ネビルの失敗作


魔法薬の授業。
ネビルは次の材料を手に取る為に、机の端に手を伸ばした。
だが手が届かない。ネビルは席を立った。
立てば大鍋から発せられる、蒸気のような湯気が皮膚を襲い、とてもじゃないが手を伸ばすような気になれなかった。
仕方ない、少し体を横にずらそう。
───これだから僕は……
自身の手順の悪さに、ネビルは小さな溜め息を吐きながら、一歩足を横に踏み出す。
ガクン。途端に体は、踏み出した足の方向へ倒れた。
一瞬の事だった。ネビルの手が空中を薙ぎ払ったのだ。

ガタン!

その場で一回転したネビルは、背中から壁にぶつかった。
後頭部を壁に打ち付け、一瞬何が何だか分からなくなる。





「ナマエ!」





良く通るこの声は、ハーマイオニーだ。
ハーマイオニーの声が教室に響き渡り、ネビルは点滅する視界のまま、声の発生源である横へと振り向いた。
そこにあったのは大鍋である。
すぐ後ろで作業をしていた名前の姿はどこにもない。
だが作業をしていた痕跡はある。
クツクツと煮立つ大鍋が机の上に置き去りだ。
忽然と、名前の姿だけが消えている。




「ねえ、ナマエ───?」





名前の隣で作業をしていたハーマイオニーが、心配と恐怖半々、恐る恐る机の端から、壁際の通路を覗き込む。
シュワシュワと炭酸が弾けるような音。
砂糖が焦げたような甘ったるく焦げ臭い匂い。
茶色く樹液のようなネバついた液に包まれた、名前のものであろう黒いローブが丸まっていた。















『……。』





夢うつつ、眩んだ頭で考える。
まどろみに体を預ける心地良さ。
その一方で、起きなければと急かす心の内。
ともすれば眠りに落ちてしまいそうなのを堪え、必死に目を開けようと努力する。
くっついていようと抗う瞼を引き剥がそうとしていると、耳に飛び込んできたのは女性の声だ。





「ああ、スネイプ先生。」



「様態は。」



「変わっていません。眠ったままです。」





何故マダム・ポンフリーの声とスネイプの声が聞こえるのか。
ここがどこなのか。今が何時なのか。
頭が冴えてきたところで、シャッというカーテンが開かれる、レールの音が聞こえた。
それから首筋や手首を触られる。少し固い大きなこの手は、おそらくスネイプだ。
その手が擽ったくて身を捩ると、手は少しだけ止まって、今度は慎重な手付きへと変わった。





「身長や歯の状態を見るに、おそらく三歳頃でしょう。」



「全くの三歳だと。」



「ええ、一部が実年齢のまま、という事はありませんでした。ただ眠っているので、記憶があるの無いのかは、まだ分かっていません。」





一体何の話をしているのか。
名前の頭はだんだんと冴えてきた。眠気などとうに吹き飛んでいる。
恐る恐る瞼を開く。そこには顔を覗き込むスネイプの姿があった。
あまりの近さに身を引いてしまい、枕に頭が埋まった。





「いけませんよ、スネイプ先生。驚いています。」



「……。」



「ミョウジ、私達が分かりますか?」





マダム・ポンフリーが身を乗り出して聞いてきた。
名前は頷いて応えた。





「ああ、よかった。記憶はあるようですね。」



「そのようですな。」



「どこか痛むところはありますか?」



『ありません。』





声が高い。小さな子どものような声だ。
思わず喉を抑えるが、その手にも違和感を覚える。
恐る恐る目の前に持ってくると、そこにあったのはふくふくした、まさにもみじの手だった。





「他に異常は無いようですし、マクゴナガル先生へミョウジの事を伝えるべきでしょう。スネイプ先生、ミョウジと一緒に行ってきてください。」



「……。」





スネイプは眉間の皺を更に深めた。
名前は咄嗟に口を開く。





『あの、マクゴナガルせんせいのところになら、おれひとりで、だいじょうぶです。』





上手く話せない。舌っ足らずになってしまう。
スネイプはフンと鼻を鳴らした。





「それで、教授に何を伝えるのかね。」



『……。』



「知らぬくせに口を開くな、ミョウジ。
さあ、行くぞ。ついてきたまえ。」





言って、スネイプはカーテンの外へ出て行ってしまった。
名前は慌てて身を起こし、ベッドから下りようとする。しかし。




『……。』





予想外にベッドが高い。
床においてある大きなスリッパが、あんなにも遠い。





「さあさあ、ミョウジ。ベッドから下りましょうね。スネイプ先生!」





マダム・ポンフリーは名前の脇を抱えて床へ下ろすと、カーテンの向こうにいるスネイプへ叫んだ。
仏頂面のスネイプが顔を覗かせる。





「スネイプ先生、ミョウジは体が縮んでいるのです。普段なら一人で出来る事が、今は出来ないのですから、誰かが手助けしなければなりません。」





スネイプは唸るような返事をして、足元にいる名前を見下ろした。
膝丈ほどの名前は小さく誂えた制服とローブを身に着け、ブカブカのスリッパを履いている。





「行くぞ。」





呟くような声の後、スネイプは一歩を踏み出した。
その一歩は名前の三歩等しく、医務室の扉へ行くまでにあっと言う間に距離が開く。
しかも荘厳な石畳の床が災いし、とかく足をとられがちだ。
名前は医務室の扉へ辿り着くまでに何度も転んだ。





「……。」





それを見てさすがに不憫に思ったのか、それとも歩くのが遅くて苛々したのか、分からないが、スネイプは医務室を出ると、名前の手を掴み取った。
それに歩幅を合わせてゆっくりと歩いている。
石畳に引っ掛かってつんのめっても、スネイプが支えてくれるので転ぶことは無い。





『ありがとうございます。』



「なんの事やら、さっぱり分かりませんな。」





この時間は授業中なのか、辺りは静かだ。
腕時計を確認しようとしたが無い。
恐らく、元のサイズが大きくて、巻いても外れてしまうのだろう。
石畳の廊下に二人分だけの足音が響いている。





コンコンコン



「どうぞ。」





マクゴナガルの部屋に辿り着いた。
名前とスネイプは同時に入ったが、マクゴナガルの視線は手を繋いだ部分に釘付けだ。





「まあ、一体……何があったのです。」



「ネビル・ロングボトムの薬が失敗したのですよ、そしてこの通り。Mr.ミョウジは小さくなってしまった。」



「小さくなってしまった?」





マクゴナガルはまじまじ名前を見詰めた。





「他に異常は?」



「無いようですな、今のところ。しかしこの体ではどちらにせよ、戻るまで授業は控えた方が良いでしょうう。」



「そうでしょうね。しかし……いつ戻るのか、分かりませんか。」



「残念ながら分かりませんな。何しろ失敗作なもので。」





マクゴナガルへの報告を終え、預けられるかと思いきや、名前はハグリッドのところへ届けられる事となった。
図書館へ行くという案も出たが、手が届かないだろうと二人が考えたからだ。
それに人目があった方が良い。という事で名前はマクゴナガルの手に引かれ、ハグリッドの小屋までやって来きた。





コンコンコン



「誰だ。」



「私です、ハグリッド。」



「マクゴナガル先生!ちょいとお待ちくだせえ。」





ドタバタ走る音が聞こえたと思うと、がちゃがちゃ鍵を開ける。





「どうぞお入りくだせえ。」



「ありがとう。さあ、」





マクゴナガルは名前の手を引いて招き入れる。
小屋の床板が浮いたりへこんだりしているからだ。
マクゴナガルが招き入れた名前注目しながら、ハグリッドは口を開いた。





「しかし、いってえどうしてここに?」



「あなたがこの子の友人だからです。」



「へえ?」





ハグリッドはまじまじ名前を見詰めた。
しかし誰かは分からなかったようだ。





「この子はミョウジです。ナマエ・ミョウジ。」



「ナマエですって?」





ハグリッドは目を丸くさせ、腰を屈めてじーっと名前を見詰めた。





「ううむ……確かに目元が似ておる。」



「魔法薬に失敗し、このような姿になったのです。」



「ナマエが?」



「失敗したのはネビル・ロングボトムです。その薬が誤ってミョウジに降り掛かったそうです。」



「なんだ、そういうことですかい。それで、どうしてここへ?」



「お昼時までミョウジを見ていてもらえませんか?意識は実年齢のままですが、体は三才程のようで、誰かが見ていないと危険があります。」



「へえ、そういう事ならお任せくだせえ。俺とファングでしっかり見てます。」



「ありがとう、ハグリッド。それでは私は城へ戻ります。夕方になりましたら、ミョウジを大広間へ連れて行ってあげてください。」



「分かりやした。」





そう言ってマクゴナガルは小屋を出ていった。
その場には名前とハグリッド、ファングが残される。





「さて。ナマエ、何がしたい?遊べるようなもんはねえが……。」



『……。』





名前はファングにベロベロ顔を舐められ返事が出来無い。





「うーむ……そうだな、畑仕事やってみっか?水やりくれえなら出来るはずだ。」





「こっちゃこい」とハグリッドに促され、ファングに絡まれながらも小屋の外に出る。
畑には大きな南瓜が成っていて、葉っぱも身も、名前より大きかった。





「さあ、このジョウロを使えや。」





水がタップリ入ったジョウロを受け取る。
重くて、引き摺りながら持っていくしかなかったが、ハグリッドは怒らなかった。むしろニコニコしている。
南瓜の支柱がある辺りに来ると、ジョウロを傾けて水をやった。





「よーし、上手いぞ!ナマエ!さあさあ、他の南瓜にも水をやってくれ!」



『……。』





体は三才児でも意識は実年齢だと忘れているような扱いだ。
その後も水遣りをし、それが終わればファングと追いかけっこ(追い掛け回され)、クタクタになったところで小屋に戻り、岩のように固いロックケーキを食べさせてくれた。





「さあて、そろそろ晩飯の時間だな。ほれ、連れてってやる。」





そう言ってハグリッドは大きな掌で名前の尻を持ち上げて乗せ、ずんずん歩き始めた。確かにこのやり方が安全だし早いのだが、不安定で仕方ない。名前は思わずハグリッドのモジャモジャ鬚掴んだが、ハグリッドはニコニコするばかりでちっとも痛がる素振りを見せなかった。





「ナマエ、ハリーと一緒がええか?うん、勿論、友達と一緒がいいに決まっちょる。」





一人合点するとハグリッドは、周りの目を気にも止めず、大広間をずんずん進み、ハリー達のところまでやって来た。
空いているハーマイオニーの隣へ、名前を優しく下ろす。





「やあ、ハグリッド。」



「おう、ハリー。元気か?」



「うん。ねえ、どうしてハグリッドとナマエが一緒なの?」



「頼まれたからだ。さあ、ナマエ、たんと食って大きくなれや。」





がしがし頭を撫でるので、名前の体は振り子のように左右に揺れる。
撫でて満足するとハグリッドは大広間を出て行った。
残されたのはいつもの四人組だ。





「よお!聞いたぜ。」



「子どもになったんだって?」





四人組だけではなかった。
フレッドとジョージも現れた。





「んまーっ、可愛い坊やだこと!」



「本当ねえ。おーい、コリン!写真撮ってくれ!」




二人の膝に乗せられてそれぞれ写真を撮られた。
それも何枚もバシャバシャとだ。





「ちょっと!ナマエは見世物じゃないのよ!」





ハーマイオニーは怒ったが、二人は聞かなかった。





「しかし本当に小さいなあ。」
フレッドは名前の手を揉んだ。



「手足が掌にすっぽり収まるぞ。」
ジョージは名前の足を握った。



「ネビル、お前才能あるぜ。」



「俺達と一緒に悪戯グッズ開発するか?」





背後に幽霊のようにネビルが立っていた。
顔も真っ青だ。





「ナマエ、ごめん。本当にごめん。」



『だいじょうぶ。きにしないで。』





声変わり前の幼い声に舌っ足らずな言葉。
ハリー達はオーッと感動した。





「本当にごめんね、ナマエ……僕、元に戻れる方法を調べるよ。それでももし、もし駄目で、もし君が元に戻らなかったら、僕、責任もって君を育てるから!」





そう言ってネビルは大広間を出て行った。図書室にでも行ったのだろう。
名前はハーマイオニーの手によって取り戻され、丸椅子の上へ座らせられた。





『……。』





しかし今の名前にとっては全てが大きい。
座っている丸椅子は床に足が届かないし、丸椅子に立たないと長テーブルに届かない。
ミルクの入ったゴブレットも大きくて、両手で支えてはいるが酷く危なげだ。
ついにハーマイオニーが名前を手伝い始めた。
パンもサラダもソーセージもスクランブルエッグもバランスよく装い、テーブル端ぎりぎりまで名前の近くに寄せる。
名前にはどれも大きくて、大きな口で食べなければならなかった。
一口で頬をいっぱいにして一生懸命噛み砕く。その様子をじーっと見るハリー達。
小さな子どもが一生懸命ご飯を食べる様子は、眺めていて癒やされるらしかった。
好奇心で眺めていた周囲の生徒も、今や朗らかな微笑みを称えて見詰めている。





『ごちそうさまでした。』



「あら、何だか……」



「うん。ナマエ、いつもより食べているよ。」



「分かった。子どもの頃食いしん坊だったから、今はあんなに大きく成長したんだ。」





三人はしみじみそう語り、自身の食事へと戻る。
一方名前は丸椅子をよじよじ下りた。





「どうしたの?」
ハーマイオニーが素早く聞いた。



『としょしつへいく。なにかわかるかもしれない。』



「でも今のナマエが行ったって、きっと本に手が届かないぜ。」



『とどくはんいでしらべる。』



「そっか。その前に、名前……」



『なに。』



「抱っこしてみてもいい?」





ハリーはもじもじ聞いた。
しかもハリーだけではない。ロンとハーマイオニーもチラチラ様子を窺っている。





『いいよ。』



「やったあ!それじゃあナマエ、こっち来て。」



『……。』



「うわあ、軽い!」



「小さいなあ。」





何が楽しいのか名前には分からないが、三人はニコニコ満面の笑みで抱っこをした。
開放されたのは数十分経った後で、ハリー達が再び食事に戻った事で、名前はようやく大広間を出られた。
スリッパをペタペタさでながら石畳の廊下を歩く。
大勢の生徒に注目されるものだから、名前は尚更体を縮こまらせる。
全てのものが大きく感じる。大冒険だ。
そこで、さて。問題が起きた。
図書室へ向かう為には階段を使わなければならない。そして今の名前に階段は鬼門だ。
階段の一段一段が高いのだ。





「おっと。」





階段の前で立ち止まっていると背中を押された。
振り向いて顔を上げる。
そこにいたのはドラコ・マルフォイだった。
つんと顎を上げて口角を上げている。





「小さくて気が付かなかったよ。お前、ナマエ・ミョウジだろう?」





「魔法薬」ではスリザリンと共に授業を受けている。
名前の事情を知らないはずがないだろう。





「こんなところで立ち止まっていると蹴り飛ばされるぞ。何せ今はおチビちゃんだからな。」



『ごめん。そのとおりだね。』





名前は決心したようだった。両手で階段の角を掴み、体を持ち上げてよじ登る。
折角の服が汚れてしまうが、背に腹は変えられない。





「ハッハッ!何をやってるんだ、ナマエ・ミョウジ?」





すぐ後ろでドラコが笑っているが、名前は止まらない。
一段、また一段と階段をよじ登る。
四、五段上った頃だろうか。
不意に笑い声が途切れ、後ろから追いかける様に足音が近付いてきた。
と思うと急に名前の体は宙に浮き、そのまま踊り場まで連れて来られる。





「どこへ行くんだ。」



『としょしつ……。』



「……。」





ドラコは名前を横脇に抱えたまま、図書室のある階層にまで連れて来てくれた。
階段の手前で下ろされる。
見上げると、口をひん曲げた不機嫌そうなドラコが腕組していた。





「お前は馬鹿だ、ナマエ・ミョウジ。側にいるやつを使えばいいものも、何で使わない?」



『てまだろう。』



「ああ手間さ。それでも使えるやつは使うものだ。」





ドラコはそう言ってスタスタ階段を上ってしまった。急いで「ありがとう」とお礼を伝えたが、聞こえているかまでは分からない。
名前は再びスリッパをペタペタさせて、図書室へ向かい歩き始めた。

図書室へ辿り着くのも一苦労だ。入ると、塗壁のような本棚が名前を出迎える。
食事時を少し過ぎた今の時間帯、あまり出入りする生徒はいないようだった。





『……。』





本を調べていく。とはいえ見えるのは精々頭上、よくて一メートル。タイトルも読めない。
それでも名前は図書室を歩き続け、目的の本を探す。探しているのは魔法薬関係だ。





「何か探しているのかい?」





背後から声が掛けられた。それが名前に向けられたものかどうかは分からないが、名前は頭だけ振り返る。
するとそこには、脇に本を抱えたセドリックが立っていた。





「まあ今の様子だと、元に戻る方法、もしくはそのヒントってところかな。」



『うん。』
頷く。



「噂は聞いていたけれど、ナマエ、本当に小さくなったんだね。」





セドリックは名前の前で腰を屈めて、じーっと名前を見詰めた。





『どうしたのです。』
首を傾げる。



「うわっ、声も子どもの声だ……。いや、ごめん。つい。……いつもの君と全く違うものだから。」



『きにしないでください。』



「ありがとう。それで、……本は探せそうかい?」



『はしごがあれば。』



「そんなものはないよ。代わりといったらあれだけど……よっと。」





腰を屈めたまま手探りに本をテーブルに置いて、セドリックは名前の股に頭を突っ込んだ。
唖然としているうちに立ち上がられ、視界が一気に広がる。俗に言う肩車だ。
肩車されると当然視界は高くなり、普段見ている光景と同じになった。





「これなら探せるんじゃないか?」



『うん……ありがとうございます。』



「気にしないで。それにしても、子どもって軽いんだなあ……。」





肩車のままセドリックに指示し、てくてくと図書室を歩き回る。
そこで薬草のコーナーだろうか、ネビルが片っ端から本を引き抜いては読んでいた。
何も知らないセドリックが近付いていくと、ネビルはさすがに肩車という異様な光景に意識をとられ、本を読むのを止めた。





「ナマエ……」



『ネビル、なにかみつかった。』
首を傾げる。



首を振った。
「ううん。ごめんね、僕……責任もって絶対に見付けるから……。」



「ネビルと言ったね。君がナマエを子どもにさせてしまったのかい?」



「う、うん……。」



「大丈夫、そんなに深刻に捉える事は無いよ。聞いた話だと、ナマエが子どもになってしまったのは、「魔法薬」授業中の失敗だろう?大した量ではないし、今すぐ何とかしようとしないでも、時間が解決してくれるさ。
それに、頼りになるマダム・ポンフリーやスネイプ先生がいらっしゃる事だしね。」



「……。うん……ありがとう……。」





とはいえ早く解決出来るのであればしたいのが本音である。
ネビルとセドリックと名前は、協力して元に戻るヒントを探した。
そして結局、解決策は見付からなかった。
三人は図書室を出て、名前は肩車から下ろされた。





「二人とも、ありがとう。僕のせいなのに協力してくれて……。」



『きにしないで、ネビル。』



「そうだよ、落ち込む事はないさ、ネビル。まだ見ていない本は山程あるし、人手があった方がいいだろう。」



「よろしいかね。」





低い声が乱入してきた。
癖のあるこの声は、勿論スネイプの声だ。
いつのまにか近くまでやって来たらしい。
ネビルは数歩後退った。
スネイプは微塵も気にしていない。





「ミョウジ。」



『はい。』



「解毒薬が完成した。来てもらおう。」





スネイプはむんずと名前の手を掴む。
移動中、好奇心と奇異の目でジロジロ見られたが、さもありなん。名前もスネイプも気にせずにいた。
そのまま引き摺られるように地下牢教室へと連行された。
一日の授業が終わった教室には勿論誰かいるはずもない。
小さな灯りが均等の間隔をもって灯されているだけだったので、辺りは薄暗い。
そんな中スネイプは名前の手を引っ張って、奥の方、スネイプの私室へと促した。
そもそも私室でもあるし、今の名前にはドアノブに手が届かないので、スネイプがドアを開く。
そして名前を室内へ誘った。





『ク、……』





そこにはネスがいた。思わず名前を呼びそうになる。
黒いソファに佇んでいたネスは、名前に襲い掛かるように舞い降りて、途中で変身を解いた。
元に戻ったクィレルが名前をぎゅうと抱き締める。





「心配しましたよ、授業中に事故にあったと聞いたので……」



「大袈裟だ。」





スネイプはフンと鼻を鳴らしてドアを閉めた。
枯れ草のような匂いがこもった部屋だ。おそらく生活臭と薬品の匂いが混ざっているのだろう。





『どうしてクィレルさんがここに、』



「君の忠実なペットは主の事故を聞くやいなや我輩の部屋に入り浸り解毒薬を作れと言ってきかん。なので優先的に作らせてもらったとも、食事も明日の授業の準備も後回しにしてだ。」



『……すみません。』



「君が謝る事はない。」





言って、スネイプはじろりとクィレルを見た。
クィレルは名前を見ていた。





「体が小さくなった事以外に問題は無いのですか?」



「正常だと説明したはずだがね。」



「それは本人に聞いたのですか?」



「……。」



『なんともないです。』





言葉に詰まって名前を睨むスネイプ。
名前は即座にそう答えた。





「その言葉を聞いて安心しました。それでセブルス、解毒薬は用意出来ているのですよね。」



「君が散々急かすのでね、この通り。」





スネイプは自身の机に近寄り、いくつも置いてあるフラスコや瓶の中から、コルク栓のされた小さな瓶を摘み上げた。
その液体は少しとろみがある、無色透明のものだった。





「完成している。」





スネイプは滑るように移動して、名前の手に解毒薬を持たせた。
小さな名前の手にそれは大きく、思っていたよりも量があり、菓子用の酒類程のサイズだった。





『ありがとうございます。』





言って、名前はコルク栓を引き抜いた。
それをスネイプは押し留める。





「おっと、今すぐ飲むのは止めた方がいい。急激な成長を伴うのでな、当然痛みも伴う。だから君は最初気を失っていたのだ。寝る前に飲むのがよかろう。」





そう言うと、スネイプは名前を自身のベッドへ促した。
さすがの名前も驚いたらしい。ちょっと躊躇して、それからベッドへ近寄る。





『スネイプせんせいのベッドですよね。』



「その通り。」



『おれがつかってよろしいのですか。』



「そうでなければ連れて来ていない。」



「セブルスは君が解毒薬を持って無事に寮へ辿り着けるか心配なのですよ。」



「思い違いをさせるような事を言うな、クィレル。」



「あなたは言葉が足りないから付け加えているだけです。」



「余計な事をするなと言えば伝わるかね。」



「余計な事をしたとは思っていません。」



「それは君の自己満足だ、クィレル。」



『あの、のんでいいですか。』





間に挟まれた名前は耐え切れず声を発した。
ヒートアップしていく大人達が怖かったからである。
大人達はハッとして名前を見下ろし、どうした事か、そのまま引き下がった。
見た目だけだが小さな子どもの手前、喧嘩するのは大人気ないと考えるだけの冷静さはまだ持ち合わせていたようだ。





「いいですね、セブルス。」



「……。」





頷くスネイプを見てから、クィレルは名前を抱き上げ、ベッドの上へ乗せた。
改めて名前は瓶のコルク栓を引き抜く。
強烈な金属臭が鼻を突き、名前は小さく顔を引いた。
それでも飲まなければならない。
ぐっと飲み干し、一瞬。ほんの一瞬で、その後の記憶は途切れた。スネイプの言った「急激な成長」のせいで気を失ったのだろう。
それから数時間。時間の分からない地下牢で名前は目覚めた。
夜中の間に戻ったらしい。
目の前には見慣れた大きな掌がある。
名前は安堵の息を吐いたのだった。














ネビルの失敗作の薬を浴びてしまい幼児化してしまう話でした。
リクエストしてくださった方、有難うございました。
大変お待たせしてしまい申し訳ないです。
楽しんでいただけたら幸いです。

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