23.


「それで、ここからどこ行くの?」





ぼんやりとルーナは聞いた。
ハリーはセストラルを一撫ですると、ルーナへ振り返る。





「こっち。」





ハリーが向かったのは壊れた電話ボックスだ。
ドアを開け、皆を促す。





「入れよ。早く!」





ロン、ジニーが中へ入る。
続いてハーマイオニー、ネビル、ルーナ、名前が入り、最後にハリーが体を押し込んだ。
中は呼吸すらままならないすし詰め状態だ。




「受話器に一番近い人、ダイヤルして! 62442!」





ハリーが叫び、ロンが手を伸ばした。
ダイヤルの数字を回す音が聞こえる。
その音が止んだ後、電話ボックス内に女性の声が響いた。





「魔法省へようこそ。お名前とご用件を仰ってください。」



「ハリー・ポッター、ロン・ウィーズリー、ハーマイオニー・グレンジャー、ナマエ・ミョウジ、
ジニー・ウィーズリー、ネビル・ロングボトム、ルーナ・ラブグッド……ある人を助けにきました。魔法省が先に助けてくれるなら別ですが!」



「ありがとうございます。
外来の方はバッジをお取りになり、ローブの胸にお着けください。」





ジャラジャラと金属が擦れ合う音が響く。
首を捻って伸ばして見ると、コイン返却口の受け皿に七個のバッジが出ていた。
ハーマイオニーがいっぺんに全部掴み取ってハリーに渡した。





「魔法省への外来の方は、杖を登録いたしますので、
守衛室にてセキュリティ・チェックを受けてください。守衛室はアトリウムの一番奥にございます。」



「わかった!
さあ、早く出発出来ませんか?」





地面が揺れた。地震かと思われたが、窓越しに見える景色に変化はない。揺れているのは電話ボックスだけだった。
ガタガタと危なげに揺れながら、電話ボックスは地中奥深くへと沈み込んでいく。
闇の中ガリガリと何かを削る音が響き、その音は一行を不安にさせた。
やがて足元に光がもれ出て、面々の表情を疎らに映す。
光はだんだん大きくなり、周囲の景色が窓越しに見渡せる程になった。
不思議なくらい人気が無い。
薄暗く遠くまでは見渡せないが、誰もいないように見えた。





「魔法省です。本夕はご来省ありがとうございます。」





女性の声がボックス内に響くと、殆ど同時にドアが開く。
急に支えを無くしてハリーが、次いで名前が押し出される。
二人が出て内部に余裕が出来たのか、以降は歩いて出てきた。

改めて周りを見渡す。
中央広間のアトリウムに人気は無い。
不気味な程の静けさで、音と呼べるものは噴水の水音くらいだ。





「こっちだ。」





皆ハリーに続いてホールを走った。
向かった先は守衛室であろう場所だったが、今は誰もいない。

速度を変えないまま金色の門を潜り、エレベーターを呼ぶ。
すぐにエレベーターは現れて、階に着くと格子扉を開いて名前達を迎え入れた。


即座にハリーが9を押す。扉は金属音を響かせながら閉まり、これまた金属音を響かせながら降り始めた。
これだけの騒音だ。誰かに気付かれてもおかしくはない。
皆が杖の在り処を確かめた。
しかしエレベーターは正常に止まり、女性のアナウンスが響いた。





「神秘部です。」





格子扉が開く。
目を凝らし警戒しながら廊下に出る。
これまで何度も夢に見たあの暗くて黒い廊下だ。
ところが人気が無く、何の気配も無い。

真っ直ぐハリーは、正面の取っ手のない黒い扉を見据えた。





「行こう。」





小声でそう告げて、ハリーが先頭に立って廊下を歩いた。
最後尾を付いて歩きながら、名前は周囲に目を配った。
夢で見るより実際はずっと薄暗く、物静かで、不気味だ。
七人分の足音が廊下に響く。
と、途中で足音が止まった。ハリーが振り向いていた。





「オーケー、いいか。
どうだろう……何人かはここに残って───見張りとして、それで───」



「それで、何かが来たら、どうやって知らせるの?
あなたはずーっと遠くかもしれないのに。」
ジニーの声は刺々しい。



「皆君と一緒に行くよ、ハリー。」
ネビルがはっきり言った。



「よし、そうしよう。」
ロンがきっぱりと言った。





ハリーは扉の方に向き直り、静かに歩き始めた。
扉まで辿り着くと、扉はまるで迎え入れるように開く。
ハリーは構わず歩き続けた。
皆に続いて名前も中へ入る。

円形の大きな部屋だ。
壁に蝋燭立てがあり、点された青い炎だけが辺りを照らしている。
薄暗い上に床も天井も黒くて分かりづらいが、取っ手の無い黒い扉が一定の間隔を保ち、壁一面に並んでいる。





「誰か扉を閉めてくれ。」





声を低めてハリーがそう言った。
最後尾の名前が扉を閉めた。
辺りは一層暗くなる。

ハリーは暫くその場を動かなかった。
暗がりに目を慣らそうとしているというよりも、目の前にある十二もの扉から正解を引き出そうと悩んでいるようだった。
皆、黙って成り行きを見守った。

そうしていると蝋燭が横に動き始めた。
この部屋の壁が回転し始めたのだ。
室内にはゴロゴロと大きな音が響き渡り、回転は徐々に速度を上げ、蝋燭の炎がネオンのようにぼやける。

それから突然回転が止まり、辺りは静けさを取り戻した。





「あれは何だったんだ?」
ロンはおっかなびっくりだ。



「どの扉から入ってきたのか分からなくするためだと思うわ。」
ジニーは然程怯えていない。



「どうやって戻るの?」
ネビルは不安そうだ。



「いや、今はそんな事問題じゃない。
シリウスを見つけるまでは出ていく必要がないんだから───」
ハリーの声は強張っていた。



「でも、シリウスの名前を呼んだりしないで!」
ハーマイオニーが慎重に囁いた。



『兎に角、進もう。』
名前は相変わらず無表情だ。



「それじゃ、ハリー、どっちに行くんだ?」
ロンが尋ねた。



「分からな───……
……夢では、エレベーターを降りたところの廊下の奥にある扉を通って、暗い部屋に入った───この部屋だ───それからもう一つの扉を通って入った部屋は、なんだか……キラキラ光って……どれか試してみよう。
正しい方向かどうか、見れば分かる。さあ。」





正面にある扉へハリーが突き進む。
皆、杖を構えて後を追った。

横目で皆が後ろから付いてくるのを確認してから、ハリーは右手の杖を握り直して、左手で扉を押した。
扉は何の抵抗も無く開いたようだった。

この部屋は扉が並ぶ部屋に比べてとても明るい。
天井から金の鎖でぶら下がっているランプが、細長い長方形の部屋を照らしている。

机が数卓。それとまず目を見張るのは部屋の中央にある巨大なガラスの水槽だ。
ここにいる全員が泳げそうなくらい大きな水槽。
中は濃い緑色の液体が並々と注がれており、半透明の白いものが魚のように漂っていた。





「これ、なんだい?」
誰ともなしにロンが尋ねた。



「さあ。」
ハリーが答えた。



「魚?」
ジニーが囁く。



「アクアビリウス・マゴット、水蛆虫だ!
パパが言ってた。魔法省で繁殖してるって!」
ルーナは何やら興奮している。



「違うわ。
脳みそよ。」
水槽を横から覗き込んでハーマイオニーはそう言った。



「脳みそ?」



『脳味噌……』
名前は首を傾げた。



「そう……一体、魔法省は何の為に?」





ハリーが水槽に近付いた。
中身を確かめているようだ。
それから皆の方へ振り返る。




「出よう。
ここじゃない。別のを試さなきゃ。」



「この部屋にも扉があるよ。」
ロンが自分達を囲む壁を指した。



「夢では、暗い部屋を通って次の部屋に行った。
あそこに戻って試すべきだと思う。」





ハリーを筆頭に一行は暗い円形の部屋に戻る。
最後に名前が部屋を出て扉を閉めようとすると、ハーマイオニーが口を開いた。




「待って!

フラグレート! 焼印!」





ハーマイオニーは空中に×印を描く。
すると黒い扉に真っ赤な×印が浮かび上がった。

そうして扉を閉め、またしても大きな音を立て扉ごと壁が回転し始める。
壁はピタリと急停止ししたが、×印が浮かび上がった扉はそのままだったので、試し済みである事が分かった。





「いい考えだよ。
オーケー、今度はこれだ───」





先程と同じようにハリーは正面の扉に向かった。
杖を構えたままで扉を押し開ける。
名前達も杖を構えて後ろに続いた。

仄暗い部屋だ。それでも微かに部屋の隅まで見渡せる。
アイスクリームディッシャーのように中央が窪んでいる長方形の部屋で、先程の部屋よりも広い。けれどがらんとしていた。

中央はボールを半分に切って載せたように丸みを帯びている。
足元は階段状になっており、その中央に向かって石の階段がボールを囲んでいた。
丸みを帯びた頂点には石の台座と、その上に石のアーチが置いてある。更にアーチにはカーテンかベールのような、黒い物が掛けられていた。





「誰かいるのか?」





そう声を掛けながら、ハリーは階段を一段下りた。
ハリーの声に答える者はいない。誰もいないのだ。
しかしアーチに掛けられた黒い物は、今しがた誰かが触れたように揺らめいている。





「用心して!」





ハーマイオニーが注意したが、ハリーは台座に近付いて行く。
名前は高台から周囲を見回し、台座に近寄るハリーを見守る。




───………………



『……。』





後ろを振り向く。誰もいない。
たった今背後で誰かが囁いたような気がしたが、名前が最後尾なので誰かがいるはずもない。

杖を握り直して再びハリーの方を見る。





「シリウス?」





台座の方へ向かってハリーが声を掛けているのが聞こえた。
しかしやはり答える者はいない。





「行きましょう。
なんだか変だわ。ハリー、さあ、行きましょう。」





階段の途中でハーマイオニーがそう言った。
けれどもハリーは動かなかった。





「ハリー、行きましょうよ。ね?」



「うん。
何を話してるんだ?」





ここに潜む誰かにと言うよりも、名前達に向けてハリーは大声でそう言った。
たった今囁き声が確かに聞こえたからだ。吐息すら感じてしまいそうな近さだった。
名前はまた背後へ振り返る。けれどもやはり誰もいない。





「誰も話なんかしてないわ、ハリー!」
ハーマイオニーはハリーに歩み寄る。



「この陰で誰かがひそひそ話してる。
ロン、君か?」



「僕はここだぜ、おい。」
ロンがアーチの傍らから姿を見せた。



「誰か他に、これが聞こえないの?」



「あたしにも聞こえるよ。
『あそこ』に人がいるんだ。」
ルーナがロンの反対からひょっこり顔を出した。



「『あそこ』ってどういう意味?
『あそこ』なんて場所はないわ。ただのアーチよ。誰かがいるような場所なんてないわ。ハリー、やめて。戻ってきて───」





ついにハーマイオニーはハリーの腕を引っ張った。
だがハリーは抵抗しているらしく、台座から離れようとしない。
加勢すべきと思ったのか名前は高台から下りようとしたが、ハーマイオニーに鋭い声で「ナマエはそこにいて!」と言われて動けなくなった。
これ以上アーチに魅入られる者を増やしたくないのだろう。





「ハリー、私達、何の為にここに来たの? シリウスよ!」



「シリウス。
うん……。」





そう言われてもハリーは未だアーチを見詰めている。
しかし少ししてハリーは台座から数歩離れ、無理矢理と言う風に視線をひき剥がした。





「行こう。」



「私、さっきからそうしようって───さあ、それじゃ行きましょう!」





ハーマイオニーは恍惚状態らしいジニーの腕を掴み、先頭に立って此方に向かって来る。
ロンはネビルの腕を掴み、同じように此方へやって来る。
全員で扉だらけの部屋へ戻った。





「あのアーチは何だったと思う?」
ハリーが誰ともなしにそう問うた。



「わからないけど、いずれにせよ、危険だったわ。」





今出てきた扉へ振り返り、ハーマイオニーは×印を空中で描いた。
一つ目の扉と同じく真っ赤な×印が浮かび上がる。

直後またも壁が回転し、そして静かになった。
迷うようにしながらもハリーは扉に近付き、押す。
しかし様子がおかしい。その場から動かない。




「どうしたの?」
ハーマイオニーが尋ねた。



「これ……鍵が掛かってる……」
今やハリーは体で扉を押しているがびくともしない。



「それじゃ、これがそうなんじゃないか?
違いないよ!」
ロンがハリーの方へ駆け寄り、一緒に扉を開けようとした。



「どいて!
アロホモーラ!」
ハーマイオニーが唱えたが、変化は無い。



「シリウスのナイフだ!」





そう半ば叫びながらハリーは、ローブの内側に手を突っ込んで、一本のナイフを取り出した。
そして、扉と壁の隙間に刃を差し込んだ。
それから一番上の隙間から一番下までスーっと走らせる。

終えると素早くナイフを引き抜き、再び肩で扉にぶつかった。
しかし扉に変化は無く、閉まったままだった。





「いいわ。この部屋は放っておきましょう。」
ハーマイオニーが覚悟したように言った。



「でも、もしここだったら?」
ロンはまだ扉を見詰めていた。



「そんなはずないわ。ハリーは夢で全部の扉を通り抜けられたんですもの。」
言いながらハーマイオニーは扉に真っ赤な×印を描く。



「あの部屋に入ってたかもしれない物、なんだかわかる?」
壁が回転を始めた時、ルーナが夢見がちに囁いた。



「どうせまた、じゅげむじゅげむでしょうよ。」





小声でハーマイオニーがそう言うと、ネビルは怖さを紛らわすように笑った。

壁が止まり、辺りに静けさが戻る。
迷うようにしながらハリーは扉を押した。





「ここだ!」





そこは眩い光が煌めく部屋だった。
薄暗い部屋から来たせいか、光は殊更眩しく感じた。

光に目が慣れるまで少しの時間を要したが、慣れるとそこに、ありとあらゆる時計が置いてある事が分かった。
大きさはまちまち、種類もまちまち。
チクタクという音が大量に、絶え間なく響いている。

部屋の奥へ進むにつれて、ミラーボールのような煌めが強まっていく。
そしてそこで光源の正体が分かった。大きな釣鐘形のクリスタルから出る光だった。





「こっちだ!」





ようやく正解を導き出してハリーは興奮しているようだった。
誰よりも早く先頭に立ち、奥にあるクリスタルのある方向へ向かって進んだ。
クリスタルは机の上に置かれ、よく見ると中には、何やらキラキラした風が渦巻いていた。





「まあ、見て!」





全員がクリスタルの傍まで来ると、ジニーが釣鐘を指差した。
何事かと皆が指された先を見る。
そこには宝石の如く美しい卵が、キラキラする風の中を漂っていた。
風により釣鐘の中で卵が上昇していき、パキパキとヒビが入ったかと思うと割れて一羽のハチドリが現れ、釣鐘の一番上まで流れていく。
その後は風に煽られたのか落下すると、ハチドリの羽は濡れたようにくしゃくしゃになり、釣鐘の底へ流れて、再び卵の中に戻った。





「立ち止まらないで!」
ハリーが注意した。



「あなただって、あの古ぼけたアーチで随分時間を無駄にしたわ!」





怒ったようにそう言ったが、ジニーはハリーの後に続いた。
クリスタルの横を通り過ぎ、その裏にある扉へと歩を進める。





「これだ。
ここを通るんだ───」





ハリーがパッと振り向いた。
まるで全員の覚悟を確かめたようだった。
名前達皆、杖を握り直す。
それを見てからハリーは改めて扉に向き直り、ゆっくりと押した。
扉は抵抗無く開いた。

扉から中へ入ってまず感じたのは寒さだ。この部屋はとても寒い。
そして図書館のように沢山の棚が並ぶ部屋だ。
名前が───ハリーもだが───夢に見た部屋である。
棚には古びた電球のような球が隙間無く置かれている。

ハリーを先頭に一行は棚の間の通路を進む。
一つ棚を進む度に、間にある薄暗く細い通路を、一つ一つ慎重に覗いた。





「九十七列目の棚だって言ってたわ。」
ハーマイオニーは小声でそう言った。



「ああ。」



「右に行くんだと思うわ。
そう……こっちが54よ……」



「杖を構えたままにして。」





ハリーに言われるまでもない、全員が杖を構えたまま、戦闘態勢で通路を進む。
一寸先は闇とまではいかないが通路の先は見通せない。





「97よ!」





小声でハーマイオニーが皆にそう伝えた。
用心の為に全員が棚の端に立ち、棚と棚との間脇の通路を見据える。
そこには誰もいないように見えた。





「シリウスは一番奥にいるんだ。
ここからじゃ、ちゃんと見えない。」





そう言ってハリーは両側に高くそびえるガラス球の、棚と棚との間の通路を進んだ。
その後を名前達が付いていく。
通り過ぎる際にガラス球のいくつかがぼんやりと光を放った。





「このすぐ近くに違いない。
もうこのへんだ……
とっても近い……」



「ハリー?」
ハーマイオニーが躊躇いながら声を掛けた。



「どこか……このあたり……」





ついに反対側の端に着いた。
そこを抜けると薄暗い蝋燭の灯りがあるばかりだった。
初めそう見えたように、やはり誰もいない。





「シリウスはもしかしたら……」
ハリーは掠れた声でそう言うと、隣の列の通路を覗いた。
「いや、もしかしたら……」
そのまた一つ先の列を見る。



「ハリー?」
ハーマイオニーがまた声を掛けた。



「なんだ?」



「ここには……シリウスはいないと思うけど。」





困惑と焦燥でハリーは近くの通路を覗いて回る。
その間は誰も口を開かず、ハリーと同じように困惑と焦燥に駆られ、自分達を囲むガラス球を見回していた。





「ハリー?」
今度はロンが声を掛けた。



「何だ?」



「これを見た?」



「何だ?」





ロンは棚に置いてあるガラス球を見詰めていた。
名前達もそれに注目する。

沢山のガラス球が並べられている。
ガラス球の下には一つ一つ、黄色く退色したラベルが棚に貼りつけられている。

ロンの見詰めるガラス球にはこう書かれていた。
十六年前の日付け。
そしてメッセージ。

S.P.T.からA.P.W.B.D.へ
闇の帝王そして
(?)ハリー・ポッター

そこへハリーが戻って来た。





「何だ?」



「これ───これ、君の名前が書いてある。」





歩み寄りながらハリーはロンの指差す方向を見た。
そこには名前達が先程確認したガラス球がある。





「僕の名前?」





予想外の事態にハリーは驚いたようだった。
素っ頓狂な声を出して、それから此方へやって来る。
前に進み出て首を伸ばし、棚に貼り付けられたラベルを読んだ。
そして、ハリーは目を見張った。





「これ、何だろう?
こんなところに、一体何で君の名前が?」
ロンは他のラベルをざっと見た。
「僕のはここにないよ。
僕達の誰もここにはない。」



『そうみたいだね。』
名前も周囲の棚を見た。



ハリーがガラス球に手を伸ばす。
「ハリー、触らない方がいいと思うわ。」
ハーマイオニーが鋭く言った。



「どうして?
これ、僕に関係のあるものだろう?」



「触らないで、ハリー。」





出し抜けにネビルはそう言った。
ハリーはネビルを見た。
ネビルの顔は汗だくで、燭台に掲げられた蝋燭の青い炎に反射し、キラキラと光っていた。





「僕の名前が書いてあるんだ。」





言って、ハリーは躊躇無く、ガラス球を手に取った。
変化が起こるのを期待した表情で、ハリーはガラス球をじっと見詰める。

手に取って数拍。しかし何も起こらない。
けれどもハリーはまだ望みを捨てず、ガラス球にべったりこびりついた埃を拭い落としている。





「よくやった、ポッター。さあ、こっちを向きたまえ。そうら、ゆっくりとね。そしてそれを私に渡すのだ。」





突然背後から聞こえた声は、遠い過去に聞き覚えのある声だった。

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