11.


ハリーはマルフォイの尻尾をつかもうと躍起になっていた。
ちょくちょく地図を見ていたし、授業中トイレに立って地図を見に行く事もあった。
けれど収穫は無いに等しかった。
クラッブとゴイルが二人きりで城の中を歩き回ったり、廊下でじっとしているのを見つけたりはしたものの、どこにもマルフォイの姿は無かった。
それが地図上のどこにも見付からないのだ。
何も得られないまま季節は三月になろうとしていた。















談話室の掲示板には、ホグズミード行きは取り消しという掲示が出た。
これには大勢が怒り、ロンの怒りようといったら一際すごかった。





「僕の誕生日だぞ!楽しみにしてたのに!」



「だけど、そんなに驚くような事でもないだろう?
ケイティの事があった後だし。」





ケイティは未だに「聖マンゴ病院」に入院中。
しかも「日刊予言者新聞」によると、行方不明者が続出しているらしい。
行方不明者の中には生徒の親戚も何名かいたようだ。





「だけど、他に期待出来るものって言えば、バカバカしい『姿現し』しかないんだぜ!
すごい誕生日祝いだよ……。」





今までに三回の「姿現し」の練習が行われた。
何名かが「ばらけ」を起こしたが、名前は数回、木の輪っかまではいかずとも移動を遂げた。
それから名前は皆の注目の的になってしまい、練習日が近付くと憂鬱そうに肩を落とした。
生徒が一人上手くいきそうになると教える立場としてもやる気が出てくるのかもしれない。
指導官のトワイクロスは事あるごとに「三つのD」を口にするものだから、練習が上手くいかない彼らの反感を買い、「三つのD」に由来したあだ名が沢山ついた。
ドンクサ、ドアホ、などはまだ穏やかな方だ。





『……。』





三月一日の早朝。天気は雨だった。
それでもいつものように名前はトレーニングの為に起きて、ロンのベッドの足元に山積みとなったプレゼントの中に、ひっそりとプレゼントを忍び込ませた。
今日はロンの誕生日だからだ。
それから名前はトレーニングに向かい、雨にも負けずトレーニングを行い、そして朝食の前に着替える為に寝室へと戻って来た。






『どうしたんだ。』





寝室のドアを開けて開口一番、名前はそう言った。
ハリーがロンに杖を向けて、おそらく「身体浮上」の呪文を使っていたからだ。
ロンは逆さ吊りになりながらも暴れていた。





「ロンが惚れ薬の仕込まれたチョコレートを食べたんだ!」





ハリーが叫ぶように言った。顎でロンのベッドの方を示す。
そこには見覚えのある包装紙が破かれた、半分ほど食べられた大鍋チョコレートの箱が置いてあった。
確かクリスマス前に、ロミルダ・ベインがハリーにあげた物だ。





「ハリー?早く下ろしてくれないか?僕をロミルダに紹介してくれるんだろ?」




ロンの顔は逆さ吊りになったせいで紫色になっていた。





「ああ、紹介してやるよ。
それじゃ、今、下ろしてやるからな。いいか?」





ハリーはチラリと名前を見てから、ロンを床に下ろした。
わざとそうしたのか、床に落ちる時に痛そうな音がした。
けれどロンはけろりとしていて、満面の笑みで立ち上がる。





「ナマエ、今のロンはいつ暴れるか分からない。暴れた時は手伝ってくれ。」



『分かった。』



「二人とも何を話してるんだ?」



「何でも無い。
ロミルダは、スラグホーンの部屋にいるはずだ。」



「どうしてそこにいるんだい?」



「ああ、魔法薬の特別授業を受けている。」



「一緒に受けられないかどうか、頼んでみようかな?」



「いい考えだ。」




談話室のドアの横にラベンダーが立っていた。
ロンの姿を見て唇を尖らせる。





「遅いわ、ウォン-ウォン!
お誕生日にあげようと思って───」



「ほっといてくれ。
ハリーが僕を、ロミルダ・ベインに紹介してくれるんだ。」




そう言うやいなや、ロンは談話室を出て行った。
ラベンダーの顔が更にむくれたが、説明している暇は無かった。
ハリーを先頭に、ロン、名前の順番で魔法薬の教室へ向かう。
名前はトレーニングウェアのまま校内をうろつく事となった為、それがちょっと心配だった。
先生方や、これから会うスラグホーンに注意されるのではないかと思ったのだ。

部屋に到着して、ハリーがドアをノックした。
すぐにスラグホーンは、緑色のビロードの部屋着にお揃いのナイトキャップを被って現れ、眠たげな瞼が重そうだった。





「ハリー、
訪問には早すぎるね……土曜日は大体遅くまで寝ているんだが……。」



「先生、お邪魔して本当にすみません。」





ハリーが内緒話でもするように小さな声で応えている。
その後ろでロンがつま先立ちになって、部屋の中を見回していた。





「でも、友達のロンが、間違って惚れ薬を飲んでしまったんです。先生、解毒剤を調合してくださいますよね?マダム・ポンフリーのところに連れて行こうと思ったんですが、ウィーズリー・ウィザード・ウィーズからは何も買ってはいけない事になっているから、あの……都合の悪い質問なんかされると……。」



「君なら、ハリー、君ほどの魔法薬の名手なら、治療薬を調合出来たのじゃないかね?」



「えーと。」




ロンが無理矢理部屋に入ろうとハリーの脇腹を小突く。
名前は肩を押さえて「今ハリーが説得しているから」とかなんとか言った。





「あの、先生、僕は惚れ薬の解毒剤を作った事がありませんし、ちゃんと出来上がるまでに、ロンが何か大変な事をしでかしたりすると───」



「あのひとがいないよ、ハリー───この人が隠してるのか?」



「その薬は使用期限内のものだったかね?
いやなに、長く置けば置くほど強力になる可能性があるのでね。」



「それでよく分かりました。」





スラグホーンがロミルダを隠しているとでも思ったのか、ロンはスラグホーンに襲いかからんばかりの勢いだ。
名前はロンの背後から羽交い締めにし、ハリーは前からロンの体を廊下に押し戻す。





「先生、今日はこいつの誕生日なんです。」



「ああ、よろしい。それでは入りなさい。さあ。
私の鞄に必要な物がある。難しい解毒剤ではない……。」





ハリーが一歩部屋に入ると、僅かに出来たその隙間からロンがスルリと部屋へ入り込む。
その勢いで足置き台に躓き転びかけ、ハリーに首根っこをつかまれて体勢を立て直した。

名前も部屋の中へ入る。
暖房の効きすぎたこの部屋は、雨に冷えた体には心地よかった。





「あのひとは見てなかっただろうな?」



「あのひとはまだ来ていないよ。」



「良かった。
僕、どう見える?」



「とても男前だ。」





スラグホーンが透明な液体の入ったグラスを持って戻って来た。
グラスをロンに渡す。





「さあ、これを全部飲みなさい。神経強壮剤だ。彼女が来た時、それ、君が落ち着いていられるようにね。」



「すごい。」




何の疑いも持たずロンは一気にそれを飲んだ。
暫くロンはニコニコ三人に笑い掛けていたが、次第に笑みが引っ込み、やがて恐怖の表情を浮かべた。





「どうやら、元に戻った?」




ハリーは悪戯っぽく笑った。
スラグホーンもクスクス笑う。
やはり名前だけは無表情だ。





「先生、有難うございました。」



「いやなに、構わん、構わん。」





ロンがフラフラとよろめくので、名前は思わず抱き止める。
それから側の肘掛け椅子に座らせた。





「気つけ薬が必要らしいな。」





スラグホーンはそう言うと、飲み物がびっしり置かれているテーブルへと向かった。





「バタービールがあるし、ワインもある。オーク樽熟成の蜂蜜酒は最後の一本だ……ウーム……ダンブルドアにクリスマスに贈るつもりだったが……まあ、それは……」
スラグホーンは肩を竦める。
「……もらっていなければ、別に残念とは思わないだろう!今開けて、Mr.ウィーズリーの誕生祝いといくかね?失恋の痛手を追い払うには、上等の酒に勝るものなし……。」





スラグホーンは嬉しそうに笑い、ハリーも笑った。
四つのグラスに並々と蜂蜜酒を注ぐ。





「そーら。」





スラグホーンは名前達にグラスを手渡した。
そして自身のグラスを掲げる。





「さあ、お誕生日おめでとう、ラルフ───」



「───ロンです───」





ハリーが小さな声で訂正した。
皆がまだ飲んでいないのに、ロンは構わず蜂蜜酒を飲み干した。
飲み干した瞬間、ロンが固まった。





「───いついつまでも健やかで───」



「ロン!」





ロンは手に持ったグラスを取り落とす。
椅子から立ち上がろうとしたのか、しかしそれは叶わず、膝から崩れ落ちて床に転がった。
名前が慌てて抱き起こす。
手足が激しく痙攣し、口からは泡を吹き、両目が零れ落ちそうなほど飛び出している。





「先生!
何とかしてください!」




スラグホーンは呆然と立ち尽くすばかりだった。
その間にもロンは痙攣し続け、息を詰まらせている。
名前とハリーは顔を見合わせた。
ハリーの顔は焦燥感で強張っていた。





「一体───しかし───」




ハリーは駆け出し、スラグホーンの魔法薬キットを問答無用で漁った。
名前の腕の中でロンは息をしようともがいている。

ハリーが戻って来た。手には萎びた肝臓のような───ベゾアール石を持っていた。

名前はロンの口をこじ開けて、ハリーがそこへベゾアール石を押し込む。
ロンは大きく身を震わせたかと思うと息を吐き、やがて静かになった。





「それじゃ結局、ロンにとってはいい誕生日じゃなかったわけか?」






お見舞いに来たフレッドが呟くように言った。
既に時間は夕方だった。
八時になってようやく病棟へ入る事が許されたのだ。
その十分後にフレッドとジョージが現れた。

ハリー、ハーマイオニー、名前、ジニーは、ロンの周りに座っていた。





「俺達の想像したプレゼント贈呈の様子はこうじゃなかったな。」




言いながらジョージは、プレゼントの包みを、ロンのベッド脇の棚に置いた。
それからジニーの隣に座る。





「そうだな。俺達の想像した場面では、こいつは意識があった。」



「俺達はホグズミードで、こいつをびっくりさせてやろうと待ち構えてた───」



「ホグズミードにいたの?」
ジニーが聞いた。



「ゾンコの店を買収しようと考えてたんだ。
ホグズミード支店というわけだ。しかし、君達が週末に、うちの商品を買いに来る為の外出を許されないとなりゃ、俺達ゃいい面の皮だ……まあ、今はそんな事気にするな。
ハリー、ナマエ、一体何が起こったんだ?」





二人は───殆どハリーだが───ダンブルドア、マクゴナガル、マダム・ポンフリーやハーマイオニー、ジニーへ話したように、事の顛末を伝えた。





「……それで、僕がベゾアール石をロンの喉に押し込んだら、ロンの息が少し楽になって、スラグホーンが助けを求めに走ったんだ。マクゴナガルとマダム・ポンフリーが駆け付けて、ロンをここに連れてきた。二人ともロンは大丈夫だろうって言ってた。マダム・ポンフリーは一週間ぐらいここに入院しなきゃいけないって……悲嘆草のエキスを飲み続けて……」



「全く、君がベゾアール石を思いついてくれたのは、ラッキーだったなあ。」



「その場にベゾアール石があってラッキーだったよ。」





全くその通りだ。スラグホーンによると、ベゾアール石は手に入りにくいものらしいから。

ハーマイオニーが微かに聞こえるほど小さく鼻をすすった。
知らせを聞いて病棟へ駆け付けた時には真っ青な顔色で、事の顛末を聞いた後はずーっと黙っていた。
ハリーとジニーが何故ロンに毒が盛られたのか、その話し合いにも加わらなかった。
元より名前もそんな感じではあるが。





「親父とおふくろは知ってるのか?」
フレッドがジニーに尋ねた。



「もうお見舞いに来たわ。一時間前に着いたの───今、ダンブルドアの校長室にいるけど、間もなく戻ってくる……。」





沈黙が辺りを漂った。
時折、ロンがうわ言を言っていた。





「それじゃ、毒はその飲み物に入ってたのか?」
フレッドが聞いた。



「そう。
スラグホーンが注いで───」



「君達に気付かれずに、スラグホーンが、ロンのグラスにこっそり何かを入れる事は出来たか?」



『……』
頷く。



「多分。
だけど、スラグホーンが何でロン毒を盛りたがる?」



「さあね。
グラスを間違えたって事は考えられないか?君に渡すつもりで?」



「スラグホーンがどうしてハリーに毒を盛りたがるの?」
ジニーが尋ねた。



「さあ。
だけど、ハリーに毒を盛りたいやつは、ごまんといるんじゃないか?『選ばれし者』云々だろ?」



「じゃ、スラグホーンが『死喰い人』だってこと?」
ジニーが言った。



「何だって有り得るよ。」
フレッドが応えた。



「『服従の呪文』にかかっていたかもしれないし。」



「スラグホーンが無実だってことも有り得るわ。
毒は瓶の中に入っていたかもしれないし、それなら、スラグホーン自身を狙っていた可能性もある。」



「スラグホーンを、誰が殺したがる?」



「ダンブルドアは、ヴォルデモートがスラグホーンを味方につけたがっていたと考えいる。」
ハリーが言った。
「スラグホーンは、ホグワーツに来る前、一年も隠れていた。それに……
それに、もしかしたらヴォルデモートは、スラグホーンを片付けたがっているもかもしれないし、スラグホーンがダンブルドアにとって価値があると考えているのかもしれない。」



「だけど、スラグホーンは、その瓶をクリスマスにダンブルドアに贈ろうと計画してたって言ったわよね。
だから、毒を持ったやつが、ダンブルドアを狙っていたという可能性も同じぐらいあるわ。」



「それなら、毒を盛ったのは、スラグホーンをよく知らない人だわ。」





初めてハーマイオニーが口を開いた。
その声は掠れて鼻声だった。





「知っている人だったら、そんなにおいしい物は、自分でとっておく可能性が高い事が分かるはずだもの。」



「アーマイオニー。」




ロンがハーマイオニーを呼んだ。
けれどうわ言か寝言か、どちらかだったらしい。
むにゃむにゃ何事か言った後、いびきをかき始めた。

病棟のドアが突然開かれた。
皆肩を跳ねさせて振り返る。
ハグリッドが大股で近付いて来るところだった。

もじゃもじゃ頭に雨粒を滴らせ、石弓を手に熊皮のオーバーをはためかせ、歩く度に大きな泥の足跡が床に出来た。





「一日中禁じられた森にいた!
アラゴグの容態が悪くなって、俺はあいつに本を読んでやっとった───たった今夕食に来たとこなんだが、そしたらスプラウト先生からロンの事を聞いた!様子はどうだ?」



「そんなに悪くないよ。」
ハリーが答えた。
「ロンは大丈夫だって言われた。」



「お見舞いは一度に六人までです!」




マダム・ポンフリーが大急ぎで事務所から出てきた。
ハグリッドの大きな足跡が見付かったのだろう。





『それなら俺が外に出ます。』
椅子を立ち上がる。



「悪いな、ナマエ。」
ハグリッドは申し訳なさそうだ。



『気にしないでください。』





ハグリッドの足跡を杖で消すマダム・ポンフリーの後を、名前が追い掛けるようについていく。
病棟の横のベンチに腰掛けて、名前は暫く待った。
それから少ししてウィーズリー夫妻が病棟へやって来た。
急いでいる様子の二人に、名前は会釈だけする。
二人は会釈し返して病棟へと入っていき、また少しすると、入れ違うようにハリーとハーマイオニー、ハグリッドが出てきた。





「ひでえ話だ。」





石畳の廊下を肩を並べて歩きながら、ハグリッドがそう言った。





「安全対策を新しくしたっちゅうても、子ども達は酷い目に遭ってるし……ダンブルドアは心配で病気になりそうだ……あんまり仰らねえが、俺には分かる……。」



「ハグリッド、ダンブルドアに何かお考えはないのかしら?」



「何百っちゅうお考えがあるに違えねえ。あんなに頭のええ方だ。
そんでも、ネックレスを贈ったやつは誰で、あの蜂蜜酒に毒を入れたのは誰だっちゅう事がお分かりになんねえ。分かってたら、やつらはもう捕まっとるはずだろうが?俺が心配しとるのはな、」





そこで一旦言葉を切って、ハグリッドは後ろを振り返った。
ハリーは天井を見回していた。多分ピーブズを警戒していたのだろう。





「子ども達が襲われてるとなれば、ホグワーツがいつまで続けられるかっちゅう事だ。またしても『秘密の部屋』の繰り返しだろうが?パニック状態になる。親達が学校から子どもを連れ帰る。そうなりゃ、ほれ、次の理事会だ……。」





女性のゴーストがゆっくり漂っていった。
ハグリッドはまたしても一旦言葉を切った。





「……理事会じゃあ、学校を永久閉鎖する話をするに決まっちょる。」



「まさか?」
ハーマイオニーが言った。



「あいつらの見方で物を見にゃあ。
そりゃあ、ホグワーツに子どもを預けるっちゅう事は、いつでもちいとは危険を伴う。そうだろうが?何百人っちゅう未成年の魔法使いが一緒にいりゃあ、事故もあるっちゅうもんだ。だけんど、殺人未遂っちゅうのは、話が違う。そんで、ダンブルドアが立腹なさるのも無理はねえ。あのスネ───」



ハグリッドは足を止めた。
見上げると、もじゃもじゃ髭に隠れた顔に、「しまった」という表情を浮かべている。
ハリーが勢いよく食い付いた。





「えっ?
ダンブルドアがスネイプに腹を立てたって?」



「俺はそんな事は言っとらん。」
とは言うものの、ハグリッドは慌てている。
「こんな時間か。もう真夜中だ、俺は───」



「ハグリッド、ダンブルドアはどうしてスネイプを怒ったの?」



「シーッ!
そういう事を大声で言うもンでねえ、ハリー。俺をクビにしてぇのか?そりゃあ、そんな事はどうでもええんだろう。もう俺の『飼育学』の授業取ってねえんだし───」



「そんな事を言って僕に遠慮させようとしたって無駄だ!
スネイプは何をしたんだ?」



「知らねえんだ、ハリー。俺は何にも聞くべきじゃあなかった!俺は───まあ、いつだったか、夜に俺が森から出てきたら、二人で話しとるのが聞こえた───まあ、議論しちょった。俺の方に気を引きたくはなかったんで、こそっと歩いて、何も聞かんようにしたんだ。だけんど、あれは───まあ、議論が熱くなっとって、聞こえねえようにするのは難しかったんでな。」




「それで?」



「まあ───俺が聞こえっちまったのは、スネイプが言ってた事で、ダンブルドアは何でもかんでも当然のように考えとるが、自分は───スネイプの事だがな───もうそういうこたぁやりたくねえと───」



「何をだって?」



「ハリー、俺は知らねえ。スネイプはちいと働かせ過ぎちょると感じてるみてえだった。それだけだ───兎に角、ダンブルドアはスネイプにはっきり言いなすった。スネイプがやるって承知したんだから、それ以上何も言うなって。随分ときつく言いなすった。それからダンブルドアは、スネイプが自分の寮のスリザリンを調査するっちゅう事について、何か言いなすった。まあ、そいつは何も変なこっちゃねえ!
寮監は全員、ネックレス事件を調査しろって言われちょるし───」



「ああ、だけど、ダンブルドアは他の寮監と口論はしてないだろう?」



「ええか、」





ハグリッドはモジモジと石弓を手の中で捻った。
石弓は二つに折れた。





「スネイプの事っちゅうと、ハリー、お前さんがどうなるか知っちょる。だから、今の事を、変に勘ぐって欲しくねえんだ。」



「気を付けて。」




後ろを向いたハーマイオニーが言った。
振り向くと、壁に何者かの影が映っている。
それはだんだんと近付いてきて、そして角を曲がり現れた。
アーガス・フィルチだ。




「オホッ!
こんな時間にベッドを抜け出しとるな、つまり、罰則だ!」



「そうじゃねえぞ、フィルチ。
二人とも俺と一緒だろうが?」



「それがどうしたんでござんすか?」



「俺が先生だってこった!このこそこそスクイブめ!」





フィルチは怒りで顔を赤の斑に染めた。
足元からシャーッシャーッと音が聞こえる。
見るとミセス・ノリスがフィルチの足元に巻き付くように佇んでいた。





「早く行け。」





ハグリッドが歯を食い縛ったまま言った。
三人は走ってその場を離れた。
背後で二人が怒鳴り合っている。

グリフィンドール塔に近い曲がり角でピーブズと擦れ違った。
ピーブズは嬉しそうに笑いながら、怒鳴り合いの聞こえる方へ漂っていった。

そうして三人は無事に談話室に辿り着いた。
談話室には誰もいないように見えた。
静かなもので、三人は誰にもロンの事を問いただされず、ちょっとホッとした。
おやすみの挨拶をしてハーマイオニーが女子寮に向かい、名前も男子寮へ向かう。
その場にはハリーだけが残された。

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