13.


翌日。
朝食の時間にハリーは、「闇の魔術に対する防衛術」の授業前の自由時間に、「必要の部屋」に侵入を試みると話した。
けれどハーマイオニーは「日刊予言者新聞」を読んでいて、聞こえていないふりをする。





「いいかい。」




ハリーはハーマイオニーが広げた「日刊予言者新聞」を、手で押さえながら続けた。





「僕はスラグホーンの事を忘れちゃいない。だけど、どうやったら記憶を引き出せるか、全く見当がつかないんだ。頭に何か閃くまで、マルフォイ何をやってるか探し出したっていいだろう?」



「もう言ったはずよ。あなたはスラグホーンを説得する必要があるの。
小細工するとか、呪文かけるとかの問題じゃないわ。そんな事だったら、ダンブルドアがあっという間に出来たはずだもの。『必要の部屋』の前でちょっかいを出している暇があったら───」
ハリーが押さえる手から「日刊予言者新聞」を取り戻す。
「スラグホーンを探し出して、あの人の善良なところに訴えてみる事ね。」



「誰か知ってる人は───?」
ハーマイオニーが見出しを読み始めたので、ロンが尋ねた。



「いるわ!
でも大丈夫。死んじゃいないわ───マンダンガス。捕まってアズカバンに送られたわ。『亡者』のふりをして押し込み強盗をしようとした事に関係しているらしいわね……オクタビウス・ペッパーとかいう人が姿を消したし……まあ、なんて酷い話。九歳の男の子が、祖父母を殺そうとして捕まったわ。『服従の呪文』をかけられていたんじゃないかって……。」





四人は黙々と朝食を終えた。
すぐにハーマイオニーは授業へ向かい、ロンは「吸魂鬼」のレポートを仕上げに談話室へ戻り、名前は空き教室を探しに行った。
そしてハリーは一人、八階の「必要の部屋」の前へと向かったのだ。

一時間近く経過して、名前は作業を中断して、「闇の魔術に対する防衛術」の教室へ向かう。
ちょうど教室が開かれた頃合いで、沢山の生徒に混じって名前も教室へとはいった。
そしていつもの、一番後ろの端っこの席へと着く。





「また遅刻だぞ、ポッター。」





教科書を出したり、レポートを出したりしていると、突然スネイプがそう言った。
教室のドアを見ると、ハリーが入ってきたところだった。
授業はまだ始まっていないし、周囲の生徒は授業へ向けて準備中だ。





「グリフィンドール、十点減点。」





ハリーは黙ったままズカズカとロンの隣へ腰掛けた。
ギロリとスネイプを睨み付けて、他の生徒と同じように授業の準備をする。





「授業を始める前に、『吸魂鬼』のレポートを出したまえ。」





雑にスネイプが杖を振った。
二十六本の羊皮紙の巻紙が宙を舞い、教壇の上へきちんと積み重ねられる。





「『服従の呪文』への抵抗に関するレポートのくだらなさに、我輩は耐え忍ばねばならなかったが、今回のレポートはそれよりはましなものである事を、諸君の為に望みたいものだ。
さて、教科書を開いて、頁は───Mr.フィネガン、何だ?」



「先生。
質問があるのですが、『亡者』と『ゴースト』はどうやって見分けられますか?実は『日刊予言者新聞』に、『亡者』の事が出ていたものですから───」



「出ていない。」
すっかり飽きていやになったような声だ。



「でも、先生、僕、聞きました。皆が話しているのを───」



「Mr.フィネガン、問題の記事を自分で読めば、『亡者』と呼ばれたのものが、実はマンダンガス・フレッチャーという名の、小汚いこそ泥に過ぎなかった事が分かるはずだ。」



「スネイプとマンダンガスは味方同士じゃなかったのか?」
ハリーが小声で言った。
「マンダンガスが逮捕されても平気なのか───?」



「しかし、ポッターはこの件について、ひとくさり言う事がありそうだ。」





唐突にスネイプは教室の後ろを指差した。
どんよりと暗い目でハリーを見据えている。





「ポッターに聞いてみる事にしよう。『亡者』と『ゴースト』をどのようにして見分けるか。」





教室にいる生徒が皆、ハリーを見詰めた。
いやな沈黙も相俟って、名前だったら耐え消えれない注目度だ。





「えーと───あの───ゴーストは透明で───」



「ほう、大変よろしい。
成る程、ポッター、ほぼ六年に及ぶ魔法教育は無駄ではなかったという事がよく分かる。ゴーストは透明で。」





パンジー・パーキンソンがクスクス笑った。
他の生徒も何人かニヤついた笑みを浮かべている。





「ええ、ゴーストは透明です。でも『亡者』は死体です。そうでしょう?ですから、実体があり───」



「五歳の子どもでもその程度は教えてくれるだろう。」
スネイプはフンと鼻で笑った。
「『亡者』は、闇の魔法使いの呪文により動きを取り戻した屍だ。生きてはいない。その魔法使いの命ずる仕事をする為、傀儡の如く使われるだけだ。ゴーストは、そろそろ諸君も気付いたと思うが、この世を離れた魂が地上に残した痕跡だ……それに、勿論、ポッターが賢くも教えてくれたように、透明だ。」



「でも、ハリーが言った事は、どっちなのかを見分けるのには、一番役に立つ!」
ロンが勇敢にも言った。
「暗い路地でそいつらと出会したら、固いかどうかちょっと見てみるだろう?質問なんかしないと思うけど。『すみませんが、あなたは魂の痕跡ですか?』なんてさ。」





ロンの言葉に笑いが広がった。
スネイプが睨むと笑いは消えた。





「グリフィンドール、もう十点減点。ロナルド・ウィーズリー、我輩は君に、それ以上高度なものは何も期待しておらぬ。教室内で一寸たりとも『姿現し』出来ない固さだ。」



「駄目!
何にもならないわ。ほっときなさい!」





怒って口を開きかけたハリーの腕を引っ張り、ハーマイオニーが小さな声でそう言った。
スネイプは得意げに口角をちょっと上げて笑う。





「さて、教科書の二百十三頁を開くのだ。
『磔の呪文』の最初の二つの段落を読みたまえ……。」





「姿現し」の事を突っつかれたせいで、ロンは授業中ずっと落ち込んでいた。
終業ベルが鳴って教室を出ようとすると、ラベンダーが追い掛けてきて───その間にハーマイオニーは消えてしまった───スネイプがロンの「姿現し」を馬鹿にした事を非難した。
ところが慰められるどころかロンは怒った様子で、ハリーと名前を男子トイレに連れ込んで、追い掛けてくるラベンダーを撒いた。





「だけど、スネイプの言う通りだ。そうだろ?」





ヒビの入った鏡を見詰めて、ロンは呟くようにそう言った。





「僕なんて、試験を受ける価値があるかどうか分かんないよ。『姿現し』のコツがどうしても掴めないんだ。」



「取り敢えず、ホグズミードでの追加訓練を受けて、どこまでやれるようになるか見てみたらどうだ。」



『練習あるのみ。』



「バカバカしい輪っかに入る練習より面白い事は確かだ。それで、もしもまだ───つまり───自分の思うように出来なかったら、試験を延ばせばいい。僕と一緒に、夏に───
マートル、ここは男子トイレだぞ!」





鏡には、背後の小部屋の便器が映っていた。
そこからマートルが現れたのを目撃したのだ。





「あら。
あんた達だったの。」



「誰を待ってたんだ?」
鏡越しにロンが聞いた。



「別に。
あの人、また私に会いに来るって言ったの。でも、あなただって、また私に会いに立ち寄るって言ったけどね……。」
ハリーを責めるように見る。
「……それなのに、あなたは何ヵ月も何ヵ月も姿を見せなかったわ。男の子にはあまり期待しちゃ駄目だって、私、分かったの。」



「君は女子トイレに住んでいるものと思ってたけど?」



「そうよ。
だけど、他の場所を訪問出来ないって事じゃないわ。あなたに会いに、一度お風呂場に行った事、憶えてる?」



「はっきりとね。」



「だけど、あの人は私の事が好きだと思ったんだけど……。
三人がいなくなったら、もしかしてあの人が戻ってくるかもしれない……私達って、共通点が沢山あるもの……あの人はきっとそれを感じたと思うわ……。」



「共通点が多いって事は、
そいつもS字パイプに住んでるのかい?」
ロンが茶化すように言った。



「違うわ。
つまり、その人は繊細なの。皆があの人の事もいじめる。孤独で、誰も話す相手がいないのよ。それに自分の感情を表す事を恐れないで、泣くの!」



「ここで泣いてる男がいるのか?
まだ小さい男の子かい?」
ハリーは興味津々だ。



「気にしないで!
誰にも言わないって、私、約束したんだから。あの人の秘密は言わない。死んでも───」



「───墓場まで持っていく、じゃないよな?
下水まで持っていく、かもな……。」





からかうロンにマートルは怒って、叫んで便器に飛び込み、便器の中の水が床へ飛び散った。
マートルをからかう事でロンは元気を取り戻したようだった。





「君達の言う通りだ。
ホグズミードで追加練習をしてから、試験を受けるかどうか決めるよ。」





そう決心した通り、ロンは次の週末、ハーマイオニーや他の六年生達と一緒にホグズミードへ向かう事となった。
その日は最近の中でも珍しくよく晴れた日で、名前が一緒に残るとはいえハリーは妬ましい目付きで、玄関ホールで列を成す生徒達を眺めた。
生徒の一人一人をフィルチが「詮索センサー」で調べる間に、ハリーは「必要の部屋」に再挑戦する事を三人に伝えた。





「それよりもね。
真っ直ぐスラグホーンの部屋に行って、記憶を引き出す努力をする方がいいわ。」



「努力してるよ!」




憤慨してハリーが言った。
確かにハリーが言う通り、魔法薬の授業が終わると、ハリーは最後まで残って粘っていた。





「ハーマイオニー、あの人は、僕と話したがらないんだよ!スラグホーンが一人の時を僕が狙っていると知ってて、そうさせまいとしてるんだ!」



「まあね、でも、頑張り続けるしかないでしょう?」





列が短くなり、ハリーはそれ以上話すのをやめた。
フィルチに聞かれたらまずいからだ。
それからロンとハーマイオニーに激励の声を掛けて、二人は列から離れた。





「僕はこれから『必要の部屋』に行くけど、ナマエはどうする?」



『やる事があるから別行動になる。』



「分かった。」





二人は大理石の階段を上ったところで別れた。
多分ハリーは「忍びの地図」を使うので、名前の居場所も分かるだろう。
そして名前が空き教室で何をしているのか不思議に思う事だろう。
名前はお守りを作っている事を、まだハリー達の誰にも話していない。

空き教室でいつも通りお守りを作って過ごしていると、やがて昼食の時間となった。
広げた道具を片付けて鞄にしまい、大理石の階段を下りて大広間へ向かう。
するとどうやら、ハリーも到着したばかりらしく、名前が一番最後だったらしい。
三人は「姿現し」の話をしていた。





「出来たよ───まあ、ちょっとね!
マダム・パディフットの喫茶店の外に『姿現し』するはずだったんだけど、ちょっと行き過ぎて、スクリベンシャフト羽根ペン専門店の近くに出ちゃってさ。でも、兎に角動いた!」



『おめでとう。』



「やったね。
君はどうだった?ハーマイオニー?」



「ああ、完璧さ。当然。」
何故かロンが答えた。
「完璧な3Dだ。『どういう意図で』、『どっちらけ』、『どん底』、だったかな、まあどうでもいいや───その後、皆で『三本の箒』にちょっと飲みに行ったんだけど、トワイクロスが、ハーマイオニーを褒めるの褒めないのって───そのうちきっと結婚の申し込みを───」



「それで、あなたはどうだったの?
ずっと『必要の部屋』に関わりきりだったの?」



「そっ。
それで、誰に会ったと思う?トンクスさ!」



「トンクス?」





驚いて、ロンとハーマイオニーが同時に聞いた。
名前はパンを千切るのをやめてハリーを見た。





「ああ。ダンブルドアに会いにきたって言ってた……
僕が思うには───」





ハリーは、トンクスとの会話の内容をかいつまんで話した。
人が傷付いている事を気にしたり、騎士団の誰かから手紙が来ていないか気にしたり。
何が起こっているのか、ダンブルドアなら何か知っているのじゃないかとホグワーツへ出向いたらしい。





「トンクスはちょっと変だよ。魔法省での出来事の後、意気地が無い。」



「ちょっとおかしいわね。
トンクスは学校を護っているはずなのに、どうして急に任務を放棄して、ダンブルドアに会いに来たのかしら?しかも留守なのに。」



「こういう事じゃないかな。」
ハリーはちょっと躊躇うように言った。
「トンクスは、もしかしたら……ほら……シリウスを愛してた?」



ハーマイオニーは目を見開いた。
「一体どうしてそう思うの?」



「さあね。
だけど、僕がシリウスの名前を言ったら、殆ど泣きそうだった……それに、トンクスの今の守護霊は、大きな動物なんだ……もしかしたら、守護霊が変わったんじゃないかな……ほら……シリウスに。」



『まるでシリウスさんが死んだような言い方だね。』



「死んだと思ったよ、君も。」
ハリーはちょっと怒って言った。



「一理あるわ。」
ハーマイオニーは考えに耽っていた。
「でも、突然、城に飛び込んできた理由がまだ分からないわ。もし本当にダンブルドアに会いにきたのだとしたら……」



「結局、僕の言った事に戻るわけだろ?」
ロンはマッシュポテトを食べながら言った。
「トンクスはちょっとおかしくなった。意気地が無い。女ってやつは───
あいつらは簡単に動揺する。」



「だけど───
女なら、誰かさんの鬼婆とか癒師の冗談や、ミンビュラス・ミンブルトニアの冗談で、マダム・ロスメルタが笑ってくれなかったかといって、三十分も拗ねたりしないでしょうね。」





マダム・ロスメルタは曲線美が魅力的な、「三本の箒」の女主人だ。
長いことロンは思いを寄せているのだが、名前には何の事やらさっぱり分からない。
それにロンは顔を顰めるだけで、何も答えなかった。

- 282 -


[*前] | [次#]
ページ:




×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -