02.
ウィーズリー家は、良く言えば賑やかで、悪く言えばうるさい家だった。
どちらも意味はそう変わらないが。
みんなおしゃべりで、よく人に構いたがった。
それがお客のハリーと名前となると尚更のようで、モリー(夫人の名前だ)は毎回食事を大盛りにしてその上お代わりさせようとするし、アーサー(ロンの父親の名前だ)はマグルの生活について話を聞きたがった。
名前はトレーニングのロードワークや縄跳びなどを、自宅にいるときのようにこなしていたが、そういうときに限って双子が話し掛けてくるのだ。
ロードワークをしていればタイム測定をするし、縄跳びをすれば一緒に入って飛んだりする。
その中でも名前が一番困ったのは、腕立て伏せをするとき、背中に乗られることだったかもしれない。
何せ名前には情けないほど力がないのだ。
そんな生活が一週間ほど続いたある日、ホグワーツから手紙が届いた。
「学校からの手紙だ。」
朝食の席で、アーサーが三人それぞれに封筒を手渡した。
トーストにバターを塗っていた名前は、バターナイフとパンを両手に持って、それを交互に見る。
結局バターナイフを戻し、パンを置いてから、手紙を受け取った。
「ハリー、ナマエ、ダンブルドアは、君らがここにいることをもうご存知だ―――何一つ見逃さない方だよ、あの方は。
ほら、おまえたち二人にも来てるぞ。」
目を擦りながら、フレッドとジョージが下りてきた。
こんなときでも、二人は全く同じタイミングで同じ動作をしている。
『(ギルデロイ・ロックハート…)』
食事の手を止め、名前はすっかり手紙に夢中だ。
中身は新学期の教科書リストと、去年と同じようにホグワーツ特急に乗るようにとのお知らせだった。
教科書リストに記載された教科書の著者はほとんどギルデロイ・ロックハートだ。
「君のもロックハートの本のオンパレードだ!『闇の魔術に対する防衛術』の新しい先生はロックハートのファンだぜ―――きっと魔女だ。」
ハリーのリストを覗いたフレッドが言う。
しかしモリーと目が合うと、ひどく急いだ手付きでママレードをべたべと塗った。
パンからはみ出そうが、手が汚れようが、テーブルに落ちようが、気にしていないようだ。
(というよりは、気付いていない)
そんな相棒の様子を見ていたジョージが、次いで両親を一瞥する。
「この一式は安くないぞ。
ロックハートの本は何しろ高いんだ………」
「まあ、なんとかなるわ。たぶん、ジニーのものはお古ですませられると思うし……」
「ああ、君も今年ホグワーツ入学なの?」
ハリーがジニーに聞くと、ジニーは顔を真っ赤に染めて頷いた。
同時にバターの入った更に肘を突っ込んだ。
ますます顔を赤くさせている。
目はハリーを見たり見なかったり、なんとも挙動不審だ。
そんな様子も、パーシーが台所に入ってきたので、皆に見られずに済んだが。
(ハリーと名前はしっかり見てしまった)
「皆さん、おはよう。いい天気ですね。」
好青年という言葉がぴったり当てはまる気持ちのいい挨拶だ。
名前は窓に目を向ける。
確かに、雲のない、晴れ上がった青空だ。
彼は無駄のない動きで空いていた椅子に座った。途端立ち上がった。
油が跳ねたかのように素早かった。
「エロール!」
先客があったらしい。
椅子の上には、灰色のふくろうがいた。
とても生き物―――というより、生きているようには見えない。
長い間使って古くなった、ぼろぼろに穴のあいた雑巾のようだ。
「やっと来た―――エロールじいさん、ハーマイオニーからの返事を持ってきたよ。
ハリーをダーズリーのところから助け出すつもりだって、手紙を出したんだ。」
手紙を取り出し、エロールを止まり木に止まらせようとするが、ポトリと落ちてしまう。
仕方なく、食器の水切り棚の上へと変更した。
そうしてロンは封筒を破り、手紙の内容を皆に聞こえるように、大きな声で読んだ。
手紙の内容は、ハリーの無事を願っていること、別なふくろうを使った方がいいこと、勉強で忙しいこと、
(―――「マジかよ、おい。休み中だぜ!」ロンがうんざりして言った―――)
水曜日に新しい教科書を買いに行くので会わないか、とのことだった。
「ちょうどいいわ。わたしたちも出かけて、あなたたちの分を揃えましょう。
今日はみんなどういうご予定?」
モリーがテーブルの上を片付けながら言った。
大人数の皿を片付けるともなれば骨が折れそうなものだが、魔法が当たり前の世界だ。
杖を一振りすれば、勝手に皿洗いが始まり、勝手に布巾で拭き、勝手に食器棚に戻っていく。
なんとも便利なものだった。
モリーはいつも忙しそうにしているが、手伝うことは何一つないのだ。
ハリー、ロン、名前、フレッド、ジョージは箒を持って、丘に向かって歩いていた。
丘の上にはウィーズリー家の小さな牧場がある。
その牧場は、この五人にとって格好の遊び場だった。
「やっこさん、いったい何を考えてるんだか。」
手の中でリンゴをいじくりながらフレッドが言った。
このリンゴはオヤツに持ってきたわけではない。
キャッチボールのボールの代わりだ。
もちろん、遊びに飽きれば五人で分けて食べるので、落とさないようにゲームは真剣なものとなる。
「あいつらしくないんだ。
君らが到着する前の日に、統一試験の結果が着いたんだけど、なんと、パーシーは十二学科とも全部パスして、『十二ふくろう』だったのに、ニコリともしないんだぜ。」
「『ふくろう』って、十五歳になったら受ける試験で、
普通(O)
魔法(W)
レベル(L)
試験、つまり頭文字を取ってO・W・Lのことさ。」
ジョージがフレッドの話に付け足すように説明した。
「ビルも十二だったな。へたすると、この家からもう一人首席が出てしまうぞ。
俺はそんな恥には耐えられないぜ。」
ビルはウィーズリー家の長男だ。
ホグワーツを卒業した後、エジプトの方へ行っていて、グリンゴッツで働いている。
―――と、名前はロンから聞いていた。
ロンの話題は底なしだったが、その大抵は、家族のことや勉強のことだったからだ。
「パパもママもどうやって学用品を揃えるお金を工面するのかな。」
「ロックハートの本を五人分もだぜ!ジニーだってローブやら杖やら必要だし……」
言いながら、フレッドの目が名前へ向けられた。
口を閉ざして、ただじっと見つめられる。
見詰め返してみるが、何も言わない。
名前は首を傾げた。
『どうしましたか。』
「いや。…言おう言おうと思ってたけど、ナマエ、俺より背が高くなってないか?」
『………』
「君、わからないの?
自分の格好、よーく見てみろよ。」
ちょうど牧場に着いたので、名前は立ち止まってじっくり自分の体を見下ろした。
服は後ろ前ではない。
ボタンは掛け違えていない。
シミもついていない。
ただ、上着の袖は手首より上だ。
ボトムの裾は脛あたりになっている。
どれも去年はぴったりだった。
「その様子じゃあ、ローブなんかも新調することになるかもな。」
「最近逞しくなってきてるし。」
「ナマエ、トレーニングっぽいことやってるよな。」
「僕、この前、ロンの部屋でパンチしてるとこ見たんだけど…」
こんなふうに、とハリーが仕草を真似ながら言った途端、フレッドとジョージが吹き出した。
涙が出るぐらい笑っている。
何が面白いのかわからないというふうに、名前は首を傾げてた。
「マジかよ!」
「ナマエ、誰かノックアウトしたいやつでもいるのか?」
「ナマエが、ケンカ!?ナマエが!」
名前は水を飛ばす犬かのように、大袈裟なぐらいぶるぶると頭を振った。
その顔は、いつもより血色がよかった。
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