03.


翌日。
名前はいつも通り早朝のトレーニングを終えて、一旦寮に戻ってシャワーを浴びて制服に着替えると、さっさと大広間に向かった。
そこには既にハリーとロン、ハーマイオニーの姿があった。





『おはよう。』



「おはよう、ナマエ。」





口々に朝の挨拶を返してくれる。
その後はすぐに食事に戻ったが。

名前がゴブレットにミルクを注いでいる最中、ハリーとロンはハグリッドの話をハーマイオニーに話して聞かせた。





「だけど、私達が『魔法生物飼育学』を続けるなんて、ハグリッドったら、そんな事、考えられるはずがないじゃない!
だって、私達、いつそんな素振りを……あの……熱中ぶりを見せたかしら?」



「まさに、そこだよ。だろ?
授業で一番努力したのは僕達だけど、ハグリッドが好きだからだよ。だけどハグリッドは、僕達があんなバカバカしい学科を好きだと思い込んでいる。N・E・W・Tレベルで、あれを続けるやつがいると思うか?」





いつもながらロンははっきりそう言った。
それにハリーもハーマイオニーも、名前ですら答えなかった。
同学年で「魔法生物飼育学」を続ける生徒は一人としていないだろう。
数十分後に教職員テーブルからハグリッドが離れる時、嬉しそうに手を振ったのを見て、気まずさから四人は真っ直ぐ見詰め返す事も出来ず、曖昧に手を振り返しただけだった。

朝食が終わると生徒は皆長テーブルに留まって、マクゴナガルが時間割りを配るのを待った。
今学年は今までちょっと違う。まずN・E・W・Tの授業に必要とされるO・W・Lの合格点が取れているか、その確認から始まる。
ハーマイオニーも名前もあっさりと授業の継続が許され、確認が終わるとハーマイオニーはすぐに一時間目の古代ルーン文字の授業へ向かった。
席に着いたまま名前はハリーとロンを待つ。
次の番であるネビルは確認にちょっと時間が掛かっていた。





「薬草学。結構。
スプラウト先生は、あなたがO・W・Lで『優・O』を取って授業に戻る事をお喜びになるでしょう。それから『闇の魔術に対する防衛術』は、期待以上の『良・E』で資格があります。ただ、問題は『変身術』です。気の毒ですがロングボトム、『可・A』ではN・E・W・Tレベルを続けるには十分ではありません。授業についていけないだろうと思います。

そもそもどうして『変身術』を続けたいのですか?私は、あなたが特に授業を楽しんでいるという印象は受けた事がありませんが。」



「ばあちゃんが望んでいます。」



「フンッ。」
高い鼻を鳴らした。
「あなたのおばあさまは、どういう孫を持つべきかという考えでなく、あるがままの孫を誇るべきだと気付いてもいい頃です───特に魔法省での一件の後は。
残念ですが、ロングボトム、私はあなたをN・E・W・Tのクラスに入れる事は出来ません。ただ、『呪文学』では『良・E』を取っていますね───『呪文学』のN・E・W・Tを取ったらどうですか?」



「ばあちゃんが、『呪文学』は軟弱な選択だと思っています。」



「私からオーガスタに一筆入れて、思い出してもらいましょう。自分が『呪文学』のO・W・Lに落ちたからといって、学科そのものが必ずしも価値がないとは言えません。」





ネビルは丸顔をピンク色に染めて嬉しそうな表情を浮かべた。
それを見たマクゴナガルもちょっと微笑んで、真っ白な時間割を杖先で叩く。
新たな時間割が書かれた紙をネビルに手渡した。

次の順番はパーバティ・パチルだ。
パーバティがまず最初に質問したのは、「占い学」の教鞭をケンタウルスのフィレンツェがとるかどうかだった。
マクゴナガルは不満そうに細い眉を寄せた。





「今年は、トレローニー先生と二人でクラスを分担します。
六年生はトレローニー先生が担当なさいます。」





数分後。
少しばかり落ち込んだ様子で、パーバティは大広間から出て行った。
マクゴナガルは自分のノートを確かめながらハリーに向き直る。





「さあ、ポッター、ポッターっと……。

『呪文学』、『闇の魔術に対する防衛術』、『薬草学』、『変身術』……全て結構です。あなたの『変身術』の成績には、ポッター、私自身満足しています。大変満足です。さて、何故『魔法薬学』を続ける申し込みをしなかったのですか?闇祓いになるのがあなたの志だったと思いますが?」



「そうでした。でも、先生は僕に、O・W・Lで『優・O』を取らないと駄目だと仰いました。」



「確かに、スネイプ先生が、この学科を教えていらっしゃる間はそうでした。しかし、スラグホーン先生はO・W・Lで『良・E』の学生でみ、喜んでN・E・W・Tに受け入れます。『魔法薬』に進みたいですか?」



「はい。
でも、教科書も材料も、何も買っていません───」



「スラグホーン先生が、何か貸してくださると思います。

よろしい。ポッター、あなたの時間割です。ああ、ところで───グリフィンドールのクィディッチ・チームに、既に二十人の候補者が名前を連ねています。追っつけあなたにリストを渡しますから、時間がある時に選抜の日を決めれば良いでしょう。」





ロンの順番まで暫く待った。
ロンもハリーと同じ学科を許可され、ようやく三人は席を立つ。
時間割を眺めながらロンがにっこり笑っていた。





「どうだい。
僕達今が自由時間だぜ……それに休憩時間の後に自由時間……それと昼食の後……やったぜ!」





自由時間という事で、名前がやる事はただ一つ。
お守り作りの為に二人と分かれ、空き教室で作業を行った。
それから一時間。
「闇の魔術に対する防衛術」の教室へ向かう。
そこには既にハーマイオニーがいて、胸に重たそうな本を抱き抱えていた。
後ろからちょうどハリーとロンもやって来た。





「ルーン文字で宿題をいっぱい出されたの。
エッセイを四十センチ、翻訳が二つ、それにこれだけの本を水曜日までに読まなくちゃならないのよ!」



『大変だな。』
そう言う割には無表情だ。



「ご愁傷様。」
ロンは欠伸をしている。



「見てらっしゃい。」
二人をじとっと睨む。
「スネイプもきっと山程出すわよ。」




直後、教室のドアが開かれた。
中からスネイプが廊下に出てくると、生徒達はピタリとお喋りを止めた。





「中へ。」





短くそう言われ、生徒達は恐る恐る教室へと足を踏み入れる。
教室の中は薄暗かった。カーテンは閉め切られ、明かりと呼べるものは蝋燭くらいだ。
壁には怪我やねじ曲がった体の痛みに苦しむ絵画が飾られており、蝋燭の灯りに不気味に照らされている。
教室に生徒が全員入った事を確認してスネイプはドアを閉める。





「我輩はまだ教科書を出せとは頼んでおらん。」





教壇に向かいながらスネイプがそう言った。
ハーマイオニーと名前は教科書を鞄に戻した。





「我輩が話をする。十分傾聴するのだ。」





教壇に立ったスネイプは生徒達の顔を見回す。
特にハリーの時に長く留まったように思えた。





「我輩が思うに、これまで諸君はこの学科で五人の教師を持った。

当然、こうした教師達は、それぞれ自分なりの方法と好みを持っていた。そうした混乱にも関わらず、かくも多くの諸君が辛くもこの学科のO・W・L合格点を取った事に、我輩は驚いておる。N・E・W・Tはそれよりずっと高度であるからして、諸君が全員それについてくるような事があれば、我輩は更に驚くであろう。」




スネイプは教壇から離れ、教室の端の通路を歩き始めた。
端っこの席に着く名前は少し体を強張らせる。





「『闇の魔術』は、

多種多様、千変万化、流動的にして永遠なるものだ。それと戦うという事は、多くの頭を持つ怪物と戦うに等しい。首を一つ切り落としても別の首が、しかも前より獰猛で賢い首が生えてくる。諸君の戦いの相手は、固定出来ず、変化し、破壊不能なものだ。」




スネイプは歌うようにスラスラそう言った。
危険を知らせるにしては随分と猫なで声だ。





「諸君の防衛術は、

それ故、諸君は破ろうとする相手の術と同じく、柔軟にして創意的でなければならぬ。これらの絵は───」
壁に掛けられた何枚かの絵を指差す。
「術にかかった者達がどうなるかを正しく表現している。例えば『磔の呪文』の苦しみ、『吸魂鬼のキス』の感覚、『亡者』の攻撃を挑発した者。」



「それじゃ、『亡者』が目撃されたんですか?
間違いないんですか?『あの人』がそれを使っているんですか?」
パーバティ・パチルが尋ねた。



「『闇の帝王』は過去に『亡者』を使った。
となれば、再びそれを使うかも知れぬと想定するのが賢明というものだ。さて……」





黒いマントを翻し、スネイプは教壇に向かって歩を進めた。
生徒達の皆がそれを目で追う。





「……諸君は、我輩の見るところ、無言呪文の使用に関してはずぶの素人だ。無言呪文の利点は何か?」





当然一番にハーマイオニーの手が挙がる。
他の生徒は手を挙げず、スネイプは不服そうにハーマイオニーを見た。





「それでは───Ms.グレンジャー?」



「此方がどんな魔法をかけようとしているかについて、敵対者に何の警告も発しない事です。
それが、一瞬の先手を取るという利点になります。」



「『基本呪文集・六学年用』と、一字一句違わぬ丸写しの答えだ。
しかし、概ね正解だ。左様。呪文を声高に唱える事なく魔法を使う段階に進んだ者は、呪文をかける際、驚きという要素の利点を得る。言うまでもなく、全ての魔法使いが使える術ではない。集中力と意思力の問題であり、こうした力は、諸君の何人かに───
欠如している。」





スネイプはどこか一点を睨み付けた。
視線を辿ると、そこにいたのはハリーだった。
ハリーもスネイプを睨み返している。
黙りの時間が数秒経ち、やがてゆっくりと、スネイプは視線を外した。





「これから諸君は、
二人一組になる。一人が無言で相手に呪いをかけようとする。相手も同じく無言でその呪いを撥ね返そうとする。始めたまえ。」





またしても不幸な事に教室に集まった生徒は奇数で、名前は一人余ってしまった。
そこでハーマイオニーとネビルとで、交代しつつ行う事となった。

いつぞや名前は何度か無言呪文を成功させた例があった。だからといってそれは追い詰められた時であって、授業中の今はそこまで神経が張り詰めていない。中々上手く出来るはずもない。
他の生徒も経験や練習をした事があるはずも無く、つい囁いて呪文を唱えてしまったり、呪文を唱えそうになるのを堪えて唇を結んでいた。

そんな時、ネビルの呟く「くらげ足の呪い」を、ハーマイオニーが無言で撥ね返す事に成功した。
けれどもスネイプは知らんぷりで、生徒達が練習する合間をすり抜けて見て回っている。
当然のようにハリーとロンの練習する所で立ち止まり、暫くその光景を眺めていた。
ハーマイオニーはハラハラと、名前は無表情にそちらに目だけを遣った。





「悲劇的だ、ウィーズリー。
どれ───我輩が手本を───」





素早くスネイプが杖を抜く。
その行動に危機感を覚えたのだろう、咄嗟にハリーは「盾の呪文」を大声で叫んだ。
それはあまりに強烈で、スネイプは机にぶつかった。

教室にいる生徒らは練習を止めて二人の方へ目を向ける。
スネイプの顔にははっきり怒りの表情が浮かんでいた。いつも以上に眉間の皺が深い。




「我輩が無言呪文を練習するように言ったのを、憶えているのか、ポッター?」



「はい。」



「はい、先生。」



「僕に『先生』なんて敬語をつけていただく必要はありません。先生。」




ハーマイオニーが驚いて息を止める。他の数人の生徒も、ハーマイオニーと同じ反応を示した。
けれどスネイプの後ろでは、ロン、ディーン、シェーマスがニヤッと笑った。





「罰則。土曜の夜。我輩の部屋。
何人たりとも、我輩に向かって生意気な態度は許さんぞ、ポッター……たとえ『選ばれし者』であってもだ。」





それから練習が再開されたが、スネイプは怒り心頭で、生徒は気になって先程以上に緊張しており、上手くいかないまま終業のベルが鳴った。
教室を出て、もうスネイプの地獄耳に届かないであろう所まで来ると、ロンが嬉しそうに口を開いた。





「あれはよかったぜ、ハリー!」



「あんな事言うべきじゃなかったわ。
どうして言ったの?」



『確かに、いつものハリーだったら、あそこまで言わずに我慢していた。』



「あいつは僕に呪いをかけようとしたんだ。もし気付いてなかったのなら言うけど!
僕は『閉心術』の授業で、そういうのを嫌というほど経験したんだ!たまには他のモルモットを使ったらいいじゃないか?大体ダンブルドアは何をやってるんだ?あいつに『防衛術』を教えさせるなんて!あいつが『闇の魔術』の事をどんなふうに話すか聞いたか?あいつは『闇の魔術』に恋してるんだ!『千変万化、破壊不能』とか何とか───」



「でも、
私は、何だかあなたみたいな事を言ってるなと思ったわ。」



「僕みたいな?」



「ええ。ヴォルデモートと対決するのはどんな感じかって、私達に話してくれた時だけど。あなたはこう言ったわ。呪文をごっそり覚えるのとは違う、たった一人で、自分の頭と肝っ玉だけしかないんだって───それ、スネイプが言っていた事じゃない?結局は勇気と素早い思考だって事。」





ハーマイオニーの言葉を聞いて、ハリーの顔から悪意が消えた。





「ハリー、よう、ハリー!」




名前を呼ばれてハリーは振り返る。
名前達もつられて振り返った。
そこにはジャック・スローパーがいた。
彼は前年度のグリフィンドール・クィディッチ・チームのビーターの一人である。
スローパーは持っていた羊皮紙の巻紙をハリーに手渡した。





「君宛だ。
おい、君が新しいキャプテンだって聞いたけど、選抜はいつだ?」



「まだはっきりしない。
知らせるよ。」



「ああ、そうかぁ。今週の週末だといいなと思ったんだけど───」




まだ話しているスローパーを置いて、ハリーは羊皮紙を開きながら、早足でその場を離れた。
名前達もついていく。
人気の無いところまで来ると、名前達三人はハリーの手紙を覗き込んだ。




───親愛なるハリー
土曜日に個人授業を始めたいと思う。午後八時にわしの部屋へお越し願いたい。
今学期最初の一日を、君が楽しく過ごしている事を願っておる。
敬具
アルバス・ダンブルドア
追伸 わしは「ペロペロ酸飴」が好きじゃ。───



「『ペロペロ酸飴』が好きだって?」



「校長室の外にいる、ガーゴイルを通過する為の合言葉なんだ。
ヘンッ!スネイプは面白くないぞ……僕の罰則がふいになる!」





休憩時間はお守り作りに専念したい名前は───勿論宿題や勉強もこなす必要があったが───ハリー達から一人離れた。
一人でいる事を望むのは今回が初めてではないし、以前からではあったが、三人はちょっと訝しんで名前を見送った。





「ナマエのやつ、ガールフレンドでも出来たのかな?」



「それはないわよ。」



「随分はっきり言うじゃないか。」



「それは、だって、私───そんな話聞いた事が無いもの。」





まさかスネイプに恋してるから有り得ないなどと、二人に言えるはずもない。
ハーマイオニーは動揺を隠してそう言った。

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