05.-2


ハグリッドの小屋の前にはバックビークが繋がれていた。
四人が近付くと嘴を鳴らして頭を向ける。





「どうしましょう。
やっぱりちょっと恐くない?」



「いい加減にしろよ。あいつに乗っただろう?」




ロンがそう話している内にハリーが進み出る。
バックビークから目を離さないまま、瞬きもしないままお辞儀した。
数秒経ち、バックビークも身体を屈めて頭を下げる。





「元気かい?
あの人がいなくて寂しいか?でも、ここではハグリッドと一緒にだから大丈夫だろう?ン?」



「おい!」






大きな声が聞こえて、ハリー達はちょっと肩を跳ねさせた。
小屋の後ろから花柄のエプロンを掛けたハグリッドが、ファングを従えて現れる。
その大きな手にはじゃがいもの入った袋を下げていた。




「離れろ!指を食われるぞ───おっ、おめぇ達か。」





ファングがハーマイオニーとロンに飛び付いた。
耳を舐めようとじゃれついている。
ハグリッドは四人を見たがしかし、小屋に戻ってドアを閉めてしまった。





「ああ、どうしましょう!」



「心配しないで。」
ハリーはドアを強く叩いた。
「ハグリッド!開けてくれ。話がしたいんだ!
開けないなら戸を吹っ飛ばすぞ!」



「ハリー!
そんな事は絶対───」



「ああ、やってやる!
下がって───」





言葉が続かない内にドアが開いた。
現れたハグリッドは仁王立ちでハリーを睨んでいる。





「俺は先生だ!
先生だぞ、ポッター!俺の家の戸を壊すなんて脅すたぁ、よくも!」



「ごめんなさい。先生。」




ハリーは杖をしまいながら最後の言葉を強調した。
ハグリッドはショックを受けたようだった。





「お前が俺を、『先生』って呼ぶようになったのはいつからだ?」



「ハグリッドが僕を、『ポッター』って呼ぶようになったのはいつからだい?」



「ほー、利口なこった。
面白え。俺が一本取られたっちゅうわけか?よーし、入れ。この恩知らずの小童の……」





ブツブツ言いながらハグリッドは四人を中へ通した。
ハーマイオニーはビクビクと怯えているようだった。

四人はまるで慣れた事の如く大きな木のテーブルに着く。
四人が落ち着くと、ファングがハリーの膝に顔を載せた。





「そんで?
何のつもりだ?俺を可哀想だと思ったのか?俺が寂しいだろうと思ったのか?」



「違う。
僕達、会いたかったんだ。」



「ハグリッドがいなくて寂しかったわ!」



『何かあったのかって思って不安だった。』



「寂しかったって?不安だったって?」
フンと鼻を鳴らす。
「ああ、そうだろうよ。」





ブツブツ文句を言いながらハグリッドは、わざと足音を鳴らすかのように板張りの床を歩き回った。
それでも来客にもてなしをしてくれるらしい。
紅茶を淹れ、手製のロックケーキを四人分、それぞれの前に叩きつけた。
空腹らしいハリーはすぐにロックケーキを摘んだ。
それからハグリッドも席に着き、じゃがいもの皮を剥き始める。
指先まで削いでしまいそうな、乱暴な剥き方だった。





「ハグリッド。
私達、ほんとに『魔法生物飼育学』を続けたかったのよ。」





ハーマイオニーはハグリッドの表情を窺いながらそう言った。
だけどハグリッドはフンと鼻を鳴らすだけだった。





「ほんとよ!
でも、四人共、どうしても時間割にはまらなかったの!」



「ああ、そうだろうよ。」





その時ガボガボと妙な音が聞こえた。
四人が音の出所を探して辺りを見回すと、部屋の隅に置いてある大きな樽の中に、三十センチはある蛆虫が、ウネウネと白い身を捩らせていた。
ハーマイオニーは小さく悲鳴を上げ、ロンは椅子から飛び上がり、ハリーはロックケーキを皿に戻し、名前は固まった。





「ハグリッド、あれは何?」
ハリーが聞いた。



「幼虫のおっきいやつだ。」



「それで、育つと何になるの……?」
ロンは恐恐聞いた。



「こいつらは育たねえ。
アラゴグに食わせる為に取ったんだ。」




突然ハグリッドが泣き出した。
瞬時に目が真っ赤に染まり、ボロボロと落ちる涙がモジャモジャ髭に伝って絡まっている。





「ハグリッド!」





驚いたハーマイオニーは椅子から立ち上がり、蛆虫の樽を避けるのにテーブルを遠回りして、ハグリッドの肩に手を置いた。
隣にいた名前は長い腕を伸ばし、ハグリッドの震える背中を撫でる。





「どうしたの?」



「あいつの……事だ……」
ハグリッドはエプロンで涙を拭う。
「アラゴグ……あいつよ……死にかけちょる……この夏、具合が悪くなって、よくならねえ……あいつに、もしもの事が……俺はどうしたらいいんだか……俺達はなげーこと一緒だった……。」





ハーマイオニーと名前はハグリッドの肩や背中を撫でながら、掛ける言葉を探していた。
しかし探しても探しても見つからない。
特に名前は。





「何か───何か私達に出来る事があるかしら?」





ハーマイオニーの申し出にロンは残像を残す程首を振った。
けれどハーマイオニーはそれを無視していた。





「何もねえだろうよ、ハーマイオニー。
あのな、眷属のやつらがな……アラゴグの家族だ……あいつが病気だもんで、ちいとおかしくなっちょる……落ち着きがねえ……。」



「ああ、あいつらのそういうところを、ちょっと見たよな。」





ロンが呟いた。バジリスクでおかしくなった蜘蛛達の、四年前の話をしているのかもしれない。
ハグリッドはエプロンで鼻をかんだ。





「そんでも、ありがとよ、ハーマイオニー……そう言ってくれるだけで……。」





それからは殆どいつものハグリッドに戻ったようだった。
ハーマイオニーと名前は分からないが、アラゴグに幼虫を持って行く気などハリーとロンには更々無かった。
けれど四人にその気があるとハグリッドは思い込んだようで、その気持ちからいつものハグリッドに戻ったようだった。





「ウン、お前さん達の時間割に俺の授業を突っ込むのは難しかろうと、始めっから分かっちょった。」
ハグリッドは四人の紅茶を注ぎ足した。
「例え『逆転時計』を申し込んでもだ───。」



「それは出来なかったはずだわ。
この夏、私達が魔法省に行った時、『逆転時計』の在庫を全部壊してしまったの。『日刊予言者新聞』に書いてあったわ。」



「ンム、そんなら、
どうやったって、出来るはずは無かった……悪かったな。俺は……ほれ───俺はただ、アラゴグの事が心配で……そんで、もしグラブリー−プランク先生が教えとったらどうだったって、なんて考えっちまって───」





ハリー達はグラブリー-プランクがどんなに酷い先生だったか、嘘八百を並べ立てた。
(ご存知の通り名前は壊滅的に嘘が下手なので、じっと紅茶を見詰めながら相槌を打つだけだった)
ハリー達の行いは功を奏し、夕暮れ時になって小屋を後にする頃には、ハグリッドの機嫌は大分良くなっていた。





「腹減って死にそう。
しかも、今夜はスネイプの罰則がある。夕食をゆっくり食べていられないな……。」





城に戻って玄関ホールを通る。
そのまま大広間へ向かうと、ちょうどコーマック・マクラーゲンが入るところだった。
コーマック・マクラーゲンは入口の扉を入るのに二回やり直していた。
ロンは下品に笑い転げ、その後ふんぞり返って大広間へ入っていった。
その後ろでハリーがハーマイオニーの腕を掴み、大広間の入口側まで引き戻した。
名前は何事かと二人の顔を交互に見た。





「どうしたっていうの?」



「なら、言うけど。
マクラーゲンは、ほんとに『錯乱呪文』をかけられたみたいに見える。それに、あいつは君が座っていた場所のすぐ前に立っていた。」






ハーマイオニーの顔が赤くなった。
ハリーは次に名前を見た。
名前は目を逸らした。





「ええ、仕方が無いわ。私がやりました。
でも、あなたは聞いていないけど、あの人がロンやジニーの事をなんて貶してたか!兎に角、あの人は性格が悪いわ。キーパーになれなかった時のあの人の反応、見たわよね───あんな人はチームにいて欲しくないはずよ。」



「ああ、そうだと思う。でも、ハーマイオニー、それってずるくないか?だって、君は監督生、だろ?」



「まあ、やめてよ。」



「三人共、何やってんだ?」





大広間の入口からロンがひょっこり顔を出した。
怪訝そうにしている。





「何でもない。」





ハリーとハーマイオニーは同時にそう答え、名前は目を逸らしたままウンウン頷いた。
三人は急いでロンの後に続く。

グリフィンドールのテーブルに向かって数歩も歩かない内に、どこからともなくスラグホーンが現れた。
セイウチ髭の先端を捻りながら、機嫌良さそうににっこり笑っている。





「ハリー、ハリー、まさに会いたい人のお出ましだ!
夕食前に君を捕まえたかったんだ!今夜はここでなく、私の部屋で軽く一口どうかね?ちょっとしたパーティをやる。希望の星が数人だ。マクラーゲンも来るし、ザビニも、チャーミングなメリンダ・ボビンも来る───メリンダはもうお知り合いかね?家族が大きな薬問屋チェーン店を所有しているんだが───それに、勿論、是非Ms.グレンジャーとMr.ミョウジにもお越しいただければ、大変嬉しい。」





スラグホーンはハーマイオニーと名前に向けて軽く頭を下げた。
彼はロンにまるで反応を示さない。





「先生、伺えません。
スネイプ先生の罰則を受けるんです。」



『すみません、俺も伺えません。
やらなければならない事があるのです。』



「おやおや!
それはそれは。君達が来るのを当てにしていたんだよ、ハリー、Mr.ミョウジ!あ、それではセブルスに会って、事情を説明する他ないようだ。きっと罰則を延期するよう説得出来ると思うね。よし、三人とも、それでは、あとで!」





スラグホーンはまくしたてるだけまくしたてて大広間を出て行った。
まるで台風である。





「スネイプを説得するチャンスはゼロだ。
一度は延期さてるんだ。相手がダンブルドアだから、スネイプは延期したけど、他の人ならしないよ。」



「ああ、あなた達が来てくれたらいいのに。一人じゃ行きたくないわ!」



「一人じゃないと思うな。ジニーが多分呼ばれる。」




スラグホーンに空気扱いされたロンは大層不機嫌にそう言った。
夕食の間もロンの不機嫌は直らず黙りで、直す術も無く四人はそのままグリフィンドールの寮に戻る。
談話室は既に夕食を終えた生徒達で混雑していた。
なんとか空いているテーブル席を見付けて腰掛ける。
すぐさまネスが飛んできて名前の肩に止まる。
ロンは腕組みをして天井を睨み付け、ハーマイオニーは誰かが置きっぱなしにした「夕刊予言者新聞」に手を伸ばした。





「何か変わった事、ある?」
名前の肩に止まったネスの首元を掻きながらハリーが聞いた。



「特には……
あ、ねえ、ロン、あなたのお父さんがここに───ご無事だから大丈夫!」
ロンが驚いて振り向いたので、ハーマイオニーは慌てて付け加えた。
「お父さんがマルフォイの家に行ったって、そう書いてあるだけ。『死喰い人の家での、この二度目の家宅捜索は、何ら成果も上げなかった模様である。"偽の防衛術ならびに保護器具の発見ならびに没収局"のアーサー・ウィーズリー氏は、自分のチームの行動は、ある秘密の通報に基づいて行ったものであると語った』。」




「そうだ。僕の通報だ!
キングズ・クロスで、マルフォイの事を話したんだ。ボージンに何かを修理させたがっていた事!うーん、もしあいつの家に無いなら、その何だか分からない物を、ホグワーツに持ってきたに違いない───」



『でも、ハリー、シリウスさんから聞いた話では、持ち歩くには不向きの物だという口ぶりだった。』



「聞いてたの?」



『ちょっとだけ。』



「そうよ、それに、ハリー、どうやったらそんな事が出来る?
ここに着いた時、私達全員検査されたでしょ?」



「そうなの?
僕はされなかった!」



「ああ、そうね、確かにあなたは違うわ。遅れた事を忘れてた……あのね、フィルチが、私達が玄関ホールに入る時に、全員を『詮索センサー』で触ったの。闇の品物なら見付かっていたはずよ。事実、クラッブがミイラ首を没収されたのを知ってるわ。だからね、マルフォイは危険な物を持ち込めるはずがないの!」





ハリーは言葉に詰まった。
今度は名前がネスの首元を掻く。





「じゃあ、誰かが梟であいつに送ってきたんだ。
母親か誰か。」



『母親にも誰にも言うなって話じゃなかったか。』



「そうよ。それに梟も全部チェックされてます。
フィルチが、手当たり次第あちこち『詮索センサー』を突っ込みながら、そう言ってたわ。」





ハリーは何も返せなくなって、助けを求めるようにロンを見た。
ロンはラベンダー・ブラウンを見ていた。





「マルフォイが使った方法を、何か思いつか───?」



「ハリー、もうよせ。」



「いいか、スラグホーンが馬鹿らしいパーティに僕達を招待したのは、何も僕のせいじゃない。僕達が行きたかったわけじゃないんだ!」



「さーて、僕はどこのパーティにも呼ばれてないし。
寝室に行くよ。」





寝室に向かうにはまだ随分と早い時間だったが、ロンは男子寮に向かって行った。
誰もいない寝室でお守り作りをしようと企てていた名前は早々に諦めて鞄をあさり、この時間を予習にあてる事にしたようだ。





「ハリー?」





誰かがハリーの名を呼んだ。
教科書の上からチラと見ると、新しいチェイサーのデメルザ・ロビンズが立っていた。





「あなたに伝言があるわ。」



「スラグホーン先生から?」



「いいえ……スネイプ先生から。
今晩八時半に先生の部屋に罰則を受けにきなさいって───あの───パーティの招待がいくつあっても、ですって。それから、腐った『レタス食い虫』と、そうでない虫をより分ける仕事だとあなたに知らせるように言われたわ。魔法薬に使う為ですって。それから───それから、先生が仰るには、保護用手袋は持ってくる必要がないって。」



「そう。
有難う、デメルザ。」





ハリーは腹をくくった様子だった。


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