいや。」





名前たちがお茶を飲み終えるのを見計らい、ハグリッドは四人を小屋の裏にある畑へ誘った。

畑には長い蔦がところせましと地面を伝っており、大きな葉が青々と繁っていた。

そして何より名前たち四人の目を引いたのは、丸々育ったオレンジ色のカボチャだ。





「よーく育っとろう?ハロウィーンの祭用だ……その頃までにはいい大きさになるぞ。」





とても満足そうな様子だ。

名前は目の前に鎮座するカボチャを、控え目にポンポンと叩く。

中身の詰まった音が返ってくる。





「肥料は何をやってるの?」



「その、やっとるもんは―――ほれ―――ちーっと手助けしてやっとる。」





ハリーの質問に、ハグリッドはしどろもどろになりながら答えた。
答えつつ、だんだんと小さくなっていく声。

あまり大っぴらにはできない肥料らしい。





「『肥らせ魔法』じゃない?
とにかく、ハグリッドったら、とっても上手にやったわよね。」



「おまえさんの妹もそう言いおったよ。」





ハーマイオニーの感想は、皮肉なのか心から楽しんでいるのか、どちらか判断しづらいものだった。

その感想を聞いて、ハグリッドは思い出したかのようにロンを見て言った。





「つい昨日会ったぞい。
ぶらぶら歩いているだけだって言っとったがな、俺が思うに、ありゃ、この家で誰かさんとばったり会えるかもしれんって思っとったな。」





次にハリーを横目で見る。

ハリーはなんとなく嫌な予感がしたらしい。





「俺が思うに、あの子は欲しがるぞ、おまえさんのサイン入りの―――」



「やめてくれよ。」





ハグリッドが言い切らないうちにハリーは素早く切り返した。
それなりに強い口調だ。

ロンは吹き出した。
ついでにナメクジも吹き出した。

ハグリッドは慌ててロンとカボチャを引き離した。

大事に育ててきたカボチャがおじゃんになってはいけない。



昼食の時間ということで、それから四人はハグリッドと別れて学校に戻ることにした。

ロンの調子も大分良くなってきている。

たまにナメクジの波がやってくるようだが。





「ポッター、ウィーズリー、そこにいましたか。」





玄関ホールに声が響いた。
マクゴナガルだ。

こちらに向かって歩いてくる。





「二人とも、処罰は今夜になります。」



「先生、僕たち、何をするんでしょうか?」



「あなたは、フィルチさんと一緒にトロフィー・ルームで銀磨きです。
ウィーズリー、魔法はダメですよ。自分の力で磨くのです。」





ロンはナメクジの波がやってきたのかと思うぐらい真っ青な顔色になった。





「ポッター。あなたはロックハート先生がファンレターに返事を書くのを手伝いなさい。」



「えーっ、そんな……僕もトロフィー・ルームの方ではいけませんか?」



「もちろんいけません。」





厳しい声ではっきりと告げる。

ハリーもロンに負けず劣らず、顔色は良くない。





「ロックハート先生はあなたを特にご指名です。
二人とも、八時きっかりに。」





それから二人は『吼えメール』を受け取ったときのようにしょんぼりした。

大広間では昼食を食べる生徒同士が楽しそうにお喋りしていたが、まるでこの二人だけ別世界にいるようである。
それはそれは暗い雰囲気だ。





「フィルチは僕を一晩中放してくれないよ。
魔法無しだなんて!あそこには銀杯が百個はあるぜ。僕、マグル式の磨き方は苦手なんだよ。」



「いつでも代わってやるよ。ダーズリーのところで散々訓練されてるから。
ロックハートに来たファンレターに返事を書くなんて……最低だよ……」





ロンもハリーも食欲は消え失せてしまったのか、シェパード・パイをつつくばかりである。
夢も希望もないといった様子だ。

そんな沈鬱な二人が名前とハーマイオニーの対面に座っている。

ハーマイオニーは気にしていないみたいだ。
名前は時折、二人をちらりと見ている。
一応は気にしているようだが、黙々とスモークサーモンを食べた。

気にはなるが、どうしようもない。
罰則を代わってやれるわけがない。

せっかくの土曜日の午後を心晴れないまま過ごした二人は可哀想だが、特に慰めるわけでもなく、各々罰則に向かう二人を、名前とハーマイオニーで見送った。

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