09.
クリスマス休暇は日本のコテージで過ごし、ハリー達のところには、プレゼントと一緒にお守りを送った。
ルーピンやシリウス、モリーやアーサー、ヘドウィグやクルックシャンクスなどのペットにまで出来うる限り。
そしてコテージで過ごす間はひたすらお守りを作り続けて、柳岡宅に戻って母親の法事に行った後に、再びホグワーツへと戻ったのである。
『ハリー、ハーマイオニー、久し振り。』
「久し振りって、ナマエ、ちょっと会わなかっただけじゃない。」
ハーマイオニーがクスリと笑って名前の座るテーブル席に腰掛けた。
続けてハリーも腰掛ける。
「それで、君達のクリスマスはどうだったの?」
「まあまあよ。」
『普通。』
「何も特別な事は無かったわ。ウォン-ウォンのところはどうだったの?」
ウォン-ウォンとはラベンダー・ブラウンがロンを呼ぶ時のあだ名のようなものだ。
二人は今日も抱き合っている。
「今すぐ話すけど。
あのさ、ハーマイオニー、駄目かな───?」
「駄目。
言うだけ無駄よ。」
「もしかしてと思ったんだ。だって、クリスマスの間に───」
「五百年物のワインを一樽飲み干したのは『太った婦人』よ、ハリー。私じゃないわ。それで、私達に話したい重要なニュースがあるって、何だったの?」
二人が一体何の話をしているのか名前には分からなかったが、「重要なニュース」には聞き覚えがあった。
パーティ明けの翌日、「休暇から戻ったら重要なニュースがある」とハリーに言われていたのだ。
そしてハリーは「重要なニュース」を、小さな声で話し始めた。
それはパーティの途中、スネイプとマルフォイの二人が席を外した時の事だ。
ハリーは名前とルーナをその場に置いて、「透明マント」を使い二人の後をつけたと言う。
そして二人の会話を盗み聞きしたのだ。
「マルフォイが何かやってミスしたと、スネイプに思われているみたいだった。マルフォイはずっと否定していたけど───それで───」
ハリーは思い出そうと必死に記憶を探っていた。
まるでここに「憂いの篩」があればいいのに、という顔だった。
ハリーは言葉を続けた。
「マルフォイは今学期ずっとスネイプを避けていたらしかった。
でもスネイプは何度もマルフォイと会おうとしていたみたいだった。マルフォイは行かなかったけど───。」
それでスネイプは、マルフォイの母親と「破れぬ誓い」をしたと言う。
「破れぬ誓い」は魔法使いを誓約で縛り、破った者は死ぬという呪いだ。
ハーマイオニーと名前はちょっと息を呑み、それでもハリーの話を聞き続けた。
「マルフォイは何か企てていて、スネイプが手助けしようとしていた。」
そりゃあ「破れぬ誓い」を立てたのだから、スネイプはマルフォイを守らざるを得ない。
そしてマルフォイの企てはおそらく命にかかわる事なのだろう。
ハーマイオニーはしばし考えに耽り、それから口を開いた。
「こうは考えられない───?」
「スネイプがマルフォイに援助を申し出るふりをして、マルフォイのやろうとしている事を喋らせようという計略?」
「まあ、そうね。」
「ロンのパパも、ルーピンもそう考えている。
でも、マルフォイが何か企んでいる事が、これではっきり証明された。これは否定出来ない。」
「出来ないわね。」
『うん。』
「それに、やつはヴォルデモートの命令で動いている。僕が言った通りだ!」
「んーん……二人のうちどちらかが、ヴォルデモートの名前を口にした?」
ハリーは思い出そうとしているようだ。
「分からない……スネイプは『君の主君』とはっきり言ったし、他に誰がいる?」
「分からないわ。」
『考えやすいのは確かに、ヴォルデモートだね。』
「マルフォイの父親はどうかしら?」
ハーマイオニーは考えに耽り遠くを見詰めた。
ラベンダーとロンがじゃれ合っているのに気付いていない。
「ルーピンは元気?」
「あんまり。」
ハリーはルーピンが、他の狼人間達と行動している事を、二人に話して聞かせた。
狼人間の殆ど全員がヴォルデモート側で、ルーピンはスパイだという事も。
「フェンリール・グレイバックって、聞いた事ある?」
『ある。』
「ええ、あるわ!
それに、あなたも聞いたはずよ、ハリー!」
「いつ?魔法史で?君、知ってるじゃないか、僕がちゃんと聞いてないって……。」
「ううん、魔法史じゃないの───マルフォイがその名前でボージンを脅してたわ!
『夜の闇横丁』で。憶えてない?グレイバックは昔から自分の家族と親しいし、ボージンがちゃんと取り組んでいるかどうかを、グレイバックが確かめるだろうって!」
「忘れてたよ!だけど、これで、マルフォイが死喰い人だって事が証明された。そうじゃなかったら、グレイバックと接触したり、命令したり出来ないだろ?」
『まあ、そうだね。』
「その疑いは濃いわね。
ただし……」
「いい加減にしろよ。
今度は言い逃れ出来ないぞ!」
「うーん……嘘の脅しだった可能性があるわ。」
「君って、すごいよ、全く。
誰が正しいかは、そのうち分かるさ……ハーマイオニー、君も前言撤回って事になるよ。魔法省みたいに。あっ、そうだ。僕、ルーファス・スクリムジョールとも言い争いした……。」
それからハリーは、新しい魔法大臣が「隠れ穴」に来て、ハリーに助けを求めた事を話した。
助けといっても、ハリーが魔法省に出入りして、人々に魔法省がきちんとしている印象をつけてほしいという願いだ。
去年ハリーに乱暴狼藉な振る舞いをしたくせに、全くいい度胸をしている。
翌日の朝。
談話室の掲示板には、「姿現し」の練習コースが貼り出され、皆大喜びでリストに名前を連ねていく。
ハーマイオニーの後にロンが名前を書こうとすると、後ろからラベンダーが忍び寄り、ロンの両目を両手で隠した。
「だれだ?ウォン-ウォン?」
すぐにハーマイオニーは早足でその場を立ち去った。
ハリーも名前もその場に留まる気は無かったので、二人はハーマイオニーの後を追い掛けるように歩く。
しかし、確かに多くの人がロンとラベンダーのやり取りにはうんざりしていたが、ハーマイオニーはちょっと敏感だと、名前は今更ながら気が付いた。
どうして過剰に反応するのかと考えに耽っていると、ロンが追い付いてきた。
耳が真っ赤で、怒った顔をしている。
「それじゃ───『姿現し』は───」
先程の出来事を無視するかのように、ロンはいきなり話を切り出した。
「きっと楽チンだぜ、な?」
「どうかな」と、名前とハリーの声が被った。
二人はちょっと顔を見合わせた。
「自分でやれば少しましなのかも知れないけど、ダンブルドアが付き添って連れて行ってくれた時は、あんまり楽しいとは思わなかった。」
『そうなんだ。』
「君がもう経験者だって事、忘れてた……一回目のテストでパスしなきゃな。
フレッドとジョージは一回でパスだった。」
「でも、チャーリーは失敗したろう?」
「ああ、だけど、チャーリーは僕よりでかい。」
ロンは両腕を上げて力瘤をつくるポーズをした。
「だから、フレッドもジョージもあんまりしつこくからかわなかった……少なくとも面と向かっては……。」
『二人にもからかいにくい相手がいたんだ。』
名前は自分の事を思い出して遠い目をした。
「ナマエはでかいけどからかいやすい。怒らないし。」
ロンがビシッと言った。
「本番のテストはいつ?」
「十七歳になった直後。僕はもうすぐ。三月!」
「そうか。だけど、ここではどうせ『姿現し』出来ないはずだ。城の中では……。」
「それは関係ないだろ?やりたい時にいつでも『姿現し』出来るんだって、皆に知れる事が大事さ。」
「姿現し」は魔法使いにとって重要なのか魅力的なのか。
その日は一日中、六年生の間では「姿現し」の話で持ち切りだった。
授業中でさえだ。
「僕達も出来るようになったら、かっこいいなあ。こんなふうに───」
シェーマスは指をパチンと鳴らした。
「従兄のファーガスのやつ、僕を苛々させる為にこれをやるんだ。今に見てろ。やり返してやるから……あいつには、もう一瞬たりとも平和な時はない……。」
夢に現を抜かしてシェーマスは杖を振り過ぎた。
その日の呪文学は清らかな水の噴水を創り出す課題だったが、シェーマスのは捻り過ぎた蛇口のように水が噴き出し、天井に撥ね返った水がフリットウィックを床へ弾き飛ばした。
フリットウィックは杖で濡れた服を乾かし、シェーマスに書き取りの罰則をさせた。
少しきまりが悪そうなシェーマスに向かって、ロンが口を開いた。
「ハリーはもう『姿現し』した事があるんだ。ダン───エーッと───誰かと一緒だったけどね。『付き添い姿現し』ってやつさ。」
「ヒョー!」
シェーマスが驚いて声を上げた。
それからシェーマス、ディーン、ネビルの三人に迫られて、ハリーは「姿現し」がどんな感じだったかを話すはめになった。
その話がどう広まったのか。
「姿現し」の感覚を話してほしいと六年生が殺到して、ハリーは一日中、何度も同じ話をした。
それはダンブルドアとの約束がある夜は八時十分前になっても続き、ハリーは図書室に本を返さなければならないと嘘を吐いて、何とかその場を抜け出したのだ。
翌日になってハリーは、ダンブルドアに宿題を出されたと打ち明けた。
それが何でも「スラグホーンの本当の記憶を明かさせる事」だと言う。
相変わらずヴォルデモートの過去について学んでいたようだが、そこでスラグホーンに関する記憶が、スラグホーン自身の手により修正されていたらしい。
「いつも鮮明に見える記憶が、急に濃い霧に覆われたんだ。多分それが修正した証だと思うな。
それが、二度。
トム・リドルがスラグホーンにホークラックスの事を聞いた途端、スラグホーンは怒鳴って、それで終わり。」
休憩時間中。
中庭には踝まで雪が積もっているせいか、そこに人気は無い。
だから話をするのには適していた。
「ダンブルドアが聞き出せなかったのなら、スラグホーンはあくまで真相を隠すつもりに違いないわ。」
『ホークラックスって何だろう。』
ハーマイオニーを見る。
ハーマイオニーは顎に手をあてた。
「ホークラックス……ホークラックス……聞いた事もないわ……。」
「君達が?」
ハリーはがっかりした声を出した。
ホークラックスについて二人が知っていると期待していたのだろう。
「相当高度な、闇の魔術に違いないわ。そうじゃなきゃ、ヴォルデモートが知りたがるはずないでしょう?ハリー、その情報は、一筋縄じゃ聞き出せないと思うわよ。スラグホーンには十分慎重に持ち掛けないといけないわ。ちゃんと戦術を考えて……。」
『同意見。一度失敗すると、向こうは警戒を強めて、聞き出せなくなるかもしれない。』
「ロンは、今日の午後の授業の後、ちょっと残ればいいっていう考えだけど……。」
「あら、まあ、もしウォン-ウォンがそう考えるんだったら、そうした方がいいでしょ。
何しろウォン-ウォンの判断は一度だって間違った事がありませんからね!」
「ハーマイオニー、いい加減に───」
「お断りよ!」
プンスカ怒るハーマイオニーは、雪をズンズン踏み進めて城へと戻った。
後には男子二人が残されたわけである。
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