08.-2


「ハリーがルーナをパーティに誘ったんですって?」





遠くに座るハリーとロンを盗み見て、ハーマイオニーが言った。
ハリーとロンの間にラベンダーが割り込んで座っている。
一緒にいるパーバティとハリーはうんざり顔だ。
名前はパンを飲み込んで頷く。





「ナマエは誰か誘ったの?」



『ううん。』



「もう……私の忠告は聞き流したみたいね。」



『ごめん。』




夕食を終えて二人は席を立ち上がる。
ハリーとロンのところで、ハーマイオニーは歩みを遅くさせた。





「あら、こんばんは、ハーマイオニー!ナマエ!」



『こんばんは、パーバティ。』



「こんばんは、パーバティ!」





パーバティがにっこり笑って挨拶した。
名前は無表情に返し、ハーマイオニーはパーバティ以上ににっこり笑った。





「夜はスラグホーンのパーティに行くの?」



「招待無しよ。
でも行きたいわ。とっても素晴らしいみたいだし……あなたは行くんでしょう?」



「ええ、八時にコーマックと待ち合わせて、二人で───」





名前はハーマイオニーを凝視した。
パーバティは勿論、ロンもハリーもラベンダーもだ。





「───一緒にパーティに行くの。」



「コーマックと?
コーマック・マクラーゲン、なの?」



「そうよ。
もう少しで、
グリフィンドールのキーパーになるところだった人よ。」



「それじゃ、あの人と付き合ってるの?」



「あら───そうよ───知らなかった?」





ハーマイオニーはクスクス笑った。
まるでラベンダーやパーバティがするようなクスクス笑いで、ハーマイオニーらしくない笑い方だった。





「まさか!
ウワー、あなたって、クィディッチ選手が好きなのね?最初はクラム、今度はマクラーゲン……」



「私が好きなのは、本当にいいクィディッチ選手よ。
じゃ、またね……もうパーティに行く支度をしなくちゃ。」





ハーマイオニーと一緒に大広間を出て行きながら、名前はハーマイオニーの話が本当なのか聞くかべきか、悩んでいるようだった。
ハーマイオニーはいやにニコニコして名前にパーティの話をしていて、名前はそれに相槌を打つのに大変だった。

二人は寮に戻りそれぞれパーティへ向けて準備をする為に別れる。
途中でハリーと合流して、一緒に行かないかと誘われた。





『ルーナと行くんじゃなかった。』



「ナマエが一緒だってルーナは気にしないよ。
それに、一人でいるよりいいだろ?」



『有難う、ハリー。』





八時が近付き、二人は玄関ホールに向かう。
玄関ホールには大勢の女の子達がいて、既に待ち合わせ場所にいたルーナを、名前達が近付くのを恨みがましく見ていた。
ルーナはスパンコールのついた銀色のローブを身に纏い、女の子達の何人かがそれを見て笑っていたが、その他のルーナのドレス姿は似合ってた。





『こんばんは、ルーナ。』



「やあ。
それじゃ、行こうか。」



「うん。こんばんは、ナマエ。
パーティはどこなの?」



「スラグホーンの部屋だよ。」





ハリーの言った通り、名前が一緒に行く事を、ルーナは気にしなかった。

ハリーを真ん中に石畳の廊下を歩く。
それから大理石の階段を上る。





「吸血鬼が来る予定だって、君達、聞いてる?」



『いいや。』



「ルーファス・スクリムジョール?」



「僕───えっ?
魔法大臣の事?」



「そう。あの人、吸血鬼なんだ。
スクリムジョールがコーネリウス・ファッジに代わった時に、パパがとっても長い記事を書いたんだけど、魔法省の誰かが手を回して、パパに発行させないようにしたんだもン。勿論、本当の事が漏れるのが嫌だったんだよ!」





父親の見解をまるごとそのまま受け取るのがルーナだから、二人は何も言い返さなかった。
スラグホーンの部屋はもうすぐそこだ。
優美な音楽、楽しげな笑い声や話し声が廊下にまで漏れている。

中に入るとその部屋は、魔法でそう見せているのか元々そうなのか、他の先生の部屋より広かった。
天井と壁はエメラルド、紅、金色の垂れ幕で飾られ、天井中央に下がるランプに照らされ輝いている。
そのランプの中には本物の妖精が飛び回り、赤い光が部屋を照らしていた。

部屋の隅からは大きな歌声が流れ部屋を反響し、年高の魔法使いが話しているところからは、パイプの煙が上がっている。
膝下辺りでは数人の屋敷しもべ妖精が食事の載ったお盆を掲げ、慌ただしく動き回っていた。





「これはこれは、ハリーにMr.ミョウジ!」





混雑した部屋に何故かスラグホーンの声はよく通る。
スラグホーンはビロードの上着にビロードの房付き帽子を被り、此方ヘつかつか近寄って来た。





「さあ、さあ、入ってくれ。君達に引き合わせたい人物が大勢いる!」





スラグホーンはがっちりハリーと名前の腕を掴まえた。
そしてパーティの中心部へと誘っていく。
ハリーと名前は慌ててルーナの手を握り、一緒に引っ張られていった。





「ハリー、ミョウジ。こちらは私の昔の生徒でね、エルドレド・ウォープルだ。『血兄弟───吸血鬼たちとの日々』の著者だ───そして、勿論、その友人のサングィニだ。」





小柄で眼鏡をかけたウォープルは、ハリーの手を掴んで握手した。
吸血鬼のサングィニは長身痩躯で眼の下に黒黒と隈があり、こちらはちょっと頭を傾げただけだ。
名前は二人に会釈したが、ウォープルはハリーに夢中だし、サングィニはパーティに退屈している様子である。
まあ、ハリーに比べたら、公言された名前の「予知夢」はインパクトに欠けるのかもしれない。





「ハリー・ポッター、喜ばしい限りです!
つい先日、スラグホーン先生にお聞きしたばかりですよ。『我々全てが望んでいる、ハリー・ポッターの伝記はどこにあるのですか?』とね。」



「あ、
そうですか?」



「ホラスの言った通り、謙虚な人だ!
しかし、真面目な話───
私自身が喜んで書きますがね───皆が君の事を知りたいと、渇望していますよ。君、渇望ですよ!何、二、三回インタビューさせてくれれば、そう、一回につき四、五時間てところですね、そうしたらもう、数ヵ月で本が完成しますよ。君の方は殆ど何もしなくていい。お約束しますよ───ご心配なら、ここにいるサングィニに聞いてみて───サングィニ!ここにいなさい!」




サングィニは女の子達の群れに近付こうとしていた。





「さあ、肉入りパイを食べなさい。」





ウォープルはちょうど通り掛かったしもべ妖精の盆から肉入りパイを一つ取ってサングィニの手に押し付けた。
それからまたハリーに向き直る。
名前は横を向いて欠伸を堪え、ルーナはパーティをぼんやりと眺めている。





「いやあ、君、どんなにいい金になるか、考えても───」



「全く興味ありません。
それに、友達を見掛けたので、失礼します。」





ハリーはルーナと名前の手を引っ張って、人混みの中へ踏み込む。
「妖女シスターズ」の二人の間に、ハーマイオニーのトレードマークの栗色の豊かな髪が、サッと消えるのを本当に見掛けたからだ。





「ハーマイオニー、ハーマイオニー!」



「ハリー!ここにいたの。よかった!こんばんは、ナマエ、ルーナ!」





そう言うハーマイオニーの姿はぐしゃぐしゃだった。
髪の毛は乱れているし、ドレスは皺が寄っている。





「何があったんだ?」



「ああ、逃げてきたところなの───つまり、コーマックを置いてきたばかりなの。
ヤドリギの下に。」



「あいつと来た罰だ。」



「ロンが一番嫌がると思ったの。
ザカリアス・スミスではどうかと思った事もちょっとあったけど、全体として考えると───」



「スミスなんかまで考えたのか?」



「ええ、そうよ。そっちを選んでおけばよかったと思い始めたわ。マクラーゲンて、グロウプでさえ紳士に見えてくるような人。あっちに行きましょう。あいつがこっちに来るのが見えるわ。何しろ大きいから……ナマエには劣るけど。」




ハーマイオニーは皮肉るようにそう言って、四人で部屋の反対側へと向かった。
途中で蜂蜜酒を取って、反対側へと着く。
そこにはトレローニーが一人立っていた。
ルーナがつつと進み出る。





「こんばんは。」



「おや、こんばんは。」




トレローニーは随分酔っているようだった。
ルーナに焦点を合わせるのがやっとの事で、立っているのが不思議な程だ。





「あたくしの授業で、最近お見掛けしないわね……。」



「はい、今年はフィレンツェです。」



「ああ、そうそう。
あたくしは、むしろ『駄馬さん』とお呼びしますけれどね。あたくしが学校に戻ったからには、ダンブルドア校長があんな馬を追い出してしまうだろうと、そう思いませんでしたこと?でも、違う……クラスを分けるなんて……侮辱ですわ。そうですとも、侮辱。ご存知かしら……。」





トレローニーはブツブツと一人話し続けた。
それをルーナはぼんやり聞いている。
チャンスだとばかりにハリーは、ハーマイオニーの耳元に顔を寄せた。
パーティの雑音とハリーの小声で、身長差のある名前には話が聞き取れなかった。
しかしだんだんとハーマイオニーの顔が怒りに歪んでいき───





「クィディッチ!」
ついに爆発した。
「男の子って、それしか頭にないの?コーマックは私の事を一度も聞かなかったわ。ただの一度も。私がお聞かせいただいたのは、『コーマック・マクラーゲンの素晴らしいセーブ百選』連続ノンストップ。ずーっとよ───あ、いや、こっちに来るわ!」




ハーマイオニーは壁の垂れ幕に姿を隠し、次の瞬間二人の魔女の間に割り込んで、あっという間に立ち去った。
それから一分後、マクラーゲンが辿り着いた。





「ハーマイオニーを見なかったか?」



「いいや。」



『見ていない。』




名前は目を泳がせながらそう言ったが、ハーマイオニーを探すのに夢中なマクラーゲンには気付かれなかったようだ。
マクラーゲンはハーマイオニーを探しにその場を立ち去った。





「ハリー・ポッター!」




突然トレローニーが名前を呼んだ。
初めて存在に気が付いたようだった。





「あの噂!あの話!『選ばれし者』!あたくしには前々から分かっていて事です……ハリー、予兆がよかったためしがありませんでした……
それにあなた、ナマエ・ミョウジ。そう、あなたもです。『予知夢の男の子』。……
……でも、二人とも、どうして『占い学』を取らなかったのかしら?あなた達こそ、他の誰よりも、この科目が最も重要ですわ!」



「ああ、シビル、我々は皆、自分の科目こそ最重要と思うものだ!」





太い声が聞こえて、次の瞬間、瞬間移動でもしたように、トレローニーの隣にスラグホーンが現れた。
スラグホーンの顔が真っ赤に見えるのは、明かりのせいだけじゃないだろう。
片手に蜂蜜酒、もう片手には大きなミンスパイを持っている。





「しかし『魔法薬』でこんなに天分のある生徒は、他に思い当たらないね!」
スラグホーンは愛おしげにハリーを見た。
「何しろ、直感的で───母親と同じだ!これほどの才能の持ち主は、数える程しか教えた事が無い。いや、全くだよ、シビル───このセブルスでさえ───」





名前は思わず手に持っていた蜂蜜酒のゴブレットを取り落としそうになった。
スラグホーンが片腕を伸ばした瞬間、召喚されたようにスネイプが引き寄せられたからだ。





「こそこそ隠れずに、セブルス、一緒にやろうじゃないか!
たった今、ハリーが魔法薬の調合に関してずば抜けていると、話していたところだ。勿論、ある程度君のおかげでもあるな。五年間も教えたのだから!」





スネイプはスラグホーンに腕を回されたまま、目を細め、つんと鼻を高くしてハリーを見下ろした。
ハーマイオニーじゃないが、名前はこの場を逃げ出したい気持ちに駆られた。
ハリーは挑戦的にもスネイプを睨み返している。





「おかしいですな。我輩の印象では、ポッターには全く何も教える事が出来なかったが。」



「ほう!それでは天性の能力という事だ!
最初の授業で、ハリーが私に渡してくれた物を見せたかったね。『生ける屍の水薬』───一回目であれほどの物を仕上げた生徒は一人もいない───セブルス、君でさえ───」



「成る程?」



「ハリー、他にはどういう科目を取っておるのだったかね?」



「闇の魔術に対する防衛術、呪文学、変身術、薬草学……。」



「つまり、闇祓いに必要な科目の全てか。」
スネイプは口角を少し上げて冷たく笑った。



「ええ、まあ、それが僕のなりたいものです。」
対するハリーは挑戦的だ。



「それこそ偉大な闇祓いになることだろう!」



「あんた、闇祓いになるべきじゃないと思うな、ハリー。」





ルーナが突然そう言った。
その場にいた全員がルーナを見た。





「闇祓いって、ロットファングの陰謀の一部だよ。皆知っていると思ったけどな。魔法省を内側から倒す為に、闇の魔術と歯槽膿漏とか組み合わせて、色々やっているんだもン。」




つい笑ってしまったハリーは、ちょうど飲もうとしていた蜂蜜酒に咽せて酒を溢した。
それでも笑いが引っ込まずにいると、向こうの方から人垣が割れて、何かが此方へ来るではないか。
何事かと見ていると、アーガス・フィルチがドラコ・マルフォイの耳を掴んで引っ張って来た。





「スラグホーン先生。
こいつが上の階の廊下をうろついているところを見付けました。先生のパーティに招かれたのに、出掛けるのが遅れたと主張しています。こいつに招待状をお出しになりましたですか?」





マルフォイはとても怒った様子でフィルチの手を振り払った。





「ああ、僕は招かれていないとも!
勝手に押しかけようとしていたんだ。これで満足したか?」



「何が満足なものか!
お前は大変な事になるぞ。そうだとも!校長先生が仰らなかったかな?許可無く夜間にうろつくなと。え、どうだ?」



「構わんよ、フィルチ、構わん。
クリスマスだ。パーティに来たいというのは罪ではない。今回だけ、罰する事は忘れよう。ドラコ、ここにいてよろしい。」





その言葉にフィルチは冷めやらぬ怒りと失望で顔を赤の斑模様にさせて震えていた。
けれどマルフォイは罰を逃れて喜ぶどころか、フィルチと同じくらい失望しているように見えた。
そしてそんなマルフォイを見るスネイプの顔は、ただ怒っているだけには見えなかった。
眉間に皺を寄せているのはいつもの事だが、土気色の顔が青ざめて見えて、他の感情───恐怖だろうか。そんなふうに読み取れた。

フィルチはブツブツ文句を呟きながら会場を後にした。
残されたマルフォイは笑顔を取り繕ってスラグホーンに感謝し、その時にはスネイプは顔色を取り戻しいつもの不機嫌顔に戻っていた。
スラグホーンはマルフォイの感謝に手を振ってかわしていた。





「何でも無い、何でも無い。
どの道、君のお祖父さんを知っていたのだし……。」



「祖父はいつも先生の事を高く評価していました。
魔法薬にかけては、自分が知っている中で一番だと……。」





そう言うマルフォイは笑顔を浮かべていたが、顔色はすこぶる悪かった。
赤い照明に照らされていても、いつもより青白く見えるし、眼の下に隈が出来ている。





「話がある、ドラコ。」



「まあ、まあ、セブルス。
クリスマスだ。あまり厳しくせず……。」



「我輩は寮監でね。どの程度厳しくするかは、我輩が決める事だ。
ついて来い、ドラコ。」





スネイプを先頭にマルフォイが付いていく。
人混みの中へと消えていく。





「すぐ戻るから、ナマエ、ルーナ───えーと───トイレ。」



『うん。』



「いいよ。」





けれどもハリーは中々戻って来なかった。
名前はルーナが、トレローニーにロットファングの陰謀話を続けるのを、ただ黙って聞いた。
そしてだんだんと眠くなってきた名前はルーナにおやすみの挨拶をして、一人グリフィンドール寮へと戻ってしまった。

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