03.






『………』





ローブやマントを着た人々が、辺りを行ったり来たりしている。
道の幅はそれほど狭くないはずなのに、まるで満員電車のような混雑だ。
そんな往来の真ん中で、名前は立ち続けていた。



いわゆる、迷子である。















今日は、教科書その他もろもろ…必要なものを買うために、ダイアゴン横丁に行く日だ。
フルーパウダーを使って、ウィーズリー家の暖炉から「漏れ鍋」という居酒屋の暖炉に出る予定だった。

そこで問題が発生した。
ハリーがいないのだ。

フルーパウダーを使うときはいろいろと注意点があるらしい。
ハリーと名前が初体験なものだから、皆寄って集って、発音をしっかりだとか、肘を引っ込めろだと、動くなだとか―――
とにかく、くどくどと注意してきた。

しかし、ハリーがいない。
名前はふらふらになりながら成功したが。
夫人は半狂乱だった。

その頃ハリーは、不幸にもとんでもない暖炉に落ちてしまったようだが、知る由もない。





『……』





とりあえず「漏れ鍋」を出たのはいいが、皆どんどん進んでいってしまう。
ふらふらだった名前は人混みに流されてしまった。

問題その2である。

辺りをぐるりと見渡すが、去年一度ローブや杖やらを買いに来ただけだ。
記憶は曖昧である。





『…』





真ん中に棒立ちしている名前を、通行人がいかにも邪魔くさいという顔付きでじろじろ見てくる。
目立っているのに気が付いて、慌てた様子で人の合間を縫いつつ道の端に寄った。

しばらく人の流れを見ていたが、おもむろにポケットから教科書リストを取り出す。
開いて、目を通しているようだった。



やがて名前は歩き始めた。
銀行に向かっているようだ。

幸い背は高い方なので、どこに向かえば何があるかぐらいは、見れば分かる。





『…』





銀行でお金を換金して、いくつかの店を回って買い物を済ませたが、どこへ行っても、誰にも会えなかった。
もう買わなければならないものはないが、店を眺めながら歩き続ける。

ふと、ショーウインドーに映った自分の姿を見た。

昨年のクリスマス、夫人からプレゼントされたセーターの袖口を見下ろす。
サイズはピッタリだ。





『…』





次にコートを見る。
足首あたりまであったはずの裾は、今や膝丈になっている。
袖は手首より上だ。
セーターの袖がしっかり覗いていて不恰好である。

この一年で成長したらしい。





『…』





コートがこの有り様なのだ。
ローブも新調しなければならないだろう。

フレッドの言った通りになりそうだ。





「ミョウジ…?」



『……』





ショーウインドーから、声がした方へ顔を向ける。

そこにはプラチナブロンドをオールバックにした男性がいた。
片手は高級そうな趣味の悪い杖、もう片手には黒い小さな本を持っている。
それなりに厚い本だ。

男性は名前を見て、何故か驚いたふうな顔をしている。





『あなたは誰ですか。』





じっと見詰めたまま、抑揚のない口調で問う。

男性はさらに目を見開いて、まじまじと名前を見たあと、皮肉な笑いを浮かべた。





「ああ、そうか。ミョウジの息子か。」



『父のお知り合いですか。』



「知り合いも何も…」





男性は薄く笑ったが、目は笑っていなかった。

口角を引いただけの作り笑いだ。





「学生のとき、よく面倒をみてくれたよ。私の一年先輩だった。
君の父親は息災かね?」



『…はい。』



「それはよかった。」





吐き捨てるかのような口振りだ。





「マグルの世界のことは、よく知らないが…君の父親は、私たちの間ではずいぶん有名だ。
何せマグルと結婚して、裏切ったのだから…」



『それは……ヴォルデモートのことですか。』



「ほう。その名を口にするかね。
勇敢なのか愚か者なのか。……」





男性は鼻でふんと笑ったが、目付きはぐっと鋭くなった。

身長があまり変わらないため、真正面から睨まれているような状態だが、名前は相変わらずの無表情である。



あまり良くない雰囲気を察してか、往来の人々はチラチラ見ながらも大袈裟に避けて歩いている。

―――店先でやらないでほしい―――
と、この店の人が思ったかどうかはわからないが、客は二人を見ると取って返してしまう。





「よく似ている。まるで生き写しだ。もちろん容姿のことだよ。
君も父親と同じ道を辿ることにならなければいいがね。」





言って、踵を返したが、すぐ振り返る。





「ああ、私の名はルシウス・マルフォイだ。君は…
確かナマエだったかな?息子からよく話は聞いているよ。」



『………』



「それでは失礼する。まだやることがあるのでね。」





男性―――ルシウス・マルフォイは、細い尖った顎をツンと上げてそう言った。
その仕草は、息子のドラコ・マルフォイと非常によく似ていた。

ルシウスは質の良さそうな黒いマントを翻して、今度は振り返らずにさっさと歩いていく。
人混みにスルリと入り込むと、それもすぐに見えなくなった。





『…………』





しばらく立ったまま動かないでいたが、腕時計を見て、やがて名前は歩き始めた。

たくさんの荷物を抱えた名前は、そう簡単には身動きはとれない。
人混みに翻弄されながら、かなりの時間をかけて「漏れ鍋」へ向かった。

着いた頃にはふらふらだった。





『………』





「漏れ鍋」は繁盛していて、人がそこそこいたが、ウィーズリー家らしき人は見当たらなかった。

名前は空いている椅子に座り、適当に注文する。

ここの暖炉から帰宅するのはわかっている。
待っていれば、誰かしらには会えるだろう。

先に帰っていなければの話だが。





『………』





予想していた通り、しばらくして彼らは来た。

入り口の方を見ていた名前は早くに気が付いて、すぐさまそちらへ足を運んだ。

しかし、少しして立ち止まる。
何かおかしい。





『…………』





ハリー、ロン、フレッド、ジョージ、パーシー、ウィーズリー夫妻と、ハーマイオニーとグレンジャー夫妻、ハグリッドがいた。

一行はやけに疲れた表情をしていて、ウィーズリー氏の唇は切れた痕があった。





『何があったんだ。』



「ナマエ!」





みんなが一斉に目を見開いて名前を見た。





「君、一体何してたのさ!」





そっくりそのままバットで打ち返してやりたい言葉だ。






「気付いたらいなくなってるんだ。ビックリするじゃないか!」



『ごめん。』



「ナマエもいないって聞いたから、てっきりどこかの暖炉に出ちゃったのかと思ったよ。」



「でも、こうして会えたんだからよかったじゃない。」





ロン、ハリー、ハーマイオニーが一斉に話し掛けてきたので、名前は誰に目を合わせればいいのかわからないようだった。視線をふらふらとさせている。
そのうちフレッドとジョージ、パーシー、ウィーズリー夫妻と、皆が声を掛けるので、名前はますます視線を彷徨かせた。



とにもかくにも、無事会うことができた。
一様に疲れた顔をしているのが心にひっかかるところだが。

ウィーズリー氏の怪我のことも含めて、その話は帰宅してから聞くことになるだろう。



フルーパウダーをつまみ、暖炉に投げた。

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